Ryerson CJ et al. Update of the International Multidisciplinary Classification of the Interstitial Pneumonias: An ERS/ATS Statement. European Respiratory Journal 2025.
Lymphoid Interstitial Pneumonia(LIP)は、間質性肺炎の中でも比較的まれなパターンです。
そして、胸部CTでLIPパターンを見かけたとき、「特発性LIPという疾患かどうか」を考えるよりも、「二次性の原因がないか?」をまず確認することが重要です。
今回の2025年ERS/ATSステートメントでは、その点が強調されており、実臨床において役立つ知見が含まれています。
本記事では、LIPの基本情報、臨床像、病理、画像所見、そして2013年のステートメントとの違いについてわかりやすく解説します。
LIPとは?
特発性LIPや二次性LIPは、「反応性肺リンパ増殖(reactive pulmonary lymphoid hyperplasia)」の一部に分類されるびまん性間質性肺疾患です。特徴的なのは、肺胞中隔に沿ってリンパ球や形質細胞がびまん性に浸潤することです。
重要なのは、LIPが“特発性”として発症することは非常にまれだという点です。
多くは何らかの基礎疾患に伴って発症する「二次性LIP」です。
LIP の臨床・画像・病理的特徴(英日対照表)
項目 | 英語原文 | 日本語訳 |
---|---|---|
Clinical | Presentation: Insidious onset with slow progression. Risk factors: No clear age or sex predilection for idiopathic LIP. Risk factors for secondary LIP vary with underlying aetiology. | 臨床像: 潜行性の発症で、進行は緩徐。 リスク因子: 特発性LIPには、明確な年齢や性別の好発傾向はない。 二次性LIPでは、基礎となる病因によって異なる。 |
Radiologic | Mid to lower lobe predominant thin-walled lung cysts with – reticulation, – ground glass opacity, – bronchovascular thickening, – and perilymphatic interstitial thickening; randomly distributed or lower lobe predominant thin-walled cysts may be the only or dominant finding. | 中葉から下葉を中心にみられる薄壁性の肺嚢胞で、 – 網状影、 – すりガラス影、 – 気管支血管束の肥厚、 – リンパ路周囲の間質の肥厚 を伴う。 また、ランダムあるいは下葉優位に分布する薄壁性嚢胞が唯一または主要な所見である場合もある。 |
Pathologic | Dense and diffuse interstitial infiltrate of lymphocytes and plasma cells expanding the alveolar septa, often with peribronchial and peribronchiolar lymphoid follicles, sometimes showing germinal centers. Lymphoplasmacytic infiltrate is polyclonal. Dutcher bodies are absent. | リンパ球および形質細胞の密でびまん性の間質浸潤がみられ、肺胞中隔が肥厚。 この浸潤はしばしば気管支周囲および細気管支周囲にリンパ濾胞を形成し、 ときどき胚中心を伴うこともある。 リンパ球と形質細胞からなる浸潤は多クローン性であり、 Dutcher小体は認められません。 |
Dutcher小体(Dutcher bodies):
形質細胞の核内に見える偽核内封入体様の構造のことを指す。
形質細胞に特徴的に見られる所見で、特に悪性リンパ腫や骨髄腫などの腫瘍性疾患でみられる。
臨床像:「まず二次性を疑う」が鉄則
私自身、これまでに特発性LIPを診断した経験はありません。
LIPパターンを見たときは、何らかの基礎疾患に伴う“二次性”である可能性をまず検討することが重要です。
二次性LIPの代表的な原因
- 自己免疫疾患(CTD):特にシェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など
- 免疫不全:先天性免疫不全、HIV感染など
- 慢性感染:EBウイルス、HTLV-1など
- その他:免疫異常、血液疾患など
- 多クローン性高γグロブリン血症がよく見られます(異常蛋白血症の検索も重要)
精査のポイント
LIPパターンが疑われた場合には、広範な臨床・血清学的・画像検査を行い、二次性の原因を徹底的に除外する必要があります。
実臨床では、原因疾患としてシェーグレン症候群が多いのではないかと思います。

