Effect of Conservative vs Conventional Oxygen Therapy on Mortality Among Patients in an Intensive Care Unit:The Oxygen-ICU Randomized Clinical Trial. Girardis M, et al. JAMA. 2016.
まず最初に結論からいうと

以下のとおりです。
- 今回紹介する 2016年のランダム化比較試験 では、酸素投与を適正管理することの重要性 が示されています。
✅ 保守的酸素療法(PaO₂ 70-100 mmHg、SpO₂ 94-98%目標)
✅ 従来の酸素療法(PaO₂ 最大150 mmHg、SpO₂ 97-100%目標)
- この2群を比較した結果…
🔴 ICU内死亡率:保守的群 11.6% vs. 従来群 20.2%(P = .01)
🟢 ショック・肝不全・菌血症の発生率が保守的群で低下
🟢 人工呼吸からの早期離脱にも寄与
- つまり、酸素は多ければ良いわけではない!「適正な範囲で管理する」ことが、生存率を上げる鍵!ということになります。
- 「とりあえず酸素を多めに」 ではなく、「必要最小限の酸素を適切に投与する」 ことを意識しましょう。
- 高濃度酸素が肺に直接的なダメージを与えることはよく知られていますが、この研究は、「それほど高濃度でなくても、高酸素血症になることで悪影響が生じる可能性がある」 ことを示唆しています。
- この研究は単施設試験ですが、今後さらなる大規模研究で酸素療法の新たな標準が確立される可能性があります。

- 酸素療法は日常診療において欠かせない治療ですが、その適切な投与量や目標範囲については依然として議論が続いています。
- 確かに、酸素投与は低酸素血症の補正に不可欠ですが、具体的なPaO₂やSpO₂の目標値については統一された基準がなく、そのため「とりあえず多めに酸素を投与する」という慣習が臨床現場で根強く残っています。
- しかし、近年の研究では、酸素の過剰投与が患者の予後に悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、特にPROXI試験やAVOID試験では、高濃度酸素の投与が長期死亡率の上昇や心筋障害の悪化と関連していることが報告されています。

- 一般的に、FiO₂ 50〜60%以上の高濃度酸素曝露は、肺胞や気道に直接的な障害を引き起こすことが知られています。
- しかし、それ以下の濃度や低流量の酸素投与であっても、血液中の酸素分圧が過剰に上昇し、高酸素血症になると、全身の血管収縮や活性酸素の増加を介して炎症を悪化させるリスクがあるといわれています。

- 本研究では、酸素飽和度(SpO₂)をやや低めの94〜98%に管理する「保守的酸素補給プロトコル」の有効性を検証しています。簡単に言えば、「SpO₂やPaO₂に基づいた適正な酸素管理」が良いのか、それとも「心配だからとりあえず酸素を多めにしておく」ほうが安全なのか、という戦略の比較です。
- 重症患者を担当する研修医や専攻医、看護師の方々にとっても、酸素療法の適正管理を考える上で必見の内容です。
- それでは、この研究内容を詳しく見ていきましょう!
重要性
- 不必要な酸素療法による潜在的な有害性が示唆されているにもかかわらず、重症患者は長時間にわたり高酸素血症状態にあることが多い。
- したがって、動脈酸素化を管理する戦略は理にかなっているが、臨床実践において検証されていない。
目的
- 集中治療室(ICU)に入院した患者に対し、保守的な酸素補給プロトコルが転帰を改善するかどうかを評価すること。
研究デザイン、実施施設、対象患者
- 本研究「Oxygen-ICU」は、2010年3月から2012年10月にかけて、イタリアのモデナ大学病院の内科・外科ICUに入院した成人患者を対象に実施された単一施設のオープンラベルランダム化臨床試験である。
- 入院期間が72時間以上と予測されるすべての患者が対象とされた。
- 当初の計画では660名の登録を予定していたが、登録の難航により480名を組み入れた段階で試験を早期終了した。
介入
患者は無作為に以下の2群に割り当てられた。
- 保守的酸素療法群:PaO₂を70~100 mmHg、または動脈酸素飽和度(SpO₂)を94~98%に維持する。
- 従来の酸素療法群(対照群):ICUの標準治療に基づき、PaO₂を最大150 mmHgまで許容し、SpO₂を97~100%に維持する。
主要評価項目と測定方法
主要評価項目はICU内死亡率とし、48時間以上経過後の新たな臓器不全や感染症の発生率を副次評価項目とした。
結果
- 計434名の患者(中央値年齢64歳、女性188名[43.3%])が、従来の酸素療法(n = 218)または保守的酸素療法(n = 216)を受け、modified intent-to-treat解析に組み入れられた。
- ICU滞在中の日次時間加重平均 PaO₂は、従来療法群(中央値102 mmHg, 四分位範囲[IQR] 88-116)に比べ、保守的療法群(中央値87 mmHg, IQR 79-97)で有意に低かった(P < .001)。
- ICU死亡率は保守的酸素療法群で有意に低下し、従来療法群の20.2%に対し、保守的療法群では11.6% であった(絶対リスク減少率 8.6%、95%信頼区間[CI] 1.7-15.0%、P = .01)。
- さらに、保守的酸素療法群では以下の有害事象の発生率が低かった。
- ショック発生率: 3.7%(従来療法群 10.6%、P = .006)
- 肝不全発生率: 1.9%(従来療法群 6.4%、P = .02)
- 菌血症発生率: 5.1%(従来療法群 10.1%、P = .049)
結語
- ICUに72時間以上入院する重症患者において、保守的な酸素療法プロトコルは従来の酸素療法と比較してICU内死亡率を低下させる結果を示した。
- しかし、本試験は計画外の早期終了に基づいているため、このアプローチの有効性を評価するためには、大規模な多施設試験が必要である。


文献より引用。
もう少し詳しく

✅ 対象患者: ICUに72時間以上入院予定の成人患者
✅ 介入方法:
- 対照群(従来の酸素療法)
➝ FiO₂最低0.4、PaO₂上限150 mmHg、SpO₂97〜100%を許容 - 介入群(保守的酸素療法)
➝ 可能な限りFiO₂を低く設定、PaO₂ 70〜100 mmHg、SpO₂ 94〜98%を目標
✅ 主要アウトカム: ICU内死亡率
✅ 副次アウトカム: 新たな臓器不全、感染症、人工呼吸期間、血管作動薬使用など

酸素管理の違い
ICU滞在中、日次時間加重平均 PaO₂(動脈血酸素分圧)の中央値は、
- 従来の酸素療法群で 102 mmHg(IQR 88-116)
- 保守的酸素療法群で 87 mmHg(IQR 79-97)
と有意に保守的酸素療法群のほうが低く管理されていました(P < .001)。
つまり、対照群(従来の酸素療法)と介入群(保守的酸素療法)で、実際に酸素分圧に明確な差が生じていることが確認されました。
では、この違いによってアウトカム(患者の転帰)はどう変わったのでしょうか?
主要アウトカム(ICU内死亡率)
ICU内死亡率は、保守的酸素療法群で有意に低下しました。
- 保守的酸素療法群:11.6%(25/216名)
- 従来の酸素療法群:20.2%(44/218名)
- 絶対リスク減少(ARR):8.6%(95% CI 1.7-15.0%)
- 相対リスク(RR):0.57(95% CI 0.37-0.90、P = .01)
副次アウトカム
以下の臨床指標においても、保守的酸素療法群で有意な改善が見られました。
- ショックの発生率:
- 保守的群:3.7% vs 従来群:10.6%(P = .006)
- 肝不全の発生率:
- 保守的群:1.9% vs 従来群:6.4%(P = .02)
- 菌血症の発生率:
- 保守的群:5.1% vs 従来群:10.1%(P = .049)
- 人工呼吸からの離脱時間(換気フリー時間):
- 保守的群のほうが中央値で24時間長い(P = .02)
その他の指標(新たな呼吸不全や腎不全の発生、ICU滞在期間、病院滞在期間など)には有意な差は見られませんでした。
まとめ

- これまで、「低酸素は危険だから、とにかく酸素を多めに投与しよう」という考え方が一般的でした。しかし、この研究では、酸素を必要以上に与えすぎることが、かえって死亡率を高める可能性があることが示されました。
- 特に、PaO₂を100 mmHg以上に維持するような高酸素療法は、血管の収縮や炎症の悪化を引き起こし、ショックや臓器障害のリスクを高めることが考えられます。
- そこで、酸素投与量を調整し、SpO₂ 94-98%、PaO₂ 70-100 mmHgを目標にすることで、ICU内死亡率が約9%低下したのです。

臨床への応用
✅ ICU管理において、過剰な酸素投与を避ける
→ 「とりあえず酸素を多めに」ではなく、目標SpO₂ 94-98%、PaO₂ 70-100 mmHgを意識する。
→ FiO₂を可能な限り低く調整し、PaO₂ 100 mmHgを超えたら酸素投与量を減らす。
✅ 機械換気の設定の見直し
→ 高酸素血症を避けるため、最低限のFiO₂と適切なPEEP設定を検討。
✅ 敗血症や臓器不全のリスク軽減
→ 酸素の過剰投与が炎症反応を亢進させる可能性があるため、酸素管理の最適化が重要。

- 酸素は必要不可欠な治療ですが、「多ければ良い」わけではありません。「適正な範囲で管理する」ことが、患者さんの生存率を上げる鍵になります。今後のICU管理では、「とりあえず酸素を多めに」ではなく、「必要最小限の酸素を適切に投与する」ことを意識すべきでしょう。
- この研究は単施設での結果ですが、今後さらに大規模な研究が行われ、酸素療法の新たな標準が確立される可能性があります。今後の研究にも注目していきましょう!