Ryerson CJ et al. Update of the International Multidisciplinary Classification of the Interstitial Pneumonias: An ERS/ATS Statement. European Respiratory Journal 2025.
胸部CTで“敷石状(crazy paving)”を見かけたとき、まず思い浮かべたい疾患の一つが肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis; PAP)です。2025年のERS/ATSステートメントでは、PAPを“肺胞充填パターン”に位置づけ直しています。
この記事では、2025年のERS/ATS合同ステートメントをベースに、PAPの基本事項を整理して、原因・画像・診断・病理まで段階的に紹介します。
肺胞蛋白症(PAP)とは
PAPは、肺胞内にサーファクタントが異常に蓄積する稀な疾患です。
- 有病率:100万人あたり7〜10人
- