肺の病気と聞くと「呼吸のことだけを考えればいい」と思いがちですが、実は体重の管理こそが、間質性肺疾患(ILD)の進行や生活の質を大きく左右するカギになるのです。
はじめに:肺だけを診ていて大丈夫?
ILDというと、どうしても肺の線維化や酸素療法、薬物治療の話に焦点が当たりがちです。
特に特発性肺線維症(IPF)や非特異的間質性肺炎(NSIP)、膠原病関連ILDなど、病態も治療法も多様で、医師も患者さんも「呼吸」に注目してしまいます。
しかし実は、「体重管理」が予後を左右する“見逃せないキーポイント”であることをご存じでしょうか?
IPFでは“やせすぎ”がリスクに
IPFの治療は、現在では抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブなど)が中心です。しかしこれらの薬には食欲低下や下痢といった副作用があり、知らず知らずのうちに体重が減少してしまう方も少なくありません。
この体重減少、ただの副作用では済まされません。
体重や筋肉量の低下は、呼吸筋の弱化や免疫力の低下につながり、結果として予後を悪化させる要因になるのです。
NSIPや膠原病ILDでは“太りすぎ”に注意!
一方、NSIPや膠原病に伴うILDでは、治療にステロイドや免疫抑制剤が使われます。
これらの薬は食欲亢進や脂肪の蓄積、糖尿病の誘発など、体重増加や筋力低下を引き起こしやすい副作用を持っています。
特に問題となるのが「筋力低下による活動量の低下 → さらに太る → さらに動けない」という悪循環です。
じゃあ、どうすればいいの?――栄養指導+リハビリの力
こうした状況に対して重要なのが、多職種連携によるサポートです。
- 栄養士による個別栄養指導で、患者さんの状態に応じた食事バランスをアドバイス
- 理学療法士による呼吸リハビリで、無理のない範囲で筋力や運動耐容能を維持
- 医師・看護師・薬剤師との連携で、副作用への早期対応とモチベーション維持
目指すのは、「やせすぎず、太りすぎず、動ける身体を保つ」こと。
つまり、“適正な体重”と“運動耐容能”を維持することが、ILD治療における重要な戦略なのです。
目標体重は「BMI」を基準に。年齢に合った至適BMIを知ろう
目安となるのが、BMI(ボディ・マス・インデックス:体格指数)です。
BMIの計算方法
BMI = 体重(kg)÷ 身長(m)²
例)身長160cm、体重55kgの場合
→ 55 ÷ (1.6)² = 21.5
日本人の年齢別「目標BMI」
日本肥満学会や厚生労働省のガイドラインでは、年齢によって健康的とされるBMIの範囲が異なります。
年齢層 | 推奨されるBMIの目安(標準体重の指標) |
---|---|
18~49歳 | 18.5 ~ 24.9 |
50~64歳 | 20.0 ~ 25.0 |
65歳以上 | 21.5 ~ 25.0 |
特に65歳以上の高齢者では、BMIが21未満になると栄養リスクが高まり、フレイルやサルコペニアのリスクが増すといわれています。
つまり、「痩せすぎていないこと」が、呼吸筋や免疫機能を保つためにも重要なのです。
至適BMIとは? ― 日本人にとって最も健康的な範囲
様々な研究から、日本人における「最も健康的で死亡率が低いBMI」は22前後とされています。これを「至適BMI」と呼びます。
ILDの患者さんでは、
- 痩せすぎ(BMI < 20) → 筋肉量の低下、呼吸筋の弱化、栄養不良
- 太りすぎ(BMI > 25) → 活動性低下、糖尿病の悪化、リハビリ困難
といった問題が起こりやすくなります。
したがって、多くの患者さんでは「BMI 22〜25」程度を目標とするのが理想的です。
一人ひとりに合った“目標体重”を設定しよう
- 「痩せすぎ」も「太りすぎ」もILDの予後に悪影響
- 目標BMIは、年齢や体力に応じて柔軟に設定
- 65歳以上ではBMI 21.5以上を目指すのが安心
体重の変化は、肺の状態だけでなく全身の健康状態を映し出すサインです。
適正体重の維持は、リハビリ効果の向上・副作用予防・生活の質(QOL)の向上にもつながります。
まとめ:体重は、肺の未来を映す鏡
ILDの治療では、薬や画像だけでなく、「身体全体を診る視点」が大切です。
体重の変化は、薬の副作用だけでなく、活動量、栄養状態、筋肉量など、さまざまな要素のシグナルです。
これを見逃さずに対応できるかどうかが、患者さんのQOLや予後に大きく影響します。
若手医師の方々も、患者さん自身も、「肺だけじゃなく、体重や生活にも目を向ける」ことを意識してみてください。

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