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論文紹介集中治療

代謝性アシドーシスとショックを呈する重症患者にメイロンは有効なのか? ― NEJM 2026 SODa-BIC試験

Sodium Bicarbonate for Critically Ill Adults with Metabolic Acidosis and Shock. The SODa-BIC Investigators and the Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group. New England Journal of Medicine 2026.

これまた壮大なネガティブスタディだが、臨床的には意味ある情報。

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はじめに

今回は少し呼吸器内科から離れて、ICUでの代謝性アシドーシスに対する重炭酸ナトリウム(日本でいうメイロン)の有効性を検証した論文を読んでみました。

呼吸器内科医として、呼吸性アシドーシスにはなじみがありますが、代謝性アシドーシスに対する重炭酸ナトリウム投与となると、腎臓や集中治療の専門家ほど詳しいわけではないです。

ただ、重症肺炎による敗血症性ショックなどを診療する機会はありますし、代謝性アシドーシスを認めたときに、メイロンを投与すべきか迷う場面もあります。

重炭酸ナトリウムを投与すれば、血液のpHは改善すると思いますが、それが腎機能や生命予後の改善につながるのか??

これまでのランダム化比較試験では、重炭酸ナトリウムによる死亡率の改善は示されていないものの、腎代替療法(RRT)の実施率が低下する可能性が報告されていました。

ただし、従来の試験は主にpH≦7.20の重度アシドーシス患者を対象とした非盲検試験。

腎代替療法を開始するかどうかは、医師の判断にも左右されますので、どちらの治療を行っているか知っていると、試験の結果に影響する可能性がありますよね。

そこで今回の研究では、昇圧薬を必要とするpH<7.30の代謝性アシドーシス患者を対象に、重炭酸ナトリウムの有効性を二重盲検RCTで検証しました。

背景

代謝性アシドーシスは重症患者に多く認められ、臓器機能障害および死亡と関連している。

重炭酸ナトリウムはアシデミアの補正に用いられるが、昇圧薬を投与されている代謝性アシドーシス患者における有益性は明らかではない。

方法

本研究は、実臨床に即した、適応的デザインを採用した二重盲検ランダム化比較試験。

  • 集中治療室(ICU)で昇圧薬を投与され、
  • 代謝性アシドーシス(pH<7.30、base excess≦−4 mmol/L、動脈血二酸化炭素分圧[PaCO₂]が非挿管患者では45 mmHg以下、挿管患者では50 mmHg以下)

を呈する成人患者を、重炭酸ナトリウム群またはプラセボ(5%ブドウ糖液)群に割り付けた。

重炭酸ナトリウムまたはプラセボを最大5時間持続投与し、pH 7.30以上かつbase excess 0 mmol/L以上を目標として投与速度を調整した。

主要評価項目は、30日以内に発生した重大な腎関連有害イベントとし、死亡、腎代替療法の施行、または持続性腎機能障害のいずれかと定義した。

結果

7か国の55施設のICUから計500例が登録され、245例が重炭酸ナトリウム群、255例がプラセボ群に割り付けられた。

30日以内の重大な腎関連有害イベントは、

  • 重炭酸ナトリウム群244例中98例(40.2%)
  • プラセボ群254例中100例(39.4%)

に発生した(調整群間差1.2パーセントポイント、95%信頼区間[CI]−7.1~9.4、P=0.78)。

30日以内に腎代替療法を受けた患者の割合は、

  • 重炭酸ナトリウム群16.8%
  • プラセボ群20.9%

であった(調整群間差−3.9パーセントポイント、95% CI −10.6~2.7)。

30日以内の院内死亡率は、

  • 重炭酸ナトリウム群25.4%
  • プラセボ群24.0%

であった(調整群間差1.8パーセントポイント、95% CI −5.6~9.2)。

有害作用は、重炭酸ナトリウム群で4例(1.6%)に認められたのに対し、プラセボ群では認められなかった(P=0.06)。

結語

昇圧薬を投与されている代謝性アシドーシスを伴う重症患者において、

重炭酸ナトリウム投与は、プラセボと比較して30日以内の重大な腎関連有害イベントのリスクを低下させなかった。

感想です。

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どんな結果だったか?

