Approach to the Evaluation and Management of Interstitial Lung Abnormalities. An Official American Thoracic Society Clinical Statement. AJRCCM2025
「Interstitial Lung Abnormalities(ILA)とは?」
〜胸部CTで見つかる“微妙な肺の影”をどう扱うべきか〜
ILA関連記事はこちら↓
【徹底解説①】ILAとILDの定義とその境界──新ATSガイドライン(2025)を読み解く
【徹底解説②】新しいILAのステートメント(ATS2025)〜ILAとみなされないCT所見とは?どんな場合にILDと判断する?〜
はじめに:「ILAって結局、放っておいていいのか?」問題
- 胸部CTで偶然見つかった「すりガラス影」や「網状影」
- 症状なし、肺機能も正常
- 「でも線維化っぽい……これ、どうする?」
2025年にATSが出した最新のステートメントでは、こうしたILAに対しての定義・評価・管理の指針を明確化しました。
このブログでは、迷わず判断できるように、ILAとILDの定義・違い・実際のアプローチを一気に整理します。
🧠 ILA・ILDは「線」で考える
概念 | 状態 | 説明 |
---|---|---|
正常肺 | 正常 | 所見なし・症状なし |
ILA | 異常ありだが「病気」未満 | CT所見あり・症状なし・PFT正常 |
ILD | 間質性肺疾患 | 所見+症状 or PFT異常 or 進行 or 線維化パターン |
ポイント:「CTで何かある」だけではILDとは限らない。
だが、ILAも進行してILDになることがある。
つまり、正常な肺からILAを経てILDに至るまで、これらは一連の連続的な変化(スペクトラム)として捉えられます。
ILAとは何か?──画像で定義される“微妙な異常”
新しい定義(2025年版)
- 両側性かつ非依存性(non-dependent)の肺実質異常
- 以下のいずれかを含む:
- Ground-glass opacity
- Reticulation
- Traction bronchiectasis
- Honeycombing
- Lung distortion
- 定義された6つの肺領域のいずれかで上記の所見が5%以上に及ぶこと
- ILDの基準は満たさない
❗除外される所見
- Nonemphysematous cysts(非気腫性嚢胞)
- Centrilobular nodularity(小葉中心性結節影)
- PPFE(胸膜実質線維弾性症)
以上はILAを決める所見に含まれません。
💡 非依存性(non-dependent)とは?
- 仰臥位CTで見える背側の異常陰影が、腹臥位CTでは消失する → 重力性変化(dependent opacity)=ILAではない
- 仰臥位で見えた異常が腹臥位でも残る → 非依存性(non-dependent)=“本物”のILA所見と考える
🧬 ILAの分類(Fleischner分類と概ね同じ)
分類 | 所見 | 線維化の有無 |
---|---|---|
Nonsubpleural | 胸膜下でない | ± |
Subpleural nonfibrotic | 胸膜下優位+非線維化 | − |
Subpleural fibrotic | 胸膜下優位+線維化(distortion, traction bronchiectasis, honeycombing) | + |
fibrotic ILAはILDへの進行リスクが高く、最も注目されているタイプ
旧定義との違い(重要!)
観点 | 旧定義 | 新定義(2025年) |
---|---|---|
偶発性 | 必須 | 不要 |
高リスク群(RA, 家族歴など) | 除外 | 含む |
両側性 | 必須 | 基本維持(例外あり) |
偶発性とか高リスクってどういうこと?
以前のILAの定義(Fleischner Society 2015)では、次のような制限がありました。
✔️「たまたま撮ったCTで偶然見つかった異常のみ」
✔️「もともと肺疾患が疑われていた人や高リスクな人は対象外」
つまり、「スクリーニング的に見つかったものだけがILA」として扱われていたんです。
2025年の新定義では、この“偶発性”と”高リスク”の条件が削除されました。つまり、
高リスク患者(RA、家族歴、職業曝露など)であっても、CTで定義を満たせばILAと診断してOK
💡なぜ変わったのか?
- 現場で使いにくかった
→ 放射線科医は「これは偶発的か?」なんて知るすべがない - 高リスク群にもILAが見つかるし、進行する例も多い
→ 除外する合理的な理由がない - 診断基準は画像ベースであるべき
→ 背景ではなく、「何が写っているか」で判断
なぜ「両側性」が原則なの?
- 多くのILDは両側性に出現する
- 片側だけの所見は、一時的・良性の可能性が高い
👉 だから、一側性の異常があってもすぐにILAとは呼ばないようにしているのです。
では、例外として「片側性でもILAとみなしてよい」のはどんなとき?
状況 | なぜ例外として認められるのか |
---|---|
家族性肺線維症やMUC5B変異保有者 | ごく早期から進行する可能性があるため、片側性でも注意深く観察すべき |
膠原病(RA、SScなど) | 片側から始まって、将来的に両側性に進展する可能性があるため |
既知の職業性曝露歴あり(粉塵、石綿など) | 片側性でも曝露関連性が高く、肺線維症の前段階である可能性があるため |
ポイント:通常の片側性異常は除外、でもハイリスク患者では「将来のILDの前触れ」かもしれない
定義としては「両側性が必要」と明記しつつも、
「一部の高リスク集団では、片側性の所見にも臨床的意義がある」と認めている。
定義された6つの肺領域のいずれかで上記の所見が5%以上とは?
