The Risk and Reversibility of Osimertinib-Related Cardiotoxicity in a Real-World Population. Bak M, et al. J Thorac Oncol. 2025.
まず最初にまとめからいうと

以下のとおりです。
先日も似たような話題をポストしましたが、JTOにもオシメルチニブと心毒性の報告がでました。
この業界のトピックなんでしょうか??
本研究は「オシメルチニブ服用患者における心毒性の頻度とリスク因子、回復する可能性を検討したリアルワールド研究」です。
- オシメルチニブ治療をうけた非小細胞肺癌患者1126例で心毒性発生率4.7%。
- 高齢、心不全・心房細動の既往、左室ストレイン低値がリスク因子。
- 82.4%は回復し、薬剤中止群と継続群で回復率の有意差なし。
- リスク高い人は心機能モニタリングを!
まとめ:オシメルチニブは全生存期間延長のエビデンスがある薬剤です。その心毒性は4.7%と、臨床現場で感じるより多い印象です。特に、高齢者や心疾患の既往がある患者では注意が必要かもしれません。しかし、適切な介入により8割以上は回復するため、オシメルチニブのメリットとリスクを踏まえ、過度に恐れず、モニタリングを行いながら安全に使うことが大切ですね。

- 肺癌は、今もなお世界中でがん死亡原因の第1位を占める疾患です。
- 特に非小細胞肺癌(NSCLC)は進行例では5年生存率が10%未満と厳しく、治療成績向上が常に求められてきました。
- そんな中で、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性例に対する分子標的薬であるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が登場し、治療の流れは大きく変わりました。

- 第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブ(商品名:タグリッソ)は、初回治療薬として「FLAURA試験」で、従来の第1世代・第2世代EGFR-TKI(エルロチニブ、ゲフィチニブ)と比較して全生存期間(OS)の延長効果が示され、現在NCCNや本邦のガイドラインで第一選択に位置づけられています。
- また、T790M変異陽性例に対する2次治療としても、「AURA3試験」を根拠に使用され、さらに術後補助療法としても「ADAURA試験」により無病生存期間(DFS)延長が示されています。

- 一方で、「FLAURA試験」ではグレード3以上の有害事象が少ないとされていますが、「実臨床では心血管系の副作用が問題になっているのでは?」という指摘も出てきました。
- ちなみに、オシメルチニブと心血管イベントに関する別記事がありますので、詳細はそちらをご参照ください。→<こちら>
背景
- 第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるオシメルチニブは、転移性非小細胞肺癌(NSCLC)に対する一次治療として有意な生存利益を示すことが明らかにされている。
- しかし、特に実臨床においては、心毒性の潜在的リスクに対する懸念が生じている。
目的
- 本研究では、オシメルチニブ関連心毒性の発生率、危険因子、および可逆性について検討することを目的とした。
方法
- 2016年5月から2023年4月までに、2つのがんセンターでオシメルチニブによる治療を受けたNSCLC患者1126例を解析対象とした。
- オシメルチニブ関連心毒性は、オシメルチニブ関連心機能障害(ORCD)、新規発症不整脈、心臓死の複合項目として定義した。
- 追跡期間の中央値は20.6か月(10.8~35.2か月)であった。
結果
- オシメルチニブの投与期間の中央値は12.4か月であった。
- オシメルチニブ関連心毒性の発生率は4.7%であった。
- 高齢(調整ハザード比[95%信頼区間]:1.07[1.04–1.09]、p < 0.001)、心不全の既往(3.35[1.67–9.64]、p = 0.025)、心房細動の既往(3.42[1.27–9.22]、p = 0.015)、および基礎左室ストレイン低値(0.87[0.79–0.96]、p = 0.005)が、心毒性の発症と独立して関連していた。
- ORCDの回復率は82.4%であり、薬剤中止群と継続群で有意差は認められなかった。
結語
- 実臨床におけるオシメルチニブ関連心毒性の発生率は4.7%であり、そのうち3.4%が心臓専門医による介入を要するORCDであった。
- この頻度は従来報告よりも高かった。
- オシメルチニブは長期投与される薬剤であり、心毒性は死亡率の上昇とも関連することから、特に高齢者、心不全の既往歴を有する者、心房細動を有する者、基礎左室ストレインが低い者においては、厳重なモニタリングが必要である。
オシメルチニブと心血管系イベントの最近の話題

