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肺癌や悪性腫瘍いろいろ解説

【必読】免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎(ICI pneumonitis)を徹底解説!



〜診断、リスク、治療の全体像をわかりやすくまとめました〜

今回は、最近とても重要性が増しているICI pneumonitis(免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎)について、
呼吸器以外の医師や、研修医・専攻医、看護師さんの皆さんにもわかりやすく、しっかりまとめてみました!

「免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)」が使われる機会はどんどん増えていますが、それに伴って注意すべき有害事象も増えていますよね。
中でも、「ICI pneumonitis」 は重篤化するリスクがあり、その後の癌治療に影響し、予後にも影響するため、早期診断・適切な対応が超重要です。

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ICI pneumonitisとは?

ICIsは、がん細胞に対する免疫応答を強める治療ですね。

ただし、免疫を活性化しすぎると、自分の体を攻撃してしまうこともあります。
これが「免疫関連有害事象(irAEs)」と呼ばれるものです。

その中で肺に炎症を起こすものが「ICI pneumonitis」です。
非感染性の肺炎であり、時に命に関わる重症化を起こすこともあるため、要注意ですね。


要素内容
きっかけPD-1、PD-L1、CTLA-4などの免疫チェックポイント分子を阻害
結果T細胞が過剰に活性化し、肺組織に炎症を起こす

通常はがん監視機構において重要な役割を果たすはずのT細胞が、過剰に活性化されることになります。
この過剰な免疫応答が、複数臓器にわたるirAEsを引き起こす要因となります。

つまり、がんを攻撃してくれるT細胞が、肺も攻撃してしまう状態ですね。


疫学とリスク因子

ICI pneumonitisの発生率は約5%とされています。1

治療レジメン毎は以下のとおり:

  • PD-1/PD-L1阻害薬単剤:2-10% (G3以上は1-5%)
  • CTLA-4抗体薬単剤:1-15% (G3以上は1-5%)
  • 上記併用療法:15-30% (G3以上は8-14%)

さらにリスクが高まる条件はこんな感じです👇

リスク因子詳細
がん種非小細胞肺がん(NSCLC)と腎細胞がん(RCC)はメラノーマと比較して高リスク 2
その他男性
間質性肺疾患の既往(併存?)
間質性肺異常(ILA)
自己免疫疾患
喫煙歴
胸部放射線歴

特に、もともと肺に病気がある患者さんは要注意ですよ。

呼吸器内科医としての実感ですが、肺癌患者でICI pneumonitisを経験することが多いのは当然として、

実は泌尿器科からのコンサルト症例もかなり多い印象があります。

ですので、このデータにはとても納得感がありますね。


臨床症状

患者さんの症状で多いのは・・・

症状頻度
呼吸困難(dyspnea)約53%
咳嗽(cough)約35%
無症候性約30%

無症候性でも、治療効果判定のCTなどで偶発的にICI pneumonitisが発見されることがあるため、油断はできません!

呼吸器内科では、通常、毎回レントゲンやSpO₂を評価しているため、比較的早期に発見できているケースが多いのではないかと感じます。

ここで重要なのは、無症候性の中にも、SpO₂が低下して実はグレード3に該当する患者さんが一定の割合で含まれている可能性があることです。

少なくとも毎回SpO₂を測定・記録し、低下がみられた場合には、治療の見直しや早期対応を検討しましょう。

また、ICI pneumonitisを認めた場合、半数以上の患者さんで他のirAE(大腸炎、皮膚障害、甲状腺炎など)も合併している可能性があることも忘れてはいけません。

肺臓炎を見つけたら、他の臓器のirAE合併も同時にチェックするように心がけましょう!

発症までのタイミングも要チェック👇

項目内容
中央値治療開始から約3か月
9日〜19か月と広い!
併用療法単剤より早い発症(中央値3か月 vs 5か月)
治療終了後数か月後に発症する例もあり

ICI pneumonitisは、多くの場合、ICI治療開始から3か月程度で発症するのが目安ですが、

1年以上経過してから発症するケースや、ICI中止後に新たに発症するケースもあるため、注意が必要です!

診断のポイント

ICI pneumonitisは、特異的な「決め手」がないのが難しいですね。
診断の基本はこの3本立てです!

