Thorax誌に掲載された最新の大規模コホート研究では、“超加工食品(Ultra-Processed Foods: UPF)”の摂取が肺がん、特にNSCLCやSCLCのリスク上昇と関連することが示されました。
日常にあふれる手軽な食品が、じわじわと肺を蝕んでいるかもしれない——
Kanran Wang, et al. Association between ultra-processed food consumption and lung cancer risk: a population-based cohort study. Thorax 2025.
はじめに

肺がんと聞くと、ほとんどの人が「喫煙」を思い浮かべると思います。
それは当然で、喫煙は依然として最大のリスクファクターです。
しかし、最近の疫学データを見ると「非喫煙者の肺がん」が増えているのをご存じでしょうか?
この研究が注目したのは、「食生活」、特に超加工食品(Ultra-Processed Foods: UPF)と肺がんとの関連です。
🔬 UPFってどんな食べ物?
UPFとは、もともとの食材の原型をとどめないほどに加工された食品のことを指します。NOVA分類という国際的な基準では、「第4群」に分類される食品で、以下のような特徴があります:
- 原料が“食品の成分”や“添加物”中心(例:高果糖コーンシロップ、加工油脂)
- 工業的に製造され、保存料・香料・着色料などが多用
- 家庭では再現不可能なレシピ
- 味・見た目・食感を人為的に操作して“中毒的なおいしさ”を演出
例えば:
- 菓子パン・カップ麺・冷凍ピザ・ソーセージ・炭酸飲料・スナック菓子
手軽でおいしいけど、「毎日食べるもの」としてはどうなのか?という問いがここにあります。

この研究では、「UPFを多く摂る人は、肺がんになりやすいのでは?」というクリニカルクエスチョンを検証しています。
背景と目的
超加工食品(UPF)と肺がんリスクとの関連についてのエビデンスは限られており、一貫性に欠けている。
UPFの摂取が、肺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、小細胞肺がん(SCLC)のリスク上昇と関連するかを評価する。
方法
本研究はProstate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Trialに参加した被験者を対象とし、食事は妥当性のある食事履歴質問票で評価した。
食品はNOVA分類に基づき加工度別に分類された。
肺がんの発症は病理診断により確認された。
Cox回帰モデルを用いて、UPF摂取と肺がんとの関連を調整後に評価した。
結果
平均12.2年間の追跡期間中、101,732人のうち1,706例の肺がんが発生(うちNSCLCは1,473例、SCLCは233例)。
UPF摂取量が最も高い四分位群は最も低い群と比較して、
- 肺がん(HR=1.41, 95% CI: 1.22–1.60)、
- NSCLC(HR=1.37, 95% CI: 1.20–1.58)、
- SCLC(HR=1.44, 95% CI: 1.03–2.10)のリスクが有意に高かった。
これらの結果は複数のサブグループおよび感度分析後でも有意であった。
結語
UPFの摂取量が多いほど、肺がん、NSCLC、SCLCのリスクが高まることが示唆された。
さらなる研究が必要だが、UPF摂取の制限が健康上有益である可能性がある。

感想です。
どんな結果だった?
研究対象とデザイン
- 対象者:PLCO試験参加者 101,732人(男女ほぼ半々、平均62.5歳)
- 観察期間:平均 12.2年(121万person-years)
- 発症数:肺がん 1,706例
内訳:NSCLC 1,473例(86.3%)、SCLC 233例(13.7%)
UPFの摂取量と肺がんリスクの関係
対象者は、エネルギー調整済UPF摂取量(1日の摂取量)により4つのグループ(四分位)に分けられました。
UPF摂取量(serving/day) | 発症率(肺がん) | 多変量調整後のHR(95% CI) |
---|---|---|
Q1(最少, 約0.5) | 331/25,433人 | 1.00(基準) |
Q2(中間1) | 409/25,433人 | 1.22(1.05–1.37) |
Q3(中間2) | 471/25,432人 | 1.33(1.17–1.54) |
Q4(最多, 約6.0) | 495/25,434人 | 1.41(1.22–1.60) |
がんの種類別リスク(Q4 vs Q1)
がん種別 | 多変量調整後HR | 95%信頼区間 | 傾向性(p) |
---|---|---|---|
全肺がん | 1.41 | 1.22–1.60 | <0.001 |
NSCLC | 1.37 | 1.20–1.58 | <0.001 |
SCLC | 1.44 | 1.03–2.10 | =0.001 |
✅ すべてのがんタイプで統計的に有意なリスク上昇が認められました。
この研究での考察は?
- 栄養の質が極めて低い
→ 食物繊維・抗酸化物質・微量栄養素が乏しく、逆に飽和脂肪・糖分・ナトリウム・食品添加物が過剰。 - 添加物の発がん性
→ 着色料・保存料・乳化剤(例:カラギーナン)が腸内環境を乱し、炎症や免疫異常を引き起こす可能性。 - 加工過程での有害物質生成
→ アクロレインなど、煙草と同様の毒性物質が含まれる可能性。 - 包装由来の化学物質
→ プラスチックやPCBなどが食品に移行する可能性。
つまり、UPFの問題点はカロリーや脂質だけじゃないということですね。食品そのものの「構造」や「含有物」に注目する必要がある可能性です。
論文解釈に注意するポイント
- 観察研究の限界:関連性はあるが、因果関係は断定できない。
- 喫煙量の詳細が含まれていないのは呼吸器の臨床家としては気になるところ。
- NOVA分類を前提とした質問票ではなかったため、一部のUPFが過小評価の可能性あり
臨床現場でどう活かす?
- 食生活の改善が肺がん予防にも寄与する可能性があるというメッセージですね。
- たとえば、禁煙指導とあわせて、「超加工食品の制限」も生活習慣改善指導の一環として説明するのはどうでしょう。
- 特に非喫煙者での肺がん発症が増えている現代において、食事介入の重要性があるかもしれませんね。

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