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間質性肺疾患論文紹介

間質性肺疾患において、CT画像と病理組織像を統合したAIは、非専門医の診断精度を向上させるのか?

長崎大学からの報告ですね。

Enhancing Interstitial Lung Disease Diagnoses Through Multimodal AI Integration of Histopathological and CT Image Data. Kris Lami et al. Respirology 2025.

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はじめに

間質性肺疾患(ILD)は病型によって予後や治療が大きく異なるため、正確な診断が極めて重要です。

しかし、いろいろなILDはそれぞれ臨床症状・画像・病理所見が重なり合うことがあるので、診断や分類には高い専門性と、時には外科的肺生検が必要になります。

特に、病理学的にusual interstitial pneumonia(UIP)を示す疾患、特に特発性肺線維症(IPF)は予後不良であり、その診断は今後の治療戦略を左右します。

しかし、専門医でも診断の一致率が低く、非専門医には非常に難解です。

こうした背景のもと、本研究では、CTと病理画像をAIにより統合することで、診断の精度向上と一貫性の確保を目指しています。

背景と目的

ILDの診断には、臨床、画像、病理情報の統合が求められる。

特にUIPの鑑別診断は困難であり、多職種による診断が必要とされる。

本研究では、CT画像と病理画像を統合したマルチモーダル人工知能(AI)アルゴリズムを開発し、UIP診断の精度と一貫性の向上を目的とした。

方法

2009年から2021年にかけてILDと診断された324例のCTおよび病理画像を用いてAIモデルを構築した。

CTモジュールは28種類の放射線所見を識別するよう訓練され、病理モジュールは以前に報告されたMIXTUREモデルを用いた。

最終的に114例でマルチモーダルAIの性能評価を行い、専門病理医および一般病理医との比較検討を実施した。

結果

本マルチモーダルAIは、UIPと非UIPの識別においてAUC 0.92の精度を示し、一般病理医の診断一致率を有意に向上させた(モデル使用前κ=0.273→使用後κ=0.737)。

また、専門病理医との診断一致率も向上し、診断への自信も高まった。

結語

CT画像と病理画像を統合したマルチモーダルAIは、UIP診断の精度と一貫性を高め、専門性の乏しい病理医による診断補助として有用である可能性が示された。

まとめ

この研究では、CTと病理画像を組み合わせた多モダリティAIを構築し、UIPの識別能力を評価しました。その結果、AIモデルはAUC 0.92という非常に高い識別精度を達成し、専門医レベルの診断一致率にも近づきました。

特筆すべきは、一般病理医の診断一致率と信頼度がAIによって著しく向上した点です。これは、多施設や非専門医が診断に関わる現場で非常に有用です。

ただし、限界としては、データが単一施設に依存している点、VATS検体のみに基づいている点、外部検証が行われていない点などが挙げられます。今後は他施設データやクライオ生検への応用が求められます。


この研究の新しさは?

本研究の最大の新規性は、「CTと病理画像を統合したAIモデルを用いてUIP診断を支援した」という点です。

従来のAIモデルは単一モダリティ(CTのみ、または病理のみ)に基づいていましたが、本研究はマルチモダリティ統合型であり、先行研究で報告されたMIXTUREモデル(AUC 0.86)をさらに上回る成果(AUC 0.92)を挙げています。

※一般的にはAUCが高いほど、判別能が高いことを意味します。


改善点や限界は?

  • 単一施設データに依存している点: 外部施設での汎用性・再現性の検証が不十分。
    →つまりOverfittingの可能性が出てきますね。ただし、今回の検討は「こういうモデルができた」という意味であり、このモデルを使ってデータを蓄積していけば、一般化できる可能性もでてきますね。
  • 検体がVATSに限られる: 現実の診療ではクライオ生検が一般的になりつつあり、今後の適応拡大が課題。
  • 放射線科的判断の置き換えではない: AIは補助的ツールであり、臨床的判断やMDD(多職種会議)と完全に代替するものではない。
  • この研究では予後と関連したかどうかは調べられておらず、あくまでも病理学的評価のみ。予後予測に繋がるかどうか不明。

この研究の臨床での意味は?

  • 本研究で開発されたAIモデルは、病理学的なUIPの診断をサポートするツールとして、とくにILD診断に慣れていない一般の病理医の手助けになることが示されました。
  • つまり、「この所見ってUIPかどうか、ちょっと自信がない…」という場面でも、AIのサポートを受けることで、診断の正確さが上がり、安心して判断できるようになる可能性があります。
  • たとえば、大病院のようにMDD(多職種カンファレンス)が開催できない地方の病院などでも、このAIを活用すれば、専門病院と同じようなレベルの診断が可能になるかもしれません。
  • また将来的には、より小さな検体であるクライオ生検にも対応できるようになれば、診断の幅がさらに広がります。
  • さらに、AIが出した結果をもとに、診断レポートの内容を標準化するような使い方も視野に入っており、日常の病理診断の質を高める道具として進化していきそうです。

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