多くの場合は、何らかのがん、つまり悪性腫瘍の治療前の相談です。免疫チェックポイント阻害剤(ICI)や細胞障害性抗がん剤、分子標的薬、ADC製剤が多いですが、今回は呼吸器内科になじみのない薬剤に関してです。
最近、他科から増えているご相談のひとつがこちら:
「胸部CTで間質性肺疾患の疑いを指摘されました。これからXY製剤(呼吸器内科ではまず使わないような、最近使用可能になった分子標的薬やADC製剤※)を投与予定ですが、使用しても大丈夫でしょうか?」
※ちなみに、その薬の添付文書には「既存の間質性肺疾患がある場合は注意」と書かれていることが多いです。
この相談、たいていはがん治療を始める“前”のタイミングでやってきます。
ここで言う「間質性肺疾患(ILD)」とは、もともと患者さんが背景に持っていたILD――
たとえば特発性間質性肺炎、膠原病関連ILD、過敏性肺炎などが該当します。
呼吸器内科としては、
- ILDが本当にあるのかどうか
- あるとすればどのタイプか(特発性?膠原病?過敏性?)
といったことは、画像所見・病歴・臨床経過などからある程度は診断・推定できます。
で….困るのはその先です。
相談されている薬剤(XY製剤)について、
- 既存のILDを持つ患者に、どれくらいの頻度で薬剤性肺障害が起こるのか?
- 発症した場合、重症化・死亡リスクはどの程度か?
- 有効な治療法があるのか?治療反応性は?
…こうした肝心な情報は、我々呼吸器内科にはほとんど提供されていないのが現状です。
なぜか?
- そもそもその薬は、呼吸器内科ではまず使いません。
- 製薬会社や関連学会から、呼吸器内科の現場医師に向けた情報提供もほとんどありません。
- あるいは、そもそもその薬に関するエビデンス自体が不足しているのかもしれません。
つまり、呼吸器内科医師にとって、添付文書や適正使用ガイドに書かれている以上のことはわからない。
我々ができるのは、あくまで“間質性肺疾患があるかどうか”の判定まで。
結局のところ、呼吸器内科として言えるのはこうなってしまいます:
「背景に既存のILDがあるので、リスクを考えるとやめておいた方が無難です」
…という、極めて消極的なコメントしかできないのです。
ちなみに、これはやめてほしい
薬剤性肺障害のリスクがある薬を、背景のILDを評価せずに投与し、
何のフォローもなく突然重症化してから呼吸器内科に回ってくる――
これは、さすがに論外です。
もうひとつの大きな問題:ベネフィットの情報が共有されない
「この薬を使って大丈夫かどうか?」という判断には、リスクだけでなく、ベネフィット(治療のメリット)の情報も不可欠です。
たとえば、
- 「この薬を使えば、生存期間が大幅に延びる」
- 「他に治療の選択肢がなく、この薬しか残されていない」
といった情報が共有されれば、
呼吸器内科としてもリスクとベネフィットを天秤にかける議論ができます。
しかし実際には、そうした背景情報が共有されないまま、
「CTでILDがあるって言われたんですが、使ってもいいですか?」
とだけ聞かれるケースが非常に多いのです。
そもそも…
ここ数年で、“呼吸器内科ではまず使わないけれどILDのリスクがある薬”がどんどん増えています。
そして、そのたびに添付文書には「既存のILDがある場合は呼吸器内科に相談すること」と、さらっと書かれる。
…いや、それだけ書かれても、困るんです。
使ったことのない薬で、エビデンスも予後データも不明、ベネフィットの情報もない状態で、
「使用しても大丈夫か判断してください」と言われても――
「それ、呼吸器内科に聞かれても、わからんのです」
としか言いようがないのです。
ですので、その薬を販売している製薬会社さんや、使用を推奨している関連学会からも、
呼吸器内科の現場の医師にまで、タイムリーかつ実践的な情報が届くようにしていただけるとありがたいですね。
最後にお願いしたいこと
我々呼吸器内科も、既存のILDをもつ患者さんにおける薬剤性肺障害のリスクについて、十分な情報を持っているわけではありません。
だからこそ、お願いしたいのです。
「その薬を、その患者さんに使うメリットや治療上の重要性」
についての具体的な情報の共有を、ぜひお願いします。
その情報があれば、呼吸器内科としても、主治療科・患者さんと一緒に
リスクとベネフィットを冷静に比較検討し、現実的な落としどころを探ることができます。
この構造、もう少し何とかならんもんでしょうかね……。

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