Kinnosuke Matsumoto et al. Impact of preexisting interstitial lung disease on pneumonitis and survival during first-line immune checkpoint inhibitor-based therapy in non-small cell lung cancer. European Journal of Cancer. 2026.
一言でいうと、進行・再発NSCLCに対して1次治療としてICIを使った患者では、治療前からILDがあるとICI関連肺臓炎が約2倍多く、OSも短かった。
さらにILDのなかでもprobable UIP/UIP patternが特にハイリスクだった、という日本15施設・1340例の後ろ向き研究です。
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はじめに

肺癌診療ではICIが一次治療の中心になっていますが、実診療で困るのが、「もともとILDがある患者にICIをどこまで使ってよいのか?」という問題ですね。
ILD患者は薬剤性肺障害を起こしやすい一方、こうした患者は前向き臨床試験から除外されることが多く、実臨床で欲しいデータがあまりありませんでした。
これまでにもILD患者におけるICI関連肺臓炎の報告はありますが、多くは既治療例のICI単剤で、“1st-line ICI-based therapy”のまとまったデータが少なかったわけです。

さらに、「ILDがある・ない」だけでなく、
そのILDがどんなHRCT patternなのか?
まで踏み込んだ点が、この研究のポイントです。
過去にはUIPとnon-UIPで予後が違う可能性が示唆されていましたが、症例数が少なく結論は出ていませんでした。
そこで今回は、ILDの有無→肺臓炎・OS、さらにILD患者ではHRCT patternや治療レジメン→肺臓炎・OSという順番で検討しています。
背景
既存の間質性肺疾患(ILD)を有する非小細胞肺癌(NSCLC)患者に対する一次治療としての免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ベース治療については、エビデンスが依然として限られている。
本研究では、既存ILDの有無に基づいて肺臓炎のリスクと生存を評価し、ILD患者におけるリスク層別化について検討した。
方法
本多施設後ろ向きコホート研究には、2017~2022年に日本の15施設で一次治療としてICIベース治療を受けた進行または再発NSCLC患者1340例を組み入れた。
既存ILDおよび高分解能CT(HRCT)patternについて中央判定を行った。
肺臓炎および全生存期間(OS)はFine–GrayモデルおよびCoxモデルを用いて解析した。
結果
1340例のうち158例(11.8%)に既存ILDを認めた。
既存ILDは、
- any-grade肺臓炎(調整subdistribution hazard ratio[sHR]2.64、95%CI1.91–3.65)のリスク上昇と関連。
- Grade ≥3肺臓炎(調整sHR 2.18、95% CI 1.37–3.47)のリスク上昇と関連。
- OS不良とも関連(調整HR 1.36、95% CI 1.12–1.66)。
肺臓炎発症後には死亡リスクが増加し、とくにGrade ≥3肺臓炎で顕著であった(調整HR 2.25、95% CI 1.71–2.96)。
また肺臓炎発症後の臨床経過はILD患者でより不良であった。
ILD患者では、probable UIP /UIP patternが肺臓炎リスク上昇(調整sHR 2.18、95% CI 1.27–3.74)およびOS短縮(調整HR 2.88、95% CI 1.80–4.61)と関連していた。
結語
一次治療としてICIベース治療を受けた患者において、既存ILDは肺臓炎リスク上昇および生存期間短縮と関連していた。
ILD患者では、probable UIP/UIP patternによって、とくに転帰不良なサブグループを同定できる可能性がある。
したがって治療前HRCT評価は、患者ごとのリスク・ベネフィット評価に有用である可能性がある。

感想です。
どんな結果だった?
結果のまとめ
| アウトカム | ILDあり | ILDなし | 調整後効果量 |
|---|---|---|---|
| Any-grade pneumonitis 累積発生率 | 40.3% | 17.0% | sHR 2.64(95% CI 1.91–3.65) |
| Grade ≥3 pneumonitis 累積発生率 | 20.7% | 8.7% | sHR 2.18(95% CI 1.37–3.47) |
| OS中央値 | 15.1か月 | 21.1か月 | HR 1.36(95% CI 1.12–1.66) |
| Any-grade pneumonitis発症後の死亡 | ― | ― | HR 1.43(95% CI 1.18–1.73) |
| Grade ≥3 pneumonitis発症後の死亡 | ― | ― | HR 2.25(95% CI 1.71–2.96) |
1.既存ILDがあると肺臓炎がかなり多い
既存ILDありではany-grade pneumonitisの累積発生率が40.3%、ILDなしでは17.0%。
Grade ≥3でも20.7% vs 8.7%でした(Fig.1)。

多変量解析でも、
- any-grade:adjusted sHR 2.64(95% CI 1.91–3.65、P<0.001)
- Grade ≥3:adjusted sHR 2.18(95% CI 1.37–3.47、P<0.001)
でした。つまり背景因子だけでは説明しきれず、既存ILDそのものが肺臓炎リスクと強く関連していたという結果です。
Supplementary Table S1を見ると、12か月時点ですでにany-grade pneumonitisはILDあり32.7%(95% CI 25.3–40.1)、ILDなし14.5%(95% CI 12.5–16.5)。Grade ≥3も17.3%(95% CI 11.4–23.3)vs 7.6%(95% CI 6.1–9.1)です。リスク差はかなり早期から出ています。
2.ILD患者ではOSも短かった
OS中央値は、
ILDあり 15.1か月 vs ILDなし 21.1か月
で、未調整HR 1.37(95% CI 1.13–1.66)、多変量解析でもHR 1.36(95% CI 1.12–1.66、P=0.002)でした。

