スポンサーリンク
スポンサーリンク
論文紹介集中治療

長期的な人工呼吸管理を受けた重症患者の長期予後について(CHEST. 2025)

Prolonged mechanical ventilation in critically ill patients: six-month mortality, care pathways, and quality of life.
Paul N, Buse ER, Grunow JJ, Schaller SJ, Spies CD, Edel A, Weiss B. Chest. 2025 Jan 27:S0012-3692(25)00131-X. doi: 10.1016/j.chest.2025.01.018.

スポンサーリンク
スポンサーリンク

まず最初に結論からいうと

以下のとおりです。

本研究は、集中治療室(ICU)で長期人工呼吸(PMV)を受けた患者90名の6か月後の転帰を詳細に分析したものです。結果として、PMVを受けた患者の死亡率は高く、特に人工呼吸からの離脱ができなかった患者では極めて不良な予後が示されました。また、健康関連QOLの低下も大きな問題となりました。

生存率と死亡率

  • ICU在室中に49名(約4分の3)が生存、21名(約4分の1)が死亡。
  • ICU退院後6か月以内にさらに20名が死亡。
  • 特に、人工呼吸からの離脱ができなかった患者の65%が6か月以内に死亡。

ケア施設の移動が多い

  • ICU退院後、中央値3回(四分位範囲 [2, 5])の施設間移動を経験。
  • 離脱に成功した患者の方がケア施設の移動回数が多い。
  • 離脱成功群では50%が自宅復帰、離脱失敗群では12%のみ自宅復帰。

再入院率が高い

  • 6か月間で全患者の46%が再入院。

健康関連QOL(HrQoL)の低下

  • ICU生存退院者のうち、6か月後に「良好なHrQoL」を示したのはわずか9%だった。
  • 離脱に成功した患者の方がHrQoLは良好だったが、それでも一般集団と比較すると低かった。

本研究は、多施設で実施されたステップドウェッジ・クラスター無作為化比較試験である「集中治療後の回復促進(Enhanced Recovery after Intensive Care, ERIC)」試験の二次解析ですが、PMVを受けなかった患者を比較対照にしていないので、解釈に注意が必要です。

「人工呼吸は命を救うが、その先の生活は?」

  • ICUで人工呼吸管理を受ける患者は少なくありませんが、その中でも21日以上の長期管理が必要となるケースが増えています。
  • PMVを受けた患者の多くは、人工呼吸からの離脱に成功する一方で、高い死亡率や生活の質の低下、医療費負担の増大といった課題に直面します。
  • 本研究では、ドイツのICUでPMVを受けた患者の転帰を追跡し、長期的な死亡率、ケアの流れ、そして健康関連の生活の質(HrQoL)について分析しました。
  • その結果、PMVを受けた患者の半数が離脱に成功したものの、多くは生活の質が低下し、医療費の負担も大きいことがわかりました。
  • 呼吸器内科医としては、ICUにおけるPMV導入の判断をする際に、単に生命維持だけでなく、退院後の生活の質や医療資源の適切な配分についても考慮する必要があります。
  • 「延命」だけがゴールではなく、患者のその後の生活をどう考えるべきか。本研究は、PMVの導入を検討する際に重要な視点を提供しています。あなたなら、どう選択しますか?

背景

  • ICUで長期の人工呼吸管理(PMV)を受けた患者における長期死亡率、ケアの経路、および健康関連QOL(HrQoL)に関する知見は限られている。

リサーチクエスチョン

  • 離脱の成功状況によって層別化した侵襲的PMV患者の長期死亡率、ケアの経路、およびHrQoLはどのようなものか?

研究デザインと方法

  • クラスター無作為化対照試験である「Enhanced Recovery after Intensive Care」試験に参加した患者の二次解析を実施した。
  • 本研究では、2つのICUクラスターにおいて治療を受け、侵襲的PMV(気管挿管または気管切開による21日以上の管理、もしくは気管切開による4日以上の管理)を受けた患者を対象とした。
  • 離脱の成否、死亡率、ケア施設の移動、再入院、およびHrQoLに関するデータをICU退院後6か月間追跡した。

結果

  • ICUにおいてPMVを受けた90例のうち、46%(41/90例)が死亡し、その内訳はICU内死亡が21例、ICU退院後6か月以内の死亡が20例であった。
  • 生存退院した69例のうち、25%(17/69例)は離脱できず、75%(52/69例)は6か月以内に離脱に成功した。
  • 患者は6か月間に中央値3回(四分位範囲 [Q1, Q3]: 2, 5)のケア施設移動を経験し、離脱成功群ではケア施設移動回数が多かった(中央値4回 [Q1, Q3: 2, 5] vs 2回 [1, 3]、p=0.004)。
  • 6か月後の再入院率は46%であった。
  • 離脱に成功した患者の半数は自宅へ移行したが、離脱に失敗した患者は主に離脱支援センターから介護施設へ移行するか死亡した。
  • 離脱に失敗した患者は、離脱に成功した患者と比較して6か月間の調整quality-adjusted)生存日数が少なかった(中央値0日 [Q1, Q3: 0, 32.6] vs 73.1日 [23.2, 135]、p=0.002)。

結語

  • PMVを受けICUから生存退院した患者のうち、4分の3は離脱に成功したが、彼らのHrQoLは低下していた。
  • PMVの実施にあたっては、患者の離脱可能性およびHrQoLの制限を受け入れる意思を考慮する必要がある。

もう少し詳しい結果

PMVを受けた患者の死亡率は高く、特に人工呼吸からの離脱ができなかった患者では極めて不良な予後が示されました。

  1. 死亡率が高い
    • ICU在室中に21名(約4分の1)が死亡。
    • ICU退院後6か月以内にさらに20名が死亡。
    • 特に、人工呼吸からの離脱ができなかった患者の65%が6か月以内に死亡。
  2. ケア施設の移動が多い
    • ICU退院後、中央値3回(四分位範囲 [2, 5])の施設間移動を経験。
    • 離脱に成功した患者の方がケア施設の移動回数が多い。
    • 離脱成功群では50%が自宅復帰、離脱失敗群では12%のみ自宅復帰。
  3. 再入院率が高い
    • 6か月間で全患者の46%が再入院。
  4. HrQoLの低下
    • 離脱失敗群では死亡率が高く、HrQoLも低いままであった。
    • 離脱成功群でも、ICU退院後の生活の質は一般集団と比較すると大幅に低下。

PMV患者の転帰としては、離脱できたかできなかったかに関わらず、長期的なHrQoLが低いことも重要かもしれません。

  • 6か月後の時点でICU生存退院者のうち、良好なHrQoLを示したのはわずか9%。
  • 離脱成功者であっても、健康関連QOLは一般集団よりも低い。
  • 離脱できない場合の死亡率は極めて高い。
  • PMVを導入する際には、患者の価値観や家族の希望を十分に考慮すべき?

PMV導入の判断に慎重な検討が必要であることが示唆されるかもしれませんね。



まとめ

「長期人工呼吸のその先を考える」

  • 本研究では、ICUでPMVを受けた患者の6か月後の転帰を追跡しました。
  • その結果、人工呼吸から離脱できなかった患者の多くが6か月以内に死亡し、QOLも著しく低下していることが明らかになりました。
  • 私たちがここで考えるべきことは、「人工呼吸を続けることが、本当に患者さんのためになるのか?」という点です。長期人工呼吸は、生命を延ばす可能性がある一方で、成功しなければ厳しい現実が待っています。患者が望む人生の質や、家族の思いに寄り添った選択が必要です。
  • 一方で、どのような患者がPMVを回避できるのか、またPMVを受けても転帰やQOLの低下を最小限に抑えられるのかといった予測因子は明らかではありません。また、この研究はPMVを受けなかった患者を比較対照にしていないので、一概にPMVをしない方がいいとはいえません。
  • 今後、大規模な研究によりこれらの因子が解明されれば、PMVの適応となる患者像がより明確になる可能性があります。つまり、患者毎でPMVが有益なのかそうでないのかを判断できる材料になるかもしれません。
  • 医療技術の進歩により、長期人工呼吸が可能になった今だからこそ、「どのような生き方をしたいか」を話し合うことが大切ではないでしょうか。
  • 患者さん、ご家族、医療従事者がともに未来を見据え、最善の決断をするための参考となる研究結果でした。

タイトルとURLをコピーしました