研究デザイン

本研究は、7か国55施設のICUで行われた、多施設共同、二重盲検、プラセボ対照ランダム化比較試験です。

主な組み入れ基準は、

  • 18歳以上
  • 昇圧薬を持続投与中
  • pH<7.30、BE≦−4 mmol/Lで、PaCO₂が非挿管患者では45 mmHg以下、挿管患者では50 mmHg以下。

PaCO₂に上限が設けられているのは、呼吸性アシドーシスが主体の患者を対象にしないためと考えられます。

高CO₂血症によるアシデミアに対してメイロンを投与する話ではありません。

なお、糖尿病性ケトアシドーシス、重炭酸の大量喪失、慢性腎臓病によるeGFR<30 mL/min、すでに腎代替療法を受けている患者などは除外。

主要評価項目のMAKEとは?

MAKEは Major Adverse Kidney Events の略で、以下の3つをまとめた複合アウトカムです。

  • 30日以内の全原因死亡
  • 腎代替療法
  • 持続性腎機能障害(クレアチニン2倍以上)

結果:pHは改善したが、腎関連イベントは減らなかった

① 患者背景

項目全体の概要
年齢中央値66歳
APACHE IIスコア中央値21
SOFAスコア中央値7
pH中央値7.26
BE中央値−9.0 mmol/L
乳酸値中央値2.5 mmol/L(両群とも)
登録時AKI46.2%
敗血症約68%
敗血症性ショック約40%
人工呼吸管理約80%

登録時のpH中央値は7.26です。極端に重度のアシデミアの患者ばかりではなかったことは、結果を解釈するうえで重要です。

② 主要評価項目:30日以内のMAKE

調整群間差は+1.2パーセントポイント(95% CI −7.1~9.4、P=0.78)。

ほとんど差がない。

③ 死亡率やRRTはどうだったのか?

評価項目重炭酸Na群プラセボ群調整群間差(95% CI)
30日以内の院内死亡25.4%24.0%+1.8(−5.6~9.2)
30日以内のRRT16.8%20.9%−3.9(−10.6~2.7)
持続性腎機能障害14.0%18.3%−4.3(−10.7~2.1)
30日時点のRRT依存5.7%9.1%−3.3(−7.8~1.3)
90日以内の院内死亡26.2%25.6%+1.2(−6.3~8.6)
7日以内のAKI64.5%64.8%−0.0(−7.7~7.6)

死亡率やAKI発生率は、ほぼ同じ。

④ 血液ガスは改善していたのか?

ここは、血液ガスになじみのある呼吸器内科医として気になるところです。

血液ガス指標重炭酸Na群プラセボ群調整群間差(95% CI)
最高pH中央値7.437.37+0.05(0.04~0.06)
最高HCO₃⁻中央値26.021.0+4.5(3.8~5.2)mmol/L
最高BE中央値+1.5−4.2+5.1(4.4~5.8)mmol/L
最高PaCO₂中央値44.041.8+2.0(0.6~3.4)mmHg
最高Na中央値141.0137.0+4.0(2.6~5.4)mmol/L

投与後24時間以内の測定値に基づく各患者の最高値の中央値。

pH、HCO₃⁻、BEは、いずれも重炭酸ナトリウム群で改善。

さらに、代謝性アシドーシスの再発率も低下。

つまり、重炭酸ナトリウムは期待どおりに酸塩基平衡を改善していたわけです。

それでも、腎関連イベントや死亡率は改善しなかった……ということです。

⑤ 重症AKI患者なら効果があるのか?

サブグループ重炭酸Na群プラセボ群調整群間差(95% CI)
pH<7.2548.4%53.5%−5.1(−19.1~8.9)
pH≧7.2535.1%30.3%+5.3(−5.0~15.4)
AKI stage 2–356.6%71.7%−15.2(−34.1~3.8)
AKIなし・stage 135.8%32.2%+4.0(−5.0~13.1)
敗血症性ショックあり54.7%51.0%+3.8(−9.9~17.5)

