最近、抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の添付文書や適正使用ガイドを読んでいて、改めて気になることがあります。
それは、有害事象の欄に記載されている「間質性肺疾患(ILD)」という表現です。
この表現、呼吸器科以外の診療科にとっては、けっこう誤解を招きやすいのではないでしょうか?
「既存の持病としてのILDなのか?それとも薬剤による新しい副作用なのか?」
一見しただけでは判断がつきにくく、現場で戸惑う場面も多いように感じます。
そもそもILDとは?
ILDというのは、ひとつの病名ではなく、さまざまな疾患の総称です。たとえば以下のような原因があります。
- ✅ 特発性(例:IPFなど)
- ✅ 膠原病に関連するもの(例:RA-ILD、SSc-ILDなど)
- ✅ 薬剤性(例:抗がん剤、ICIなどによる)
- ✅ 環境曝露によるもの(例:過敏性肺臓炎など)
つまり、ILDという言葉には原因も経過も異なる病態がたくさん含まれているんですね。
添付文書の「ILD」は実は3タイプある?
添付文書に「ILD」と書かれていても、その中身は以下のように分かれているのではないかと思っております。
- 薬剤によって新しく発症したILD(既存のILDがない)
- もともとあった既存のILDが薬剤をきっかけに悪化したケース
- 画像上で“ILDらしい”けれど、病理学的には確定できないもの(感染や心不全との鑑別がついていないなど)
つまり、すべてを一括りに「ILD」と書いてしまうと、臨床的な対応が大きく変わる可能性があるにもかかわらず、その違いが見えにくいんです。
誤解による実際の困りごと
たとえば、他科の先生から「間質性肺疾患ですか?」と相談されたとします。
この一言だけでは…
- ICIなどの薬剤で肺障害が出たのか?
- がんのフォロー中にCTでILD様の陰影が偶然見つかったのか?
どちらを意図しているのか、すぐにはわかりません。こうした場面、意外と多いのではないでしょうか?
「薬剤性肺障害」と書いてくれたら助かるんです
現場としては、「間質性肺疾患」というあいまいな言葉ではなく、「薬剤性肺障害」や「肺障害」という表現にしてもらえたほうが、より正確に状況をイメージできます。
実際に、日本呼吸器学会からも『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き』が出ており、呼吸器科以外の先生にとっても参考になる内容が掲載されています。
表現を変えるだけで、現場がずいぶん助かる
視点 | 「間質性肺疾患」表記 | 「薬剤性肺障害」もしくは「肺障害」と表記 |
---|---|---|
他科の理解 | 既存疾患か副作用か分かりにくい | 「薬剤で起きた肺障害」と直感的に伝わる |
コンサルト | 要点が曖昧になりやすい | 状況が具体的に伝わる |
対応の早さ | 診断までに時間がかかることも | 初動が早くなりやすい |
コンサルト時に伝えるべきポイントは?
呼吸器内科にまったくかかったことのない患者さんについて、呼吸器内科に相談する際は、以下のような情報があるととても助かります。
- 薬剤歴と投与開始からの経過日数
→これ重要!!(何を飲んでいて、または、何の薬剤がいつから投与されているのかのリスト) - ILDの既往歴の有無
- 呼吸状態(SpO₂や呼吸数など)の変化
→これも重要です。普段よりもSpO2が低い場合、いきなりグレード2以上になるので、治療を意識するからです。 - 感染や心不全などの鑑別が進んでいるかどうか
→可能な範囲で。
これらをセットで伝えていただけると、診断や治療開始がスムーズになりますね。
おわりに
添付文書やガイドラインの表現ひとつで、現場の動きや認識に大きな差が生まれます。
今後、「間質性肺疾患」という表現をもう少し具体化して、「薬剤性肺障害」や「肺障害」などの明確な表記に統一していただけると、呼吸器科だけでなく、すべての診療科での誤解や混乱を減らすことにつながるのではないかと感じています。
だって、肝臓は「肝障害」、腎臓は「腎障害」って書いてありますよね。
肺も「肺障害」でいいのではないかと思っております。
用語を決める委員会の先生方にご検討をお願いできれば幸いです。
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