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肺癌や悪性腫瘍論文紹介

「肺がん治療の陰に潜むリスク:治療関連肺炎(TRP)の実臨床データを読み解く」

今回ご紹介するのは、オランダの単施設で実施された後ろ向きコホート研究で、11種類の治療レジメン別にTRPの発症率とリスク因子を解析した貴重な実臨床データです。
この研究から何が見えてきたのか?
そして私たちは、どのようにTRPを予測・管理していけばよいのでしょうか?

Real-world incidence of pneumonitis in different treatment modalities of advanced non-small cell lung carcinoma. Justine H. Cuperus, et al. Lung Cancer 2025

This is an open access article distributed under the terms of the Creative Commons CC-BY license, which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original work is properly cited. You are not required to obtain permission to reuse this article.

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はじめに

非小細胞肺癌(NSCLC)は、世界中でがんによる死亡原因のトップに位置する重大な疾患ですね。

近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や分子標的薬、そしてそれらを組み合わせた治療法の登場により、NSCLCの治療は飛躍的に進歩してきました。

ただし、その裏で見過ごされがちな副作用が「治療関連肺炎(Therapy-Related Pneumonitis:TRP)」です。これは免疫や放射線による肺障害で起こる肺炎で、重症化すれば治療中断や死亡にもつながり得ます。

特に問題なのが、TRPは臨床試験では過小評価されている可能性があるという点です。

現実の臨床現場では、もっと高頻度で発症しているかもしれない。

だからこそ、「実臨床」でのTRPの発症率とリスク因子を明らかにする本研究の価値はとても大きいですね。

背景と目的

非小細胞肺癌(NSCLC)の治療法は、免疫療法、分子標的治療、化学療法との併用により進化している。

しかし、治療関連肺炎(TRP)は重大な問題であり、治療中断や呼吸不全を引き起こす。

TRPの発症率は臨床試験では過小評価されがちであり、リスク因子も十分に解明されていない。

本研究は、さまざまなNSCLC治療レジメンにおける実臨床でのTRPの発症率とリスク因子を調査することを目的とした。

方法

この後ろ向きコホート研究には、2016年1月から2024年1月までの間に、ハーガ教育病院において11のあらかじめ定義された全身性抗がん治療レジメン(化学療法、免疫療法、または分子標的療法を含む)のいずれかを開始したステージIIIまたはIVのNSCLCと診断された患者が含まれた。

臨床データはテキストマイニングを用いたソフトウェアを使って電子カルテから抽出された。

目的は、全身性コルチコステロイドの投与を必要とするGrade 2以上のTRPの100人年あたりの発症率(IR)を治療レジメン別に算出することであった。

TRPのリスク因子はCox比例ハザードモデルを用いて解析された。

結果

636人の患者コホートにおいて801の治療レジメンがTRPの追跡対象となった。

IRはレジメンにより異なり、

  • 化学放射線療法(CRT)後にdurvalumabを投与された患者で最も高く(100人年あたり27.7)
  • CRTレジメンの中ではetoposideを使用した群がpemetrexed使用群よりも高いIRを示した(それぞれ100人年あたり20.5 vs 8.5)

Pembrolizumab単独療法は、プラチナ製剤/パクリタキセルやプラチナ製剤/ペメトレキセドとの併用に比べて低いIRを示した(それぞれ6.6 vs 16.6 および 8.9)。

一部の化学療法および分子標的療法レジメンでは、研究期間中にTRPの症例は報告されなかった。

さらに、実臨床でのTRP発症率は主要な臨床試験で報告されているものより高かった。

TRPのリスク因子としては、体格指数(BMI)の高さおよび放射線照射分割回数が同定された。

結語

NSCLC治療が進化する中で、TRPのリスクに対応することは最適な治療成績を確保するために極めて重要である。

本大規模な実臨床研究は、NSCLC治療レジメンとTRPとの関連性、ならびにそのリスク因子に関する貴重な知見を提供するものである。


感想です。

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どんな結果だった?

主な結果(肺炎の発症率=IR/100人年):

治療レジメン発症率 (IR)備考
Durvalumab(CRT後)27.7最も高リスク
CRT + Etoposide20.5放射線併用群
CRT + Pemetrexed8.5比較的低リスク
Pembrolizumab + Paclitaxel16.6併用療法で高リスク
Pembrolizumab + Pemetrexed8.9
Pembrolizumab 単独6.6併用より安全性高め
Docetaxel, Gemcitabine, TKI系0TRP症例なし

また、TRPの発症までの中央値時間はおおむね3~5か月でした。

リスク因子:

  • 高BMI(1単位上昇あたりHR 1.06)
  • 放射線照射回数の増加

実臨床でのTRP発症率は臨床試験よりも高かったことが強調されました。

🧠 補足:

  • 同じCRTでも、etoposide使用群>pemetrexed使用群で肺炎のリスクが高くなっていました。
  • 放射線の分割照射が多いほどTRPリスクは上昇。
  • pembrolizumab単独よりも化学療法との併用でTRPリスクは明らかに上昇しています。

この研究での考察は?

Durvalumab群でTRPが最も多かった理由として、以下の2点が考えられます:

  1. 放射線による肺障害の遅延発症(特にCRT後)
  2. 免疫活性化の相乗効果(ICIによる)

さらに、cCRT(同時併用)>sCRT(逐次併用)の順にTRP発症率が高いという結果からも、放射線の投与タイミングや量(分割数)が肺炎リスクに強く関与していると考えられます。

Pembrolizumabの併用群では、特にpaclitaxelベースの併用レジメンで高リスクとなっていました。これには、タキサン系薬剤が免疫をさらに活性化させる可能性があるとされ、ICIとの併用によってTRPリスクが上乗せされたと推察されています。

論文解釈に注意するポイント

  • Grade 1の肺炎が除外されており、軽症例が反映されていない
  • 単施設・オランダ国内データのみで外的妥当性に限界
  • 肺炎による予後(生存率や治療継続率)への影響は未評価
  • 放射線線量や照射部位など、より詳細な因子は解析されていない

臨床現場でどう活かす?

  • CRT後にDurvalumabを予定している場合、TRPのハイリスク群として要注意
  • BMIが高い患者には、肺炎リスクを念頭に治療選択・管理が必要
  • 放射線治療は可能なら分割数を抑える/逐次併用の検討も一案
  • ICIとタキサン系の併用では、肺症状の早期認識とモニタリングがカギ

この知見は、免疫療法時代における肺炎管理の新しい指針に加わるかもしれませんね。



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