重症疾患関連副腎不全(CIRCI)の診断と管理に関するガイドライン(パートII):重症患者におけるSCCMおよびESICM 2017
Pastores SM, et al. Guidelines for the Diagnosis and Management of Critical Illness-Related Corticosteroid Insufficiency (CIRCI) in Critically Ill Patients (Part II): Society of Critical Care Medicine (SCCM) and European Society of Intensive Care Medicine (ESICM) 2017. Crit Care Med. 2018.
インフルエンザの入院患者にステロイドを投与すべきか?
推奨: インフルエンザに対してステロイドを使用しないことを推奨する(条件付きの推奨、非常に低いエビデンスの質)。
根拠:
- インフルエンザは世界中で毎年数百万人に影響を与え、多くの死者を出しており、その主な原因は制御されない炎症にある。
- 13件の観察研究(1917名の患者)を分析した結果、ステロイド治療は死亡リスクの増加(オッズ比3.06、95%信頼区間1.58–5.92)と関連していた。
- また、バイアスリスクの低い4つの研究でも一貫した結果(オッズ比2.82、95%信頼区間1.61–4.92)が得られ、二次感染リスクの増加が確認された。
エビデンスの質は、ランダム化比較試験の欠如、ステロイドの使用指標、タイプ、投与量、期間、およびタイミングに関する不一致のため、非常に低いと評価されました。この不確実性とステロイドの安全性への懸念を考慮し、インフルエンザに対するステロイド使用を条件付きで推奨しないこととしました。
- このガイドラインでは、インフルエンザの入院患者に対するステロイド使用は推奨されていません。
理由として、過去の観察研究からステロイド治療が死亡率や二次感染リスクの増加と関連していることが挙げられています。
また、ランダム化比較試験が行われていないため、証拠の質が非常に低いと評価されています。 - ステロイドは炎症を抑える効果があるため、理論的にはインフルエンザ患者の炎症を制御できる可能性がありますが、実際には炎症の抑制が過剰になり、感染リスクが増加するという副作用の方が問題視されています。
特に重症のケースであっても、現在のところステロイド使用はリスクが上回るとされています。 - もしステロイド使用をやむをえずに検討する場合は、慎重にリスクとベネフィットを評価し、代わりに適切な抗ウイルス療法やサポート治療を優先するべきでしょう。
アメリカ感染症学会による臨床診療ガイドライン:季節性インフルエンザの診断、治療、予防、および施設内アウトブレイク管理に関する2018年改訂版
Uyeki TM, et al. Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America: 2018 Update on Diagnosis, Treatment, Chemoprophylaxis, and Institutional Outbreak Management of Seasonal Influenzaa. Clin Infect Dis. 2019.
推奨31: 臨床医は、季節性インフルエンザの治療において、免疫モジュレーションとして免疫グロブリン製剤(例:静注免疫グロブリン)をルーチンで投与すべきではありません(A-III)。
推奨30: 臨床医は、季節性インフルエンザ、インフルエンザ関連肺炎、呼吸不全、またはARDSの治療において、ステロイド補助療法を投与しないべきです。ただし、他の理由で臨床的に必要な場合を除きます(A-III)。
- こちらはアメリカ感染症学会(IDSA)の最新ガイドラインに基づくインフルエンザ治療に関するポイントです。
このガイドラインでは、ステロイドをインフルエンザ治療の補助療法として使用することは推奨されていません。 - 理由としては、エビデンスが限定的であり、むしろリスクが上回る可能性があるからです。たとえば、ステロイドが炎症を抑える一方で、免疫反応を抑制し、二次感染(スーパーインフェクション)や他の合併症のリスクを高める可能性があります。
- したがって、ステロイドの使用は、インフルエンザ以外の明確な適応がある場合(例:基礎疾患の管理など)に限定されるべきです。また、免疫グロブリン製剤を用いた治療も、標準的な治療法としては推奨されていません。
- したがって、重症例や高齢者、持病のある方、妊婦さんなどの高リスク患者さんでは、抗ウイルス薬治療が重要になります。特に、前述の患者さんでは治療が遅れると重症化や死亡のリスクが高まるので、診断も治療もスピード勝負です。
- 抗ウイルス薬の治療期間は、薬剤の種類に応じて異なりますが、基本的には推奨されている期間でよいと言われております。ただし、肺炎やARDSのような合併症がある場合には、治療期間を延長することも検討されます。
- 重症の患者さんや治療がうまくいかない場合には、細菌が引き起こす二次感染も早めに調べる必要があります。その際には、抗ウイルス薬に加えて抗菌薬を適切に使うことが重要です。
2022 WHO:インフルエンザウイルス感染による重症疾患の臨床管理ガイドライン
Guidelines for the Clinical Management of Severe Illness from Influenza Virus Infections. WHO 2022.
「重症化が疑われる、または確認されたインフルエンザ感染者に対し、ステロイド治療を行わないことを推奨する(条件付き推奨、非常に低い質のエビデンス)」。
根拠
- エビデンスの質:
- 観察研究から得られたデータに基づきますが、ランダム化比較試験(RCT)は存在しません。
- 観察研究では、ステロイド治療による死亡リスクの増加が示唆されています。ただし、これらの結果は、適応症や時間依存バイアスによって混乱しています。
- 死亡率:
- 粗死亡率: 観察研究11件(8409名対象)において、ステロイド使用は死亡リスクを増加させる可能性が示唆されています(オッズ比: 2.84, 95%信頼区間: 2.12–3.80)。
- 調整後死亡率: 観察研究6件(1277名対象)では、ステロイド使用が死亡率を増加させる可能性が確認されました(調整オッズ比: 2.46, 95%信頼区間: 1.49–4.06)。
- 入院期間:
- ステロイド治療は、入院期間の延長や集中治療室滞在期間の増加と関連があるとされています。
2024 Focused Update:敗血症、ARDS、市中肺炎におけるコルチコステロイド使用ガイドライン
Chaudhuri D, et al. 2024 Focused Update: Guidelines on Use of Corticosteroids in Sepsis, Acute Respiratory Distress Syndrome, and Community-Acquired Pneumonia. Crit Care Med. 2024.
この論文については以前の記事で勉強しております。→<こちら>
インフルエンザに関する記載なし・・・・
・・・・・ということで。
- 重症肺炎やARDS、ILD/IPF急性増悪などの急性呼吸不全の患者さんを診ると、ステロイドを使いたくなることはよくあります。そのため、インフルエンザの重症ウイルス性肺炎でも同じように考えてしまう気持ちは非常に理解できます。ただし、インフルエンザウイルス性肺炎に関しては、現時点で死亡リスクを高める可能性が指摘されており、明確なメリットを示すエビデンスも存在しません。
そのため、インフルエンザ肺炎に対し、ステロイドの使用は基本的には控えるのが望ましいと考えます。 - 一方で、抗ウイルス薬を適切に早期から使用し、二次感染(抗菌薬使用)や併存症をしっかりと管理することが重要なポイントでしょう。
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