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肺癌や悪性腫瘍論文紹介

肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤治療の裏側に潜む“併用薬”の影響力??

本研究「IFCT-1502 CLINIVO-SNDS」では、ニボルマブを投与されたNSCLC患者の全国コホートに対し、フランスの医療データベースを活用して併用薬の投与履歴を把握し、それらが生存に与える独立した影響を詳細に検証しました。

Morphine and metformin impact immunotherapy benefit in patients with NSCLC: Results of the real-world study IFCT-1502 CLINIVO-SNDS. Elisa Gobbini et al.European Journal of Cancer

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はじめに

肺がん患者さんの多くは高齢で、心臓病や糖尿病などの慢性疾患の薬をすでに飲んでいますよね。

また、がんの痛みや症状を緩和するために鎮痛薬やステロイドなども追加されます。

でも最近の研究では、こうした「がん以外の薬(=併用薬)」が、免疫療法の効き目に影響している可能性があることがわかってきています。

たとえば、腸内細菌が免疫応答に関係していて、抗生剤やPPI(胃薬)でその細菌バランスが崩れると、免疫療法の効果が落ちるという話もあります。

この研究は、「実際にどんな薬が、免疫療法の効果にどんな影響を与えるのか?」を700人以上の実データから調べた大規模研究です。

背景

肺がん患者の多くは診断時に併存疾患を抱えており、がん関連症状の治療薬は慢性疾患の薬剤と併用されることが多い。

併用薬が免疫療法の効果に与える影響については後ろ向き研究で調査されてきたが、多くは併存疾患や腫瘍の進行度を加味した独立した予後因子の欠如によってバイアスがある。

方法

IFCT-1502 CLINIVO研究は、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした全国規模の後ろ向きコホート研究であり、二次治療以降としてニボルマブを投与された患者を対象とする。

フランスの国民医療データベース(SNDS)を用いて、ニボルマブ初回投与の90日前から30日後までの併用薬処方を抽出し、既知の悪性度の高い予後因子を考慮した上で、併用薬の免疫療法への影響を後ろ向きに検討した。

結果

医療記録と併用薬情報が利用可能な753名の患者を解析対象とした。

多変量解析により、モルヒネおよび20mg/日を超えるコルチコステロイドの使用は、病態進行度に関わらず全生存期間(OS)短縮と関連した。

一方、メトホルミンの使用はOSの延長と関連していた。

実臨床下の無増悪生存期間(rw-PFS)も同様に、モルヒネおよび高用量コルチコステロイド使用は短縮と関連した。

肝転移やECOG PSスコア≧2などの悪い予後因子もrw-PFSに影響を与えていた。

結語

本研究では、病勢の進行度にかかわらず、モルヒネおよび高用量コルチコステロイドが免疫療法の有効性を低下させることを確認した。

一方、メトホルミンは免疫療法に対して正の影響を示唆する結果が得られた。


感想です。

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どんな結果だった?

この研究には753人のNSCLC患者が含まれました。そのうち:

  • モルヒネの使用者(N = 348):モルヒネを使用していた患者では、使用していなかった患者と比較して全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)がいずれも短い結果でした(mOS: 7.5ヶ月 vs 13.6ヶ月)。
  • 高用量コルチコステロイド(>20 mg/日)使用者(N = 158):同様にOSとPFSの両方で予後不良でした。特に治療開始直前30日間での使用が最も予後不良と関連しました(mOS: 4.9ヶ月)。
  • メトホルミン使用者(N = 57):こちらはOSが有意に延長(mOS: 15.7ヶ月 vs 10.1ヶ月)した結果となりました。ただし、PFSの延長は多変量解析では有意でありませんでした。
  • その他、PPIや抗生物質(特にDNAトポイソメラーゼ阻害薬)も一部でOSやPFSへの影響が示唆されましたが、統計的有意性は限定的でした。

この研究からわかること

この研究は、過去の報告と一致する形で、高用量のステロイドやモルヒネが免疫療法の効果を損なう可能性を多変量解析によって裏付けました。

特に注目すべきは、これらの薬剤が病勢進行度とは独立して予後不良と関連する可能性が証明された点です。つまり、悪いPSや多発転移の有無を考慮しても、それとは無関係に予後悪化と関連している薬剤であるということですね。

一方で、メトホルミンは予後改善との関連が多変量解析でも確認されました。これには、抗腫瘍免疫の増強作用(例えばmTOR経路の抑制や腫瘍低酸素状態の改善)が関係している可能性があるかもしれません。

論文解釈に注意するポイント

後ろ向き研究(観察研究)であるため、「この薬が予後不良の原因である」と因果関係を断定することはできません。すなわち、薬剤Aが予後を悪化させたのか、それとももともと予後が悪い患者群に薬剤Aの投与が必要とされた結果なのかという因果と相関の問題が残ります。

PD-L1発現など免疫療法の効果に関わる指標が含まれていない。

化学療法との併用症例が含まれていないため、現在の標準治療(IO+化学療法)との整合性に注意が必要です。


🧭臨床現場でどう活かす?

本研究の結果は、免疫療法を行う際の併用薬の選定に非常に重要な示唆を与えてくれます。

  • 例えば、疼痛管理の場面では、モルヒネの使用は可能であれば代替薬の検討が望ましいでしょう。ステロイドについても、使用は必要最小限にとどめることが理想です。ただし、
    いずれも臨床上不可欠なケースが多い薬剤であるため、これらの薬が本当に免疫療法の効果を低下させる「原因」であるかどうかは明確ではありません。そのため、因果関係を検証するには、適切にデザインされた前向き研究が求められます。
  • 一方で、糖尿病などでメトホルミンを使用している患者では、免疫療法との相乗効果が期待できる可能性が示唆されています。副作用リスクが低く、使用適応が明確な症例(糖尿病合併例など)においては、メトホルミンの継続や導入を検討してもよいかもしれません。
  • 実臨床では、免疫療法導入時に併用薬のリストを確認し、その中に治療効果へ影響を及ぼす可能性のある薬剤が含まれていないかを慎重に評価する姿勢が求められます。


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