肺癌論文紹介

EGFR感受性遺伝子変異を有する転移性非小細胞肺癌患者において、進行後もオシメルチニブとプラチナ・ペメトレキセド併用化学療法を継続することの有効性(Patil T, et al. Lung Cancer. 2024)

The efficacy of continuing osimertinib with platinum pemetrexed chemotherapy upon progression in patients with metastatic non-small cell lung cancer harboring sensitizing EGFR mutations. Patil T, et al. Lung Cancer. 2024 Nov 25;199:108040. doi: 10.1016/j.lungcan.2024.108040. 

まず最初に、「肺癌診療ガイドライン 2024年版」の内容を基に、エクソン19欠失またはL858R変異陽性の場合のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(Stage IV)の一次治療について、簡潔に概説します。

一次治療

  1. オシメルチニブ単剤療法
    • 推奨度:1(強く推奨)、エビデンスの強さ:A
    • FLAURA試験に基づき、PFSおよびOSの延長が確認されています。毒性のプロファイルも良好で、EGFR遺伝子変異陽性例(エクソン19欠失またはL858R変異)において第一選択として強く推奨されます。
  2. エルロチニブ+血管新生阻害薬併用療法
    • 推奨度:2(弱く推奨)、エビデンスの強さ:A
    • エルロチニブにベバシズマブまたはラムシルマブを併用した治療法です。複数の試験でPFSの有意な延長が示されましたが、OSの延長には一部矛盾した結果もあり、毒性(高血圧、蛋白尿など)も考慮が必要です。
  3. ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法
    • 推奨度:2(弱く推奨)、エビデンスの強さ:A
    • NEJ009試験などで検証され、PFSおよびOSの延長が示されていますが、血液毒性(好中球減少、貧血など)が高頻度で認められる点に留意が必要です。
  4. オシメルチニブ+プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法
    • 推奨度:2(弱く推奨)、エビデンスの強さ:B
    • FLAURA2試験で検証され、PFSは有意に延長しましたが、OSの延長は確認されておらず、副作用の発現頻度も高いため、慎重な選択が求められます。

次に、一次治療においてオシメルチニブを選択した場合の、二次治療以降です。
細胞傷害性抗がん剤(+免疫チェックポイント阻害薬)が記載されております。

例)カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+アテゾリズマブ併用療法

  • 推奨度:2(弱く推奨)、エビデンスの強さ:B
  • ATTLAS試験で、PFSの有意な延長が示されていますが、OSの延長は確認されていません。サブグループ解析ではEGFR遺伝子変異陽性例でも良好な傾向が示されました。ただし、毒性(血液毒性、消化器毒性など)に注意が必要です。

尚、免疫チェックポイント阻害薬単独療法は、一次治療、二次治療において、免疫チェックポイント阻害薬単独療法は、現時点で明確な有効性は示されていません。

  • このように、オシメルチニブは、転移性EGFR変異陽性の非小細胞肺癌(NSCLC)患者さんに使用される第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)として広く知られています。
  • ただ、治療中に獲得耐性がどうしても避けられないことが課題となっており、オシメルチニブ進行後に最適な治療戦略をどう定義するかが、臨床現場で大きなテーマとなっています。
  • 現時点では、多くのガイドラインで、進行後の治療としてプラチナ製剤をベースとした化学療法が推奨されています。特に、プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法がよく使われる選択肢ですが、これに加えてオシメルチニブを継続することでさらに臨床的な利益が得られるかどうかについては、まだ不明な部分が多いです。
  • そこで、本研究では「オシメルチニブを継続しながらプラチナ製剤+ペメトレキセドを併用する治療」と「オシメルチニブを中止してプラチナ製剤+ペメトレキセドのみを行う治療」の臨床的な利益を比較しました。
  • これはランダム化試験ではまだ十分なデータが得られていないテーマですが、今回の研究は国際的な多施設共同での後ろ向きコホート研究という形で実施されています。

この結果が、進行後の治療選択を考えるうえで重要な示唆を与えてくれる可能性があるので、ぜひ注目してみてください!