3.肺臓炎を起こした後の予後も悪い
肺臓炎を時間依存性共変量として扱ったCox解析では、
- any-grade pneumonitis発症後:adjusted HR 1.43(95% CI 1.18–1.73、P<0.001)
- Grade ≥3発症後:adjusted HR 2.25(95% CI 1.71–2.96、P<0.001)
と、とくに重症肺臓炎を起こした後の死亡リスク上昇が大きくなっています。
肺臓炎を発症した患者だけを見ると、発症時期はILDあり3.0か月、ILDなし3.8か月で有意差なし。入院率、ステロイド使用、追加免疫抑制療法にも差はありませんでした。
しかし、その後に悪化した割合は22.0% vs 10.4%(P=0.012)とILD患者で明らかに高くなっています。
さらに悪化例ではDADまたはmixed DAD/OP patternが多く、ILDの有無によらず同様の傾向でした。
「ILD患者は肺臓炎を起こしやすい」だけでなく、起こした後の経過も悪くなりやすいという点は、臨床的にはかなり重要だと思います。
4.この論文で一番興味深いのは“UIPっぽさ”
ILD 158例をHRCT pattern別にみると、any-grade pneumonitisの累積発生率は、
UIP 52.4%
probable UIP 52.1%
indeterminate for UIP 41.4%
alternative diagnosis 30.0%
でした(Gray’s P=0.020)。
多変量解析ではprobable UIP/UIPをまとめると、alternative diagnosis/indeterminate for UIPと比較して、
adjusted sHR 2.18(95% CI 1.27–3.74、P=0.005)でした。
OSについても、
- UIP:6.8か月
- probable UIP:10.6か月
- alternative diagnosis:15.3か月
- indeterminate for UIP:22.7か月
とかなり大きな差があり、probable UIP/UIPは多変量解析でもadjusted HR 2.88(95% CI 1.80–4.61、P<0.001)でした。
Figure 2を見ると、この違いは視覚的にもかなり分かりやすいです。特にUIP/probable UIP群では肺臓炎の累積発生率が早期から上昇し、OS曲線も下方に位置しています。
5.ICI+化学療法は危険なのか?
ILD患者では単純比較すると肺臓炎の累積発生率は、ICI+化学療法 45.3% vs ICI単独 31.9%で、sHR 1.90(95% CI 1.12–3.23)でした。
ところが多変量解析では、adjusted sHR 1.74(95% CI 0.89–3.42、P=0.11)となり、有意ではありません。
一方OSはICI+化学療法で悪く、adjusted HR 1.77(95% CI 1.05–3.00、P=0.033)でした。
解釈はお任せします。
論文解釈に注意するポイント
1st-line ICI-based therapyという現在の実臨床に近い状況で、ILDの存在が肺臓炎だけでなくOSにも関連していたことが重要ポイントでしょうか。
さらに、単なるILDの有無だけでなく、HRCT pattern、とくにprobable UIP/UIPまで見ればリスク層別化できる可能性を示しています。
既存研究でもILD患者ではICI関連肺臓炎が多いことは知られており、著者らが引用している過去のNSCLC研究ではany-gradeがおよそ29~31%、Grade ≥3がおよそ12~19%でした。この研究の結果はその方向性と整合しており、そのうえで長期のOSまで評価したことが新しい点です。
また肺臓炎の「発症」だけで終わらず、発症後の死亡リスクまでtime-dependent Coxで評価したところもよいですね。Grade ≥3肺臓炎後の死亡HRが2.25という結果は、重症肺臓炎が単なる有害事象ではなく、その後の患者経過と強く関連するイベントであることを示しています。
そして「ILDあり」だけではなく、HRCTで「probable UIP/UIPかどうかを見る」というのもポイントでしょう。
注意点 リミテーション
- 後ろ向き研究なので因果関係は示せない。
- 「ICIを使うべきか」を答える研究デザインではない。あくまでも参考。
- ILD 158例、probable UIP/UIP 52例とサブグループは小さい。
- 肺臓炎の診断・治療が施設ごとの実臨床に依存している。
- 肺機能がない症例がある。
- 日本人だけのコホートである。
まとめ
この研究が教えてくれるのは、ICI-based therapyを行った場合のリスク層別化です。この線引きは、論文を臨床に落とし込むうえでかなり大事だと思いますね。
あとは、「肺癌+ILDでICIを使うときは、ILDの有無だけでなく“HRCT pattern”を見る。特にprobable UIP/UIPは肺臓炎・予後ともに要注意!」ということでしょう。
一方で、観察研究ですので、「ICIがILD患者の予後を悪化させる」ことを証明した研究ではないという点は忘れない方がよいでしょう。著者らの結論も、ICIを避けるというより、治療前HRCTによるrisk–benefit assessmentを提案するところに留まっています。

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