AKI stage 2–3の患者では、MAKEが56.6%対71.7%と、重炭酸ナトリウム群で数値上は低い傾向。

ただし、95% CIは−34.1~3.8と広く、0をまたいでおり、対象患者も少数で、この結果だけではなんとも言えませんね。

⑥ 有害作用の比較

有害作用・安全性指標重炭酸Na群(n=244)プラセボ群(n=254)
有害作用の発生4例(1.6%)0例(0%)
補正を要する低カリウム血症1.6%詳細記載なし
血清Na最高値の中央値141 mmol/L137 mmol/L
PaCO₂最高値の中央値44.0 mmHg41.8 mmHg

有害作用全体の群間比較は P=0.06 。

血清Na最高値の調整群間差は+4.0 mmol/L(95% CI 2.6~5.4)、PaCO₂最高値の調整群間差は+2.0 mmHg(95% CI 0.6~3.4)。

つまり、有害作用は重炭酸ナトリウム群でのみ報告され、主に補正を要する低カリウム血症。ただし、発生数が少なく、群間差が明確に示されたわけではありません。

考察:pHを改善しても、なぜ臨床的な効果は得られなかったのか?

① RRTの減少は、必ずしも腎機能の改善を意味しない

個人的には、ここが一番勉強になりました。

従来の研究では、重炭酸ナトリウム投与によってRRTの実施率が減少する可能性が報告されています。

しかし、重度のアシデミア自体がRRTを開始する理由の一つになります。

つまり、メイロンでpHを改善できれば、腎機能そのものが改善していなくても、RRTの開始を延期・回避できる場合があるわけですね。

② pHを補正しても、循環動態は明らかには改善しなかった

代謝性アシドーシスは、心筋収縮力やカテコラミンへの反応性を低下させる可能性があります。

そう考えると、pHを補正すればショックからの離脱も早くなるのではないかと期待したくなります。

しかし、今回の研究では、ノルアドレナリンの必要量や昇圧薬非使用日数について、明らかな改善は認められませんでした。

血液ガス上の改善が、循環動態の改善には直結しなかったわけです。

③ 重度アシドーシスでは話が違うかもしれない

今回の研究はpH<7.30の患者を対象としており、中央値は7.26でした。

従来の試験はpH≦7.20の重度アシドーシスが中心です。

そのため、今回の結果だけでpHが7.1台などの患者でも重炭酸ナトリウムが無効だとはいえません。

また、今回の介入は最大5時間の持続投与でした。より長時間の投与や反復投与の有効性についても明らかではありません。

注意点

  • 非盲検での重炭酸ナトリウム追加投与が可能だった:プロトコール外での重炭酸ナトリウム投与が認められ、特にプラセボ群で多かった(15.2% vs 7.0%)
  • プロトコール外のNa・緩衝物質投与の制御なし:試験薬以外からのNaや緩衝物質の投与は厳密な管理なし。
  • 重炭酸ナトリウムの投与が危険と判断された患者を除外:一部の患者集団には結果を一般化できない。
  • 昇圧薬投与患者に対象を限定:血行動態が不安定な患者を選択したため、昇圧薬を必要としない代謝性アシドーシス患者には一般化しにくい。
  • 血液ガスの変化によって盲検性が損なわれた可能性:pHやHCO₃⁻の改善から、担当医がどちらの群に割り付けられたか推測できた可能性がある。
  • 腎代替療法(RRT)開始時の生理学的データがない
  • 血糖値のデータがない
  • 小さな治療効果を検出するには検出力が不十分
  • 施設間でRRT開始基準が異なる可能性:7か国55施設の国際共同試験なので

まとめ

今回のSODa-BIC試験では、昇圧薬を必要とする代謝性アシドーシス患者に対し、重炭酸ナトリウムを投与しても、30日以内の重大な腎関連イベントは減少なし。

ただし、pHやBEは改善し、代謝性アシドーシスの再発は減少。

つまり、生理学的には期待どおりの効果が得られていたものの、臨床的なアウトカムの改善にはつながらず。

しかし、pH 7.2未満の重度アシドーシスや高度AKIの患者に対する効果は未知。

個人的には、昇圧薬を必要とするpH 7.2台の代謝性アシドーシス患者に対して、腎保護や生命予後の改善を目的としてメイロンをルーチン投与することは、積極的には支持しない。pH 7.2未満の場合はわからない(よく考える)。

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