論文紹介喘息

吸入ステロイド薬の用量と有害事象の発生頻度の関連(Bloom CI, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024.)

Association of Dose of Inhaled Corticosteroids and Frequency of Adverse Events.

  • 吸入ステロイド薬(ICS)は、呼吸器症状や肺機能の改善させ、喘息発作を予防し、死亡率を低下させるので、喘息治療ののキードラッグと言えます。
  • ガイドラインでは、良好な喘息コントロールを達成するために、可能な限り最小の用量を処方することが推奨されてます1 2
  • ICSの最大の効果の80~90%は、低用量ICS(フルチカゾン換算で100–200 μg)だけで達成されると考えられています3 4
  • しかし、臨床現場では、低用量で十分にコントロール可能な患者に対して、過剰に高用量のICSが継続されることが結構あります 5
  • 経口ステロイドの副作用として、心血管疾患、骨粗鬆症、白内障、副腎抑制、肥満、糖尿病などがあるので、我々はなるべく使用量や使用期間を最小限にしようとしています。
  • しかし。ICSに関する最近の研究では以下の点が報告されています。
    1. 複数のランダム化臨床試験から得られた視床下部-下垂体軸データに基づき、高用量ICSの約3分の2が全身的に吸収されることが示された 6
    2. 大規模な血漿のメタボロミクスプロファイリング研究で、喘息における低用量ICS使用に関連した広範な副腎抑制が明らかになった 7
  • そんなICSの用量に関する大規模調査の結果です。それでは!!

背景

吸入ステロイド薬(ICS)は喘息治療の基盤であり、罹患率や死亡率を大幅に改善する。一方、経口ステロイド薬の副作用はよく知られているが、ICSの副作用については十分に明らかにされていない。

目的

喘息患者における短期間のICS使用がもたらす副作用のリスクを明らかにすること

方法

  • イギリス全国規模のデータベースであるClinical Practice Research Datalink AurumおよびClinical Practice Research Datalink GOLDを用いて、喘息を有する成人を対象とした観察研究を実施した。
  • 曝露因子は新規のICS使用ありなし
  • アウトカムは12か月間における主要心血管有害事象(MACE)、不整脈、肺塞栓症(PE)、および肺炎の発症。
  • 主要解析:曝露群と非曝露群間の交絡をバランスさせるために、安定化逆確率治療重み付け(IPTW法)を用いたコホート法を採用した。
  • 二次解析として、ネスト型症例対照研究および自己対照症例シリーズを含めた。
  • ICS使用はカテゴリ変数および連続変数として扱った。
  • 絶対リスク(Absolute risk)は、重み付けされた柔軟なパラメトリックモデル(weighted flexible parametric model)を用いて推定した。

主な結果

  • 主コホート(162,202人)の解析において、1日あたり中用量(201–599 μg)以上のICSで全てのアウトカムに関連が認められた(ハザード比[HR]
    1. MACE 2.63[95%信頼区間(CI), 1.66–4.15]
    2. 不整脈 2.21[95% CI, 1.60–3.04]
    3. PE 2.10[95% CI, 1.37–3.22]
    4. 肺炎 2.25[95% CI, 1.77–2.85]
  • 1日あたり高用量(≥600 μg)でのHRは以下のとおり
    1. MACE 4.63[95% CI, 2.62–8.17]
    2. 不整脈 2.91[95% CI, 1.72–4.91]
    3. PE 3.32[95% CI, 1.69–6.50]
    4. 肺炎 4.09[95% CI, 2.98–5.60])
  • 低用量のICSではいずれのアウトカムとも関連は認められなかった。
  • 二次解析でも同様の結果が得られた。
  • 12か月間ICSを201–599 μg使用した場合の有害事象を1件引き起こすのに必要な人数(Number Needed to Harm, NNH)は以下の通りである。
    1. MACE 473(95% CI, 344–754)
    2. 不整脈 567(95% CI, 395–1,006)
    3. PE 1,221(95% CI, 744–3,388)
    4. 肺炎 230(95% CI, 177–327)。
  • ICSを600 μg以上使用した場合のNNHは以下の通りである。
    1. MACE 224(95% CI, 148–461)
    2. 不整脈 396(95% CI, 228–1,523)
    3. PE 577(95% CI, 309–4,311)
    4. 肺炎 93(95% CI, 69–141)

補足:Number Needed to Harm(NNH)とは?

NNHは、「1件の有害事象を引き起こすのに必要な治療人数」を示します。

値が大きいほど有害事象が起きにくい(リスクが低い)ことを意味します。

値が小さいほど有害事象が起きやすい(リスクが高い)ことを意味します。

この結果が示唆すること

  1. 用量依存的なリスク増加:
    • ICSの使用量が増えると、有害事象のリスクが高まることを意味します(NNHが小さくなる)。
  2. リスクの頻度:
    • 肺炎(NNHが93)は、高用量ICS使用時に特にリスクが高い。
    • 一方で、MACEや肺塞栓症(NNHが224、577)は比較的リスクが低い(頻度が低い)。
  3. 臨床的意義:
    • ガイドラインで推奨される最小有効用量のICSを使用することが重要。
    • 不必要に高用量のICSを使用することは、有害事象のリスクを増大させる可能性がある。

結論

短期間の低用量ICS使用は副作用と関連しなかった。

一方、中~高用量のICS使用では心血管イベント、肺塞栓症、肺炎のリスク増加が認められたが、頻度は低かった。

医療従事者は、最も低い有効用量のICSを使用するというガイドラインの推奨を遵守することが重要である。

高用量ICSを長く続けると時間の経過とともに心血管や肺塞栓、肺炎のリスクが上昇してしまう可能性があるんですね・・・

でもこの論文ではICSを使用しないことの喘息悪化リスクについても述べていますね。適切な量のICSの継続が必要という点ではこれまでどおりですね。

「現在の量で喘息安定しているから、ICSの量を高用量のままでOK」という無難な戦略ではなくて、「安定しているからICSの量を減らしていきましょう」でも、「喘息である以上は、最低限のICSは継続してくださいね。」というガイドラインの推奨のとおりでいいんですね!!

  1. British Thoracic Society. BTS/SIGN British guideline on the management of asthma. London: British Thoracic Society; 2019 ↩︎
  2. Global Initiative for Asthma. Global strategy for asthma management and prevention, 2023. Fontana, WI: Global Initiative for Asthma; 2020 ↩︎
  3. Masoli M, Holt S, Weatherall M, Beasley R. Dose-response relationship of inhaled budesonide in adult asthma: a meta-analysis. Eur Respir J 2004;23:552–558. ↩︎
  4. Beasley R, Harper J, Bird G, Maijers I, Weatherall M, Pavord ID, et al. Inhaled corticosteroid therapy in adult asthma: time for a new therapeutic dose terminology. Am J Respir Crit Care Med 2019;199:1471–1477. ↩︎
  5. Bloom CI, de Preux L, Sheikh A, Quint JK. Health and cost impact of stepping down asthma medication for UK patients, 2001–2017: a population-based observational study. PLoS Med 2020;17:e1003145. ↩︎
  6. Maijers I, Kearns N, Harper J, Weatherall M, Beasley R. Oral steroid-sparing effect of high-dose inhaled corticosteroids in asthma. Eur Respir J 2020;55:1901147. ↩︎
  7. Kachroo P, Stewart ID, Kelly RS, Stav M, Mendez K, Dahlin A, et al. Metabolomic profiling reveals extensive adrenal suppression due to inhaled corticosteroid therapy in asthma. Nat Med 2022;28:814–822. ↩︎

タイトルとURLをコピーしました