- まず大前提として、オシメルチニブは非常に有用な薬剤です一次治療でもT790M耐性後でも、EGFR変異陽性NSCLCに対して生存期間を延ばす大切な薬です。
- 患者さんにとって大きなメリットがある薬剤なので、怖がりすぎず、正しく使う姿勢を持ってください。
- ただし、最近心毒性に注意が必要だと分かってきています。以下に最近の報告をまとめてかみ砕いていきたいと思います。
心毒性の頻度
Mensah et al. Osimertinib related cardiotoxicity in patients with non-small cell lung cancer. J Clin Oncol. 2024.
オシメルチニブ治療中に約20〜30%で新規心毒性(心不全、不整脈、QT延長)が報告されています。
そのうちQT延長(QTc>500ms)は約8〜10%。
他のEGFR-TKIと比べたリスク
Anand et al. Osimertinib-Induced Cardiotoxicity. JACC CardioOncol. 2019.
オシメルチニブは、他のEGFR-TKI(エルロチニブ、アファチニブ、ゲフィチニブ)よりも心毒性リスクが高いことが示されています。
- 心不全リスク 2倍
- QT延長リスク 6.6倍
- 心房細動リスク 2倍
ただし、私も同僚もそんな実感はないそうですが、真相は如何に?
心毒性のメカニズムは??
Singh et al. Mechanism Of Cardiotoxicity Associated With Tyrosine Kinase Inhibitor Osimertinib. Circ Res. 2022.
オシメルチニブは、心筋細胞のERK経路を抑制し、細胞死を誘導する可能性が示唆されています。
長期使用で心筋障害につながる可能性があります。
Li et al. Acute osimertinib exposure induces electrocardiac changes. Front Pharmacol. 2023.
また、hERGチャネル、ナトリウムチャネル、L型カルシウムチャネルを阻害し、QT延長や伝導障害を起こす仕組みも報告されています。
注意が必要な患者背景(リスク因子)
Wang et al. Risk factors of osimertinib-related cardiotoxicity in non-small cell lung cancer. Front Oncol. 2024.
心毒性発症には以下の背景がリスク因子として挙げられています。
- 喫煙歴
- 高脂血症
- 化学療法の併用
- 左胸部への放射線治療歴
該当する患者さんでは少し注意してフォローしましょう。
実際の症例報告
Shinomiya et al. Osimertinib induced cardiomyopathy. Medicine. 2020.
76歳女性が4か月後に心筋症を発症。
オシメルチニブ中止と心不全治療で回復。
Ikebe et al. Osimertinib-induced cardiac failure with QT prolongation. Int Cancer Conf J. 2020.
84歳女性が2か月後にQT延長と心不全、トルサード・ド・ポアンツを発症。
薬剤中止後に回復。
まとめ

- 実は、私自身もそうですし、周りの同僚も、オシメルチニブの心毒性をそれほど実感する場面は少ないようです。
- やはり大規模集団で長期に観察することで、初めて明らかになってくるリスクなのかもしれません。この点については、現時点では何とも言えない部分もありますね。

- オシメルチニブはOS延長に貢献する有用な薬剤です。
- 一方で、心毒性についても十分に理解し、適切に対応する姿勢が求められます。
- 具体的には、開始前に不整脈、心不全、喫煙歴などのリスク因子を確認し、開始後は定期的にECGでQT間隔を含めたモニタリングを行うことが良いかもしれません。
- 万が一異常が認められた場合には、早めに循環器内科へ相談することが望ましいでしょう。