この論文の対象は特発性肺線維症(IPF)ではなくて、進行性肺線維症(PPF)ですので、お間違えのないように。
Nerandomilast in Patients with Progressive Pulmonary Fibrosis. Toby M. Maher, et al. The New England Journal of Medicine 2025.
はじめに

進行性肺線維症(PPF)は、進行性の経過をたどるIPF以外のさまざまな線維化性間質性肺疾患を含んだ概念です。
治療としては、それぞれの原因疾患のILDに対する治療でも進行する場合にニンテダニブに変更したり追加したりする治療が一般的です。

そんな中で登場したのが、Nerandomilast(BI 1015550)です。
これは経口で服用できるPDE4B阻害薬で、抗線維化作用に加えて免疫調節作用も持っています。
IPFに対する第2・第3相試験ですでに有効性が示されており、今回はPPFに対して有効かどうかを検証したのが本研究「FIBRONEER-ILD試験」になります。
ネランドミラストのメカニズムなどについての過去の記事はこちら
ベーリンガー・インゲルハイム社のネランドミラストが、IPFに引き続き、PF-ILDでも第三相試験でFVC低下を抑制したそうです。
特発性肺線維症におけるネランドミラストの第Ⅲ相試験の結果の記事はこちら
ついにでました。特発性肺線維症におけるネランドミラストの第Ⅲ相試験の結果(FIBRONEER-IPF)
PPFとPF-ILDについての詳しい記事はこちら
背景
Nerandomilast(BI 1015550)は、抗線維化および免疫調節作用を有する経口投与のホスホジエステラーゼ4B(PDE4B)選択的阻害薬である。
NerandomilastはIPFの進行を遅らせることが示されたが、他のタイプのPPFに対する効果の評価が必要である。
方法
第3相二重盲検試験において、PPFの患者を、
- nerandomilast 18mgを1日2回、
- 9mgを1日2回、
- またはプラセボ
のいずれかを受ける群に1:1:1の割合で無作為に割り付けた。
背景治療(ニンテダニブの使用有無)および高分解能CTでの線維化パターン(UIP様 vs その他)で層別化した。
主要評価項目は、52週時点でのベースラインからのFVC(強制肺活量、mL単位)の絶対変化量である。。
結果
合計1176人がnerandomilastまたはプラセボのいずれかを受けた。
そのうち43.5%はベースラインでニンテダニブを使用していた。
52週時点のFVCの調整済み平均変化量は、
- nerandomilast 18mg群で−98.6 mL、
- 9mg群で−84.6 mL、
- プラセボ群で−165.8 mLであった。
nerandomilast 18mg群・9mg群と、プラセボ群との差は、それぞれ67.2 mL(P<0.001)、81.1 mL(P<0.001)であった。
最も頻度の高い有害事象は下痢であり、18mg群で36.6%、9mg群で29.5%、プラセボ群で24.7%に報告された。
重篤な有害事象の発生率は各群でほぼ同等であった。
結語
PPF患者において、nerandomilast治療は52週にわたりプラセボと比較してFVCの低下が有意に少なかった。

勉強したいと思います!!
何がわかったのか?
主評価項目:FVCの変化(52週)
群 | FVCの変化量 | プラセボとの差 | 有意差 |
---|---|---|---|
Nerandomilast 18mg | −98.6 mL | +67.2 mL | P<0.001 |
Nerandomilast 9mg | −84.6 mL | +81.1 mL | P<0.001 |
プラセボ | −165.8 mL | ― | ― |
FVCの低下は有意に抑えられていたようです。
副次評価項目
✅ 急性増悪または死亡
群 | 発生率(人数) | ハザード比(HR) | 有意差 |
---|---|---|---|
Nerandomilast 18mg | 12.3%(48/391) | 0.59(95% CI: 0.41–0.84) | 有意に減少 |
Nerandomilast 9mg | 16.5%(65/393) | 0.78(95% CI: 0.56–1.08) | 非有意 |
プラセボ | 21.2%(83/392) | ― | ― |
👉 注目点:18mg群では急性増悪のリスクが減少
✅ 呼吸器関連入院または死亡
群 | 発生率(人数) | ハザード比(HR) | 有意差 |
---|---|---|---|
Nerandomilast 18mg | 21.5%(84/391) | 0.75(95% CI: 0.56–1.00) | 有意ギリギリ |
Nerandomilast 9mg | 24.7%(97/393) | 0.83(95% CI: 0.63–1.10) | 非有意 |
プラセボ | 31.1%(122/392) | ― | ― |
💡 実臨床では特に重要な指標ですね。18mg群では入院リスクも有意に低下していました。
✅ 死亡(All-cause mortality)
群 | 死亡率(人数) | ハザード比(HR) | 有意差 |
---|---|---|---|
Nerandomilast 18mg | 6.1%(24/391) | 0.48(95% CI: 0.30–0.79) | 有意 |
Nerandomilast 9mg | 8.4%(33/393) | 0.60(95% CI: 0.38–0.95) | 有意 |
プラセボ | 12.8%(50/392) | ― | ― |
📌 死亡率の有意な低下あり
この研究が示したこと
今回の試験では、NerandomilastがFVCの低下を抑制し、死亡率や急性増悪リスクを有意に低下させることが明らかになりました。特に18mgの効果は明確でしたね。
また、ニンテダニブ併用の有無にかかわらず効果が維持されたことは、併用・代替的治療選択肢としての可能性を示しています。
副作用として最も多かったのは下痢ですが、重篤例は少なく、多くが忍容可能でした。
⚠️ 改善すべき問題点
- 自己免疫性ILDや過敏性肺炎など、疾患別の効果は統計的検出力が不足
- 免疫抑制薬(例:MMF、リツキシマブ)の使用制限があり、実臨床との乖離
- 症状(息切れ・咳・倦怠感)スコアでは改善が不明瞭だった点
💡 臨床でどう活かす?
この結果は、PPF患者に対してニンテダニブ以外の選択肢を初めて示した重要なエビデンスです。
たとえば:
- ニンテダニブが継続困難な患者
- 自己免疫性疾患に伴うILDなどでFVC低下が進行している患者
- 死亡率や急性増悪を防ぎたい重症例
などに対して、今後積極的に導入を検討できる可能性が出てきました。
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