✅ ICI治療歴
✅ 急性の肺炎症状(SpO2低下など)+画像異常
✅ 他の原因(感染症、がん進行など)の除外

診断に重要な検査はこちらです👇

検査目的
胸部高分解能CT(HRCT)必須。多様なパターンを認めるが決定打はない
感染症スクリーニング呼吸器ウイルス、細菌培養など
(必要なら)気管支鏡検査感染症・がん進行(たまにある)の除外、BAL検査、肺生検(OPが多い印象)

👉 しかし、確定診断できる特異的検査はありません。

また、胸部単純レントゲンだけでは除外できないので注意ですよ!


胸部CTにおける放射線学的パターン

ICI pneumonitisの胸部CT所見にはばらつきがあり、頻度順では次のようになります。

パターン頻度
器質化肺炎型(organizing pneumonia)約40〜50% 自分の経験的にも一致
非特異性間質性肺炎型(NSIP)詳細不明
細気管支炎、過敏性肺炎、急性間質性肺炎様のパターン詳細不明
胸水貯留まれ

さらに、以前に放射線治療を受けた部位に限局して炎症が再燃するradiation recall pneumonitisも、ICI治療後に生じることがあるため要注意ですね。

鑑別診断

ICI pneumonitisを疑うとき、これらも常に考えましょう👇

  • 感染性肺炎(一般細菌、ウイルス、真菌、ニューモシスチスなど)
  • COPDや喘息の増悪
  • サルコイド様反応(sarcoid-like reaction)
  • 癌の進行(リンパ路浸潤、腫瘍閉塞)
  • 他の薬剤性肺炎(化学療法、分子標的薬)
  • 肺塞栓症、肺水腫、肺胞出血

鑑別を急がないと治療方針を間違えてしまうので要注意ですね。

繰り返しになりますが、ICI pneumonitisは特異的な検査で確定診断できるわけではなく、基本は除外診断となります。
そのため、臨床の現場では
「感染症が完全には除外できないな…」
「癌の進行も完全には否定できないな…」
というケースにしばしば遭遇します。

こうした場合には、重症度や臨床経過、リスクとベネフィットを慎重に考慮しながら、ある程度“覚悟”をもって、抗菌薬投与とステロイド治療を並行して開始することも重要になります。

これは、除外診断を前提とする病態群に共通する宿命でもありますね。


個別の鑑別診断

感染性肺炎

中等症〜重症(Grade 3–4)の患者さんでは、感染症との鑑別が特に重要です。

【ポイント】

  • 普通の細菌感染(喀痰培養、血液培養、尿中肺炎球菌・レジオネラ抗原)
  • サイトメガロウイルス(CMV)、Pneumocystis jirovecii(ニューモシスチス肺炎)も考慮
  • 呼吸器ウイルスパネル(インフルエンザ・COVID-19)→流行期には特に注意。時々います
  • 必要に応じて気管支鏡検査を実施
  • 完全否定できないと思うので、抗生剤を併用する。

閉塞性肺疾患(COPDや喘息)の増悪

急性肺炎の画像所見がなければ、COPDや喘息の増悪を考えます。
免疫療法に伴うCOPD増悪は理論上あり得ますが、現時点では十分に認識されていない可能性もあります。


サルコイド様反応

ICI療法により、サルコイド様肉芽腫反応が生じることもあります。
【特徴】

  • 肺門リンパ節腫脹、胸膜下小結節影
  • 軽度の咳、喘鳴、疲労感、胸痛
  • 皮膚病変(皮下結節や丘疹状病変)も比較的多い
  • 確定診断には生検が必要なこともあり

症状が軽ければICI中止のみ、重症ならステロイド治療を考慮します】。


癌の進行

  • リンパ路浸潤や気道閉塞後の変化で、ICI pneumonitisと似た所見が出ることもあります。
  • 単純に肺転移ということもあります。
  • 腫瘍マーカーや全身画像検査を活用し、必要に応じて気管支鏡や生検を検討します。
  • 癌の進行と判断したら、そもそもそのICIは効いていないので、がん治療変更が考慮されます。

👉 pseudoprogression(偽進行)と本当の癌進行は違うため、慎重な判断が必要ですね。


間質性肺疾患→薬剤性肺障害

ICI治療中に新たな間質性肺疾患(ILD)を発症したり、既存ILDが悪化するケースもあります。
パターンの違いだけでICI毒性と特発性ILDを完全に区別することは難しいため、基本的にはICI関連毒性とみなして対応します。


併用抗がん薬による薬剤性肺障害

ICIsは化学療法や分子標的薬と併用されることも多く、これらが肺障害の原因となる場合もあります。
重症毒性が生じた場合には、通常は全ての薬剤を中止し、原因薬剤を特定することが重要ですね。


