今回は、特発性肺線維症(IPF)に関する論説がAm J Respir Crit Care Medに掲載されたので、ご紹介します。
最近では、間質性肺疾患(ILD)に関連する肺高血圧症(PH)に関する論文が増えてきている印象があり、今後しばらくはILD-PHをテーマにした研究や話題がさらに増えていくかもしれませんね。
A Twist in the Fibrotic Tale: The Overlooked Vasculopathy in Idiopathic Pulmonary Fibrosis. Tonelli AR, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2025.
IPFは「線維化」だけじゃない?
IPFといえば、どうしても「線維化」に注目が集まりがちですが、実は肺血管の病変(とくにPH)も重要な病態ですね【1】。
論説では、Nathanら【2】による大規模データベースを用いた研究が紹介されています。
これは、肺移植のために米国臓器移植ネットワーク(OPTN)に登録された10,797人のIPF患者の中から、2回以上の右心カテーテル検査(RHC)を受けた496人を対象にしたものです。
肺血管抵抗(PVR)の経過は?
この研究では、PVRの中央値が年間0.8ウッド単位(WU)ずつ上昇していたことが示されました。さらに、
- 初回RHCで46.8%の患者がPHを有していたのに対し、
- 最終RHCでは64.3%に増加していたそうです。
また、PHの診断における定義の違いも明らかになっています。
- 第5回世界肺高血圧症シンポジウム(WSPH)【3】の定義では27%、
- 第7回WSPH【4】の定義では49%と、大きく差がありました。
「定義を変えるだけで診断される割合が大きく変わる」ということを示しており、臨床的にも重要なポイントですね。
PVRの変化には個人差が大きい?
PVRの変化は一様ではなく、
- 約29%の患者でPVRが低下しており、
- 一方で、28.6%の患者では年間2WU以上の急速な上昇がみられましたとのことです。
特に、ベースラインPVRが低い(3WU未満)患者ほど、上昇スピードが早い傾向があったそうです。
これはちょっと意外ですよね。最初は軽度に見えても、その後ぐんと悪化する患者さんがいるということですね。
この研究の限界は?
もちろん、注意すべき点もあります。
この研究は移植目的のデータベースを用いた後ろ向き研究であるため、以下のような情報が欠如しており、PVRの変化に対する影響が不明です。
- 吸入トレプロスチニルの使用状況(2021年承認)
- IPF治療薬(ピルフェニドンやニンテダニブ)
- 酸素補充の条件(安静時/運動時/睡眠時)
また、RHCを2回以上受けた患者は全体の4.6%に過ぎず、「何らかの悪化が疑われた人に偏っている」可能性もあります(選択バイアスですね)。
では臨床ではどう活かす?
この論説で筆者が特に強調していたのは、
「IPF患者に対して、RHCを一度きりで終わらせず、必要があれば繰り返し評価すべき」
という点です。
高齢で虚弱な方が多いIPF患者では、RHCに対して慎重になることが多いですが、治療の選択肢が増えてきた今、「PHを見逃さない」ための再評価がますます重要になってきます。
・・・・ただし、実際には呼吸器内科単独でRHCを実施している施設は限られており、多くの場合、循環器内科との連携や協力が必要になります。
さらに、コストや手技の負担を考えると、簡単に実施できるものではないという現実もありますね。
今後の期待:前向き研究で答えを探る
将来的には、DeciPHer ILD(NCT06388421)のような前向き研究により、
- 年間PVR 2WU以上の進行例に早期治療が有効か?
- PVRが下がった患者は予後が良いのか?
といった臨床上の重要な問いに答えが出てくるかもしれません。
まとめ
✔ IPFでは「線維化」だけでなく、「血管病変」も重要
✔ PVRは一定の割合で急激に悪化する人がいる
✔ RHCは1回だけでなく、必要に応じて再評価が必要かも
✔ これからの研究が、治療開始のタイミングや予後評価に役立つ可能性がある
IPFの「もう一つの顔」に気づかせてくれる、非常に示唆に富んだ論説でしたね。
臨床でも、PHを念頭においた評価や治療を意識していきたいところです😊
来年の呼吸器学会の総会でも、ILD-PHネタが一段と多くなっているかも??
- Shlobin OA, Adir Y, Barbera JA, et al. Pulmonary hypertension associated with lung diseases. Eur Respir J. 2024;64(4):2401200.
- Nathan SD, Kim HC, King CS, Aryal S, Thomas C, Kattih Z, Shlobin OA, Khangoora V, Chandel A. Serial Pulmonary Hemodynamics in Patients with IPF Listed for Lung Transplant. Am J Respir Crit Care Med. Published online April 10, 2025. doi:10.1164/rccm.202411-2157OC
- Galie N, Humbert M, Vachiery JL, et al. 2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension. Eur Heart J. 2016;37(1):67–119.
- Kovacs G, Bartolome S, Denton CP, et al. Definition, classification and diagnosis of pulmonary hypertension. Eur Respir J. 2024;64(4):2401324.