病理所見:LIPに特徴的な組織像
LIPの病理学的特徴は以下のとおり:
- 肺胞中隔に沿ってびまん性にリンパ球および形質細胞が浸潤
- 反応性リンパ濾胞が気管支血管束やリンパ路に沿って形成される
- 線維化は最小限または存在しないのが一般的

鑑別診断に注意
- IgG4関連疾患
- 肉芽腫性・リンパ球性間質性肺炎(GL-ILD)
- MALTリンパ腫:結節性に出現し、びまん性ではないことが多い
- 非線維化性のNSIP:NSIPの視点からみると、リンパ球の浸潤はLIPと比較して軽度であることが多く、また画像上では嚢胞性変化はほとんど認められません。この点が、両者を区別する際の重要なポイントとなります。かつてLIPとされていた症例の多くは、現在では非線維化型NSIPに再分類されることが多いです。
胸部CT所見:嚢胞がカギになる
LIPの典型的な画像所見は以下のとおり:
- 両側性のすりガラス影(GGO):びまん性または斑状
- 小葉中心性および胸膜直下の小結節
- 気管支血管束の肥厚
- ランダムに分布する薄壁嚢胞(約70%で出現)


基本的に以下のように、リンパ路が豊富な部位に陰影がでやすいとされております。
肺内でリンパ路が豊富な主な部位
1. 小葉間隔壁
- 肺小葉と肺小葉の間にある薄い線維性構造で、リンパ管・静脈が走行しています。
- CT上で“リンパ路に沿った陰影”として最も代表的に指摘される場所です。
2. 気管支血管束周囲
- 気管支と肺動脈が一緒に走る「気管支血管束」の周囲は、リンパ管が密集している部位です。
- 特に中枢側(肺門近く)でその密度が高く、リンパ路性の病変が集中しやすいです。
3. 胸膜直下
- 肺の表面に近い領域にもリンパ管が存在し、胸膜直下の病変や結節として認識されることがあります。
- 肺外へリンパを排出する終末路でもあるため、肺から縦隔リンパ節への移行が起きる場所でもあります。

よく見られるリンパ路関連のCT所見:
- 小葉間隔壁に沿った線状影・結節
- 気管支血管束に沿った濃厚なすりガラス影・結節
- 胸膜下に並ぶびまん性の粒状影
リンパ路に沿った所見が知られている疾患:
- サルコイドーシス
- LIP(リンパ性間質性肺炎)
- MALTリンパ腫やIgG4関連肺疾患
2013年との違い
● 2013年ATS/ERSステートメント
- LIPは「稀な特発性IIP(特発性間質性肺炎)」の1つに分類
- CT所見のうち「嚢胞」が強調されていた
- 多くの“LIP”症例が現在では非線維化NSIPに再分類されると指摘されていた
● 2025年ERS/ATSステートメント(今回)
- LIPは「反応性リンパ増殖の一形態」と位置付けられ、二次性を含めた実用的な分類へと拡張
- 診断には「パターン」と「最終診断」を分けて考えるという新しい枠組みが導入
- 診断確信度(confidence level)をMDDで評価することが推奨されている
- 特発性LIPは極めてまれであり、“まず二次性を疑う”というスタンスが明確化
まとめ
- LIPは特発性は激レアで、まず二次性を考える疾患。特にシェーグレン症候群。
- CTはGGO+ランダムな薄壁嚢胞が典型。
- 病理はリンパ球・形質細胞のびまん性浸潤(線維化は軽微)。MALT/IgG関連/GL-ILD/非線維化NSIPをしっかり鑑別。
過去の記事はこちら
【新国際分類2025】間質性肺炎の新しい整理法 – 背景と全体像を押さえよう
【新国際分類2025】その2 間質性肺炎診断はこう進める!―実践的アプローチ解説―
【新国際分類2025】その3 Interstitital patternsとAlveolar filling patternsの全体像とパターン分類
【新国際分類2025】その4 Usual Interstitial Pneumonia(UIP)はただの画像・病理パターン―“特発性”か“二次性”かの見極めが重要
【新国際分類2025】その5 Nonspecific interstitial pneumonia(NSIP)
【新国際分類2025】その6 気管支中心性間質性肺炎(Bronchiolocentric Interstitial Pneumonia: BIP)ってな~に?

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