Ryerson CJ et al. Update of the International Multidisciplinary Classification of the Interstitial Pneumonias: An ERS/ATS Statement. European Respiratory Journal 2025.
2025年に発表されたERS/ATSステートメントでは、間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)の分類が刷新されました。なかでも注目されるのが、「Combined patterns(複合パターン)」という新たなカテゴリーの登場です。
従来、複数のパターンが併存する症例は「分類不能(unclassifiable IIP)」として扱われてきました。
しかしこの「分類不能」という枠組みには複合型以外にも、
1)検査不足によって診断が不確かな症例、
2)治療介入後に本来の病態が不明瞭になった症例、
3)さらには新しい疾患概念に該当する可能性のある症例
までが一括して含まれており、診断や治療の方針を立てにくくする要因となっていました。
今回のステートメントでは、こうした症例の中でも複数の既知パターンが同時に存在するケースに「複合型」という新たな枠組みを与えることで、より明確で実践的な診療判断を可能にすることを目指しています。
Combined patterns(複合パターン)とは?
Combined patterns(複合パターン)とは、一人の患者の肺に複数の異なるILDパターンが同時に存在する状態を指します。
CT、病理、臨床像がそれぞれ異なるパターンを示すこともあり、診断や治療方針の決定が難しいことが多いのが特徴です。
たとえば、ある肺区域にUIPの所見があり、別の区域にNSIPが見られる場合や、UIPの病変にOPが重なっているようなケースが該当します。
従来の2013年ATS/ERS分類では、このような症例は「Unclassifiable IIP(分類不能IIP)」として扱われていました。
しかしその枠組みでは、臨床的な特徴や予後が十分に整理されず、診療上の明確な指針が立てにくいという課題がありました。
今回の2025年の分類では、こうした症例を「Combined patterns」として独立したカテゴリーに再定義し、診断や治療方針を考えるうえでの実践的な枠組みになっています

代表的な組み合わせの例

文献より引用。
組み合わせ例 | 臨床的背景・特徴 |
---|---|
PPFE + UIP | PPFE患者で下葉にUIPが共存することがある。下葉のUIPパターンが優位だと、特発性ならIPFとして扱われることも多い。予後不良。 |
NSIP + OP | 皮膚筋炎・多発性筋炎などに多い。 |
UIP + その他のパターン | CTD-ILDや過敏性肺炎などで多くみられる。UIPがあれば予後はUIPが支配。 線維性HPでは、UIP±BIP±NSIP±PPFEパターンという恐ろしい組み合わせもありえる |
ILD + ILD以外の異常 | 例:CTD-ILDに感染症、気腫、胸膜病変などが重複。 |
combined pulmonary fibrosis and emphysema(CPFE:肺線維症 + 肺気腫) | 喫煙歴のある症例で典型的。予後不良。 |
Airspace enlargement with fibrosis (AEF:気腔拡大 + 線維化) | 喫煙関連ILDに多くみられる。 |
granulomatous OP, GL-ILD | 肉芽腫性変化+リンパ増殖+OP。 |
HP + 肺胞蛋白症(PAP) | 免疫異常に伴う重複病変。 |
Familial Pulmonary Fibrosis | 多彩なパターンが同時に存在しやすい。 |



臨床上の注意点
- 診断が難しい
複数パターンが同時に存在すると「どのパターンの疾患に属するのか」が不明瞭になります。
そのため 多職種カンファレンス(MDD) で、最も優位なパターンはどれか判断し、診断していくことになります。 - 予後は支配的パターンが主導することが多い
複数のパターンがあっても、その中の優勢なパターンが、治療や予後に影響することが多いと思います。
しかし、UIPパターンが含まれる or 優勢なら治療反応性や予後は不良になることが多いとされています。 - 非ILDとの合併にも注意
感染、肺気腫、胸膜病変など、画像異常の一部がILD以外の要素によることもある。
診断過程でILD以外の影響についてよく検討する必要があります。 - 病因との関連を考える
特にCTD-ILDやHPなどの二次性間質性肺炎では、複合パターンが出やすい。
したがって、背景疾患が何なのかを丁寧に調査することが欠かせません。
まとめ
- Combined patterns は、2025年のERS/ATSステートメントで新しく独立した概念。
- UIP+PPFE、NSIP+OP、CPFEなど、多様な組み合わせが臨床で遭遇する。
- UIPが含まれる場合は、治療や予後はUIP主導で考える。
- 診断・治療には MDDと「優位パターンの特定」 が不可欠。
- 複合パターンは二次性の病態が多く、原因疾患の同定が重要。
この新しい枠組みを理解することで、複雑な症例でもより整理されたアプローチが可能になり、診療の質向上に直結します。
👉 若手医師向けのポイント:
画像も病理も混在していて、どこから手をつけたらいいかわからない…」そんな症例にこそ、このCombined patternsの視点が活きます。
焦らず、どのパターンが病理・画像に存在し、どのパターン支配的かを見極めましょう。
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【新国際分類2025】間質性肺炎の新しい整理法 – 背景と全体像を押さえよう
【新国際分類2025】その2 間質性肺炎診断はこう進める!―実践的アプローチ解説―
【新国際分類2025】その3 Interstitital patternsとAlveolar filling patternsの全体像とパターン分類
【新国際分類2025】その4 Usual Interstitial Pneumonia(UIP)はただの画像・病理パターン―“特発性”か“二次性”かの見極めが重要
【新国際分類2025】その5 Nonspecific interstitial pneumonia(NSIP)
【新国際分類2025】その6 気管支中心性間質性肺炎(Bronchiolocentric Interstitial Pneumonia: BIP)ってな~に?
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【新国際分類2025】その10 Organising Pneumonia(OP)を極める
【新国際分類2025】その11 Respiratory bronchiolitis interstitial lung disease(RB-ILD)を理解する ―ほぼ喫煙関連?
【新国際分類2025】その12 Alveolar Macrophage Pneumonia(AMP)―DIPからAMPへ

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