ICI pneumonitis 重症度分類(CTCAEベース)

グレード臨床像
Grade 1(軽症)症状なし、偶発的に画像異常のみ
Grade 2(中等症)軽度の呼吸器症状あり(労作時呼吸困難など)、日常生活に軽度支障
Grade 3(重症)低酸素血症(SpO₂ <90%)あり、日常生活に重大な支障、入院が必要
Grade 4(生命を脅かす)高度な低酸素血症、呼吸不全、ICU管理が必要
Grade 5(死亡)致死的転帰

  • Grade 1–2は判定に主観が入りやすいので、患者さんの呼吸状態を丁寧に確認することが大切です。
  • irAE全体で致死的経過をたどる症例はまれで、約0.8〜1.7%とされていますが、
  • pneumonitisはによる死亡率は数%~30%であることが、あるメタアナリシスで報告されています。1

治療

ICI pneumonitisの治療方針は、

✅ 初期症状の重症度
✅ 肺機能障害の程度

に基づきます。
基本的にはCTCAEグレードに沿って対応します。

グレード対応
Grade 1(無症候)経過観察、ICI継続or中断(患者とリスク・ベネフィットを共有して判断)
Grade 2(軽症〜中等症)ICI中止+プレドニゾン0.5〜1mg/kg/日内服開始
Grade 3–4(重症)ICI中止+IVメチルプレドニゾロン投与(1–2mg/kg/日またはパルス療法)

ステロイド治療と漸減方法

  • ステロイド開始後、42〜78時間以内に改善することもあれば、7〜14日かかるケースもあります。
  • プレドニゾンは5〜7日ごとに10mgずつ減量し、4〜8(6?)週かけて漸減していきます。
  • 減量中に再燃したら、直前の許容用量に戻して2週間維持しましょう。

ステロイド不応例への対応

Grade 3–4 pneumonitisでステロイドに反応しない場合には、免疫抑制薬を追加します。

【選択肢】

  • IVIG(免疫グロブリン静注)
  • Infliximab
  • Mycophenolate mofetil
  • Cyclophosphamide
  • Azathioprine
  • Tocilizumab

👉 ステロイド不応性肺炎は非常に予後が悪い(死亡率高い)ため、早期に対応を考えましょう。


感染症予防

  • プレドニゾン20mg/日以上が1か月以上続く場合、ニューモシスチス肺炎予防を必ず実施します。
  • 抗菌薬・抗ウイルス薬・抗真菌薬による感染対策も並行して行いましょう。

その他の治療選択肢

最近では、抗線維化薬ニンテダニブが、急性期および長期管理において有望な選択肢として報告されつつありますが、私は使ったことはありません。

まだ症例報告レベルではありますが、今後の展開に注目ですね!




irAEと抗腫瘍効果の関係

ICI治療をしていると、「irAEが起こると、むしろ効いている証拠」と言われることがありますよね。
たしかに、多くのがん種で、

irAEが出た人のほうが、全生存期間(OS)が長い
というデータがあります。

これは、免疫が“ちゃんと”活性化されている証拠とも言えるからです。


ただし――
ICI pneumonitisに関しては事情が少し違います。

この肺臓炎は、

  • ときに急速に進行
  • ときに重症化(Grade 3–4)
  • そして、死亡に至ることもある(Grade 5)

といった、命に関わる合併症になり得ます。

そのため、ICI pneumonitisを発症した人は、逆にOSが悪化する可能性があります。

まとめ

  • ICI pneumonitisは、早期発見と的確な鑑別が重要!
  • 特異的検査での確定診断は難しく、除外診断になるので、リスクとベネフィットを慎重に考慮しながら、ある程度“覚悟”をもって対応。
  • 軽症なら経過観察、重症ならステロイド治療。
  • ステロイド不応性肺炎は超ハイリスクなので要注意!
  • 感染症対策と定期フォローも忘れずに!

これからICIsを扱う機会がさらに増えると思いますので、ぜひこの記事を臨床に活かしてくださいね!

  1. Pneumonitis in Patients Treated With Anti-Programmed Death-1/Programmed Death Ligand 1 Therapy.
    Naidoo J, et al. J Clin Oncol. 2017. PMID: 27646942 ↩︎
  2. Nishino M, Giobbie-Hurder A, Hatabu H, et al. Incidence of Programmed Cell Death 1 Inhibitor-Related Pneumonitis in Patients With Advanced Cancer: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Oncol 2016; 2:1607.  ↩︎

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