胸部CTを評価する際、肺全体を以下の6つのゾーン(肺領域)に分けて考えます:
側 | 区分 | 解剖学的目印 |
---|---|---|
右肺 | 上 | 大動脈弓下縁より上 |
右肺 | 中 | 大動脈弓下縁と右下肺静脈の間 |
右肺 | 下 | 右下肺静脈より下 |
左肺 | 上 | 同上(大動脈弓下縁より上) |
左肺 | 中 | 同上 |
左肺 | 下 | 同上 |
このように、左右3ゾーンずつ、計6ゾーンに分けて視覚的に評価します。
「5%以上」とはどうやって判断する?
この部分は完全に厳密な定量ではなく、視覚的な“目視推定”による割合評価です。
✅ 判断基準のイメージ:
- 例えば、右下肺ゾーンを見たときに…
- そのゾーン全体に対して、明らかな異常所見(GGO、reticulation、traction bronchiectasisなど)が占めている範囲が5%以上あれば、それはILAと診断してよいということ。
- 原則としては、反対側の肺にも何らかの異常が見られることが必要ですが、その広がりは必ずしも5%以上である必要はありません。
なぜ「5%」というしきい値?
- 小さすぎる異常(1〜2%など)は、偽陽性・誤差・体位依存性変化の可能性がある
- 一方、5%以上なら“本物”としての信頼度が上がる
- これは完全な科学的裏付けというよりも、臨床的な実用性に基づいた経験則的基準
注意:この「5%」は1ゾーン単位の評価であり、肺全体の5%ではない
(※肺全体の5%という基準はILDの線維化評価で使用されます)
例で理解しよう!
例1:
- CTを見て、右下肺ゾーンの10%くらいにreticulationがある
- 反対側には多少の所見
✅ → 右下ゾーンが5%以上異常なので、ILAの定義に合致
例2:
- 右上ゾーンにごく小さな1cmのGGO(肺区域全体の1〜2%)
- 他ゾーンには異常なし
❌ → 5%未満 → ILAには当てはまらない
例3:
- 右中下ゾーンと左中下ゾーンにそれぞれ3%程度のReticulation
❌ → いずれのゾーンでも5%未満 → ILAには当てはまらない
例4:
- 左下肺と右下肺ゾーンの両方に10〜15%のGGO+reticulation
- 総合的に全肺の線維化範囲は10%超
→ ILAかILDかは他の基準(症状・PFT)による。画像所見だけなら“ILD疑い”レベル。臨床的な評価が必要。
(詳細は後述)
まとめ:この基準の意義
項目 | 内容 |
---|---|
なにを評価する? | 肺の各ゾーンにおける異常の面積割合 |
基準値 | 1ゾーンで5%以上の異常所見 |
なぜ必要? | 小さすぎる異常を除外し、診断の一貫性と信頼性を保つため |
評価方法 | 目視推定(放射線科医 or 胸部専門医が判断) |
ILAの定義で使う? | ✅ はい(肺ゾーン) |
ILDの定義で使う? | ❌ いいえ(ILDでは肺全体の5%以上が基準) |
ILA → ILDへのスイッチ:どこが境界線?
これに関する詳細は、別記事で解説予定ですが、
ILAとILDの違いの画像的なポイントの一つは「どこに線維化所見が5%以上あるか」です。
※線維化の所見:honeycombing や traction bronchiectasis を伴う reticulation
簡単にいうと、
ILAは「定義された肺領域のいずれかで5%以上」ですが、
ILDは「肺全体で5%以上」です。
まとめ表
項目 | ILA | ILD |
---|---|---|
CT異常 | あり | あり |
症状 | なし | あり(ILDに起因するもの) |
肺機能 | 正常 | ・FVC、TLC、DLCOなど低下あり ・進行性の悪化(PPFの基準を満たす) |
CT画像 | ILAに該当する所見が、 定義された肺領域の5%超 | ・honeycombing や traction bronchiectasis を伴う reticulation が、 肺全体の5%超 ・CTで進行が確認される ・UIP/probable UIP、fibrotic HP、fibrotic NSIP のパターン |
病理 | 生検の推奨なし | UIP/probable UIP、fibrotic HP、fibrotic NSIP など |
対応 | 経過観察 | 場合により治療 |
よくある疑問 Q&A
Q1. 症状がなくてもILD?
→ ありえます。以下のような典型例では、症状・PFT正常でもILDと判断されうる。
- NSIP(→ びまん性すりガラス)
- 非線維化型HP(→ 小葉中心性結節)
- サルコイドーシス、OPなどのパターン性疾患
Q2. Reticulationだけだとどうなる?
→ 進行が証明されればILD、なければILAのまま。
Q3. Bronchiolectasisってどう扱うの?
→ 今回は予後との関連が乏しいとされ、ILD定義から除外。
Q4. ILAを生検すべき?
→ 推奨されない。線維化のパターンや進行、症状で判断する。
最後に:ILAは“予兆”の段階。見逃すな。
- ILAは必ずしも病気ではないが、
- ILDの前段階であることもある。
- 重要なのは、「見て終わり」ではなく、
症状、進行、パターン性の有無に注目して、定期的に再評価する姿勢です。
次回以降でさらに掘り下げます。

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