序論

  • EGFR変異を有する非小細胞肺癌(NSCLC)の患者がオシメルチニブ治療中に進行した場合、次のラインのプラチナ・ペメトレキセド化学療法と併用してオシメルチニブを継続する臨床的な利益は不明である。

方法

  • この国際的多施設共同後ろ向きコホート研究では、2013年から2023年の間にオシメルチニブ治療中に進行し、次のラインのプラチナ・ペメトレキセド化学療法を受けたEGFR変異NSCLC患者159名を対象とした。
  • データの最終取得日は2023年12月31日であり、データ解析は2024年1月から6月にかけて行われた。
  • 主な評価項目は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)であり、Kaplan-Meier法を用いて解析した。
  • また、患者固有および癌固有の要因を調整した多変量Cox回帰解析を行った。

結果

  • オシメルチニブ治療中に進行したEGFR変異NSCLC患者421名が特定され、そのうち159名が事前に定められた選定基準を満たした。
  • これらの患者は2つの群に分けられた。
  • コホート1(オシメルチニブ+プラチナ・ペメトレキセド群)は50名(中央値[四分位範囲]59歳[30~83歳]、女性72.0%、アジア人22.4%)。
  • コホート2(プラチナ・ペメトレキセド単独群)は109名(中央値[四分位範囲]54歳[25~80歳]、女性56.9%、アジア人64.9%)。
  • 両群ともに喫煙歴がない患者が多く(コホート1:74.0%、コホート2:60.6%)、基準時の脳転移は3分の1の患者に認められた(コホート1:38.0%、コホート2:38.3%)。
  • 追跡期間の中央値は30ヶ月で、オシメルチニブと次のラインのプラチナ・ペメトレキセド化学療法を併用することで、PFSの有意な延長が認められた(9.0ヶ月 vs 4.5ヶ月;HR 0.49, 95% CI 0.32–0.74, p = 0.0032)。
  • さらに、オシメルチニブを初回治療として受けた患者のサブセット解析においても同様の結果が確認された(11.0ヶ月 vs 6.2ヶ月;HR 0.41, 95% CI 0.25–0.73, p = 0.002)。
  • 脳転移がない患者では、頭蓋内進行までの時間が有意に延長された(7.0ヶ月 vs 4.1ヶ月;HR 0.47, 95% CI 0.48–0.98, p = 0.01)。
  • 一方、OSに関しては、両群間で有意差は認められなかった(19ヶ月 vs 13ヶ月;HR 0.92, 95% CI 0.60–1.39, p = 0.68)。

結論および関連性

  • オシメルチニブ治療中に進行したEGFR変異NSCLC患者において、オシメルチニブと次のラインのプラチナ・ペメトレキセド化学療法を継続することで、PFSの有意な延長が得られた。しかし、OSの延長は認められなかった
  • また、この併用療法は頭蓋内進行のリスクを低減する可能性がある。
  • この研究は、オシメルチニブ進行後の治療戦略について新たな視点を提供してくれる重要な内容です。
  • 研究のポイントとして、オシメルチニブを進行後も継続しつつ、プラチナ製剤+ペメトレキセドを併用することで無増悪生存期間(PFS)が有意に延長することが示されました。特に、脳転移のない患者さんでは中枢神経系(CNS)の進行リスクが大幅に低下した点が注目されます。ただし、全生存期間(OS)の延長については有意な差はありませんでしたが、数字上では改善傾向が見られています。
  • この結果は、既存の研究、たとえば「MARIPOSA-2試験」やリアルワールドデータを補完するもので、オシメルチニブを継続することの重要性をさらに強調するものです。他の研究と比較しても、この治療アプローチは特にCNS制御の観点から価値があるといえるでしょう。
  • 一方で、この研究にはいくつかの限界があります。後ろ向き研究であるため、画像評価や進行の判定にばらつきが生じる可能性があること、また耐性メカニズムの詳細が不十分であることが指摘されています。そのため、さらなる大規模な前向き試験が必要とされる状況です。
  • また、一次治療としてオシメルチニブ単剤を選択した患者さんの場合、プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法を追加することによる副作用の懸念もあります。
  • 特に、当初PS(パフォーマンスステータス)が良くない、あるいは忍容性に課題があり単剤治療を選んだ患者さんの場合、一次治療でPSが改善しているか、副作用の懸念が解消されたうえでの選択肢になる可能性が考えられます。
  • 総じて、オシメルチニブを継続しながらプラチナ製剤+ペメトレキセドを併用する治療法は、PFSの延長やCNS制御に有用である可能性が示されています。
  • 特にCNS制御を重視したい患者さんに対しては、オシメルチニブを継続したまま細胞傷害性抗がん剤を追加する選択肢を考慮する意義があるといえるかもしれません。
  • ただし、OSへの影響が限定的であることから、患者さん個々の状況に応じた柔軟な治療選択が求められます。今後、この治療戦略がさらに明確化されるための追加研究に期待したいですね!それではまた!!

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