間質性肺疾患論文紹介検査関連

%FVCの「絶対的低下」と「相対的低下」の違いを知っていますか?

Idiopathic Pulmonary Fibrosis (an Update) and Progressive Pulmonary Fibrosis in Adults: An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Raghu G, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2022.

特発性肺線維症(IPF)や進行性肺線維症(PPF)、進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)では、FVCの変化が疾患進行を示す重要な指標になります。

評価方法として「絶対的低下(absolute decline)」と「相対的低下(relative decline)」があります。

どちらを用いるのがよいでしょうか?

「%FVCの変化ってどっちを基準にすればいいの?」
「ガイドラインでは何を採用してる?」
「過去と未来では使われる指標が変わる?」
そんな疑問にお答えしていきます!


%FVCの絶対的低下 vs 相対的低下:基本の違い

まず、簡単に「絶対的低下」と「相対的低下」の違いをざっくりと整理しましょう。

絶対的低下(Absolute Decline)相対的低下(Relative Decline)
計算方法前回%FVC−追跡時%FVC(前回%FVC – 追跡時%FVC) ÷ 前回%FVC × 100
意味合い%FVCの数値がどれだけ減少したかの%の単純な差分で表す%FVCのベースライン(最初の%FVC)からの低下率(%)を表す
メリットシンプルで計算が簡単
予後不良の指標として有用
絶対値を用いるので、異なる集団を識別できる
ベースラインFVCの影響を加味して%FVCの低下の意義を評価できる
デメリット高FVCと低FVCで影響が異なる計算がちょっとめんどくさい

ここで相対的低下(Relative Decline)のメリットの「ベースラインFVCの影響を加味して%FVCの低下の意義を評価できる。」っていうのはどういうことか解説したいと思います。

例えば、

  • 初回%FVCが60%で1年後に54%になった場合、
    • 絶対的低下は、60−54%なので、6%です。
    • 相対的低下は、(60−54)/60×100なので、10%です。
  • このように、同じ %FVC の低下でも、相対的低下を用いると影響が大きく見えることがあります。たとえば、%FVC 60% の人が 54% になった場合、絶対的な低下は 6%ポイント ですが、相対的な低下(低下率)は 10% となります。
  • 次に、具体例を挙げて解説していきます。

%FVCが高い人と低い人では、「絶対的低下」と「相対的低下」の意味合いが変わる


ケース1:FVCが高い人(例:%FVC 90%)

%FVC 90%の人が85%に低下した場合

  • 絶対的低下: 90−85=5%の低下
  • 相対的低下: (90−85)/90×100=5.56%の低下

このケースでは、絶対的低下も相対的低下もほぼ同じような数値になっています。
しかし、FVCが85%に下がったとしても、まだ肺機能は正常範囲に近いため、臨床的には大きな影響がない可能性が高いです。


ケース2:FVCが低い人(例:%FVC 50%)

%FVC 50%の人が45%に低下した場合

  • 絶対的低下: 50−45=5%の低下
  • 相対的低下: (50−45)/50×100=10%の低下

この場合、同じ5%の絶対的低下であっても、相対的低下では10%の減少と計算されます。
FVC 50%の人がさらに45%まで低下すると、日常生活への影響が大きくなるため、臨床的には重要な変化として扱われることが多いです。


ケース3:FVCが極端に低い人(例:%FVC 30%)

%FVC 30%の人が25%に低下した場合

  • 絶対的低下: 30−25=5%の低下
  • 相対的低下: (30−25)/30×100=16.67%の低下

このケースでは、相対的低下が大きくなり、疾患の進行がより深刻に見えることが分かります。
FVC 30%というのはすでに重症な状態であり、さらに25%に低下すると、酸素療法が必要になったり、日常生活の制限が大きくなる可能性が高いです。

さらに例を挙げます。

  • %FVC が 100% の人が 10%ポイント の絶対的な低下をして 90% になった場合、相対的低下も 10% です。

  • しかし、%FVC が 50% の人が 10%ポイント の絶対的な低下をして 40% になった場合、相対的低下は 20% になります。

  • このとき、絶対的な低下が 10%ポイントであっても、その意味は異なります

  • 相対的に見ると、%FVC 100% の人に比べて、%FVC 50% の人の相対的低下は 2倍(10% vs. 20%) となります。

  • このように、相対的低下はベースライン %FVC からの低下率を表すため、ベースライン %FVC に応じた低下の意義を適切に評価できる のです。


実際の臨床ではどう考えるべきか?


FVCが高い人(例:90%)FVCが低い人(例:50%以下)
5%の絶対的低下の影響軽度(肺機能に余裕あり)重度(すでに低いため影響大)
相対的低下の割合5.56%(低め)10%~15%以上(大きく見える)
考慮すべき指標絶対的低下を主に見る絶対的低下+相対的低下も参考

このように、患者のFVCレベルによって、絶対的低下と相対的低下の意味合いが変わるため、どちらの指標を重視するかを考えることが大切です。



ガイドラインでは「絶対的低下」を推奨

現在の2022 ATS/ERS/JRS/ALATガイドラインでは、絶対的低下を基準として採用しています。


ちなみに、進行性肺線維症(PPF)の診断基準として、以下の条件が示されています。

対象:IPF以外の既知または不明な病因によるILDを有し、画像診断で肺線維症が認められる患者。

PPFの定義:
過去1年以内に以下の3つの基準のうち少なくとも2つを満たし、他の原因が考えられない場合にPPFと診断する。

  1. 呼吸器症状の悪化
  2. 生理学的な疾患進行の証拠(以下のいずれか)
    • 1年間で %FVC が絶対値で 5%以上低下
    • 1年間で DLCO(ヘモグロビン補正後)が絶対値で 10%以上低下
  3. 画像診断での疾患進行の証拠

補足事項:

  • PPFの診断には、他の要因(感染症、心不全、治療の影響など)による悪化を除外することが重要。
  • 特にDLCOの低下はPPF以外の要因でも起こるため、FVCやHRCTを併用した評価が推奨される。
  • PPFは疾患の「診断」ではなく、「臨床的な疾患進行の状態」を示す概念である。

なぜ「絶対的低下」が選ばれたのか?

ガイドラインが「絶対的低下」を推奨する理由 は以下の通りです。

IPFに関する過去の研究で、絶対的低下の方が死亡リスクの予測に優れていることが示されている
絶対的低下の方が計算がシンプルで、異なるFVCレベルの患者を公平に評価しやすい
臨床試験でも絶対的低下が主要評価項目として使用されることが多い

PPF vs. PF-ILD の基準比較

参考までに、PPFとPF-ILD基準を示します。

  • PPFの基準は、ガイドライン策定に関与する専門家のコンセンサスに基づいて決められたものであり、その有用性が臨床試験で検証されたわけではありません。いわば、権威ある専門家の見解に基づいた基準です。
  • 一方、PF-ILDの基準は学会が公式に定めたものではなく、もともとは臨床試験の組み入れ基準として用いられたものです。しかし、この基準を採用した臨床試験が複数存在し、その結果から一定の有用性が確認されています。
項目PPF(進行性肺線維症)PF-ILD(INBUILD試験)
対象疾患IPF以外 の線維化性ILDIPF以外 の線維化性ILD
評価期間過去 1年過去 24か月以内
診断基準以下の 3つのうち2つ以上を満たす以下の 3つのうち1つ以上を満たす
1. 呼吸器症状症状の悪化(息切れ、咳嗽など)症状の悪化
2. 生理学的変化(肺機能)%FVC の絶対的低下 5%以上 または DLCO の絶対的低下 10%以上FVC の相対的低下 10%以上 または FVC の 5〜10%低下 + 症状悪化 or 画像変化
3. 画像所見HRCTでの線維化進行HRCTでの線維化進行



『時代』や『臨床試験』ごとに異なる指標

過去には相対的低下が重視されていた時期もあり、すべての臨床試験が絶対的低下を採用しているわけではありません。

試験によっては、相対的低下を評価指標としているものもあります。

「この試験ではFVCのどの指標を採用しているのか?」を確認することが重要です。


今後のガイドライン変更の可能性

現在は絶対的低下が推奨されていますが、将来的には変更される可能性もあります。

例えば、
✅ 新たな研究で相対的低下の方がより正確な予後予測ができると判明すれば、相対的低下が主流に戻る可能性がある
✅ 技術の進歩によりFVC測定の精度が向上すれば、新たな指標が導入される可能性もある

つまり、FVCの評価方法は、今後も議論され、進化していく可能性がある ということです。


まとめ

📢 FVCの評価:絶対的低下 vs. 相対的低下

現在のガイドライン → 絶対的低下(Absolute Decline)を推奨
過去の試験 → 相対的低下(Relative Decline)を評価指標とするものもあり
相対的低下の有用性FVCが低い症例では、影響を適切に評価できる
FVCが低い場合絶対的評価+相対的評価の組み合わせが適切!
PPF vs. PF-ILD
 📌 PPF → 専門家のコンセンサスで決定(臨床試験での検証なし)
 📌 PF-ILD → 臨床試験の組み入れ基準からスタートし、有用性が確認されている
試験によって評価指標が異なるため要確認!
今後、新たな研究で評価基準が変わる可能性もあり

📌 「この試験ではFVCのどの指標を使っているのか?」をチェックすることが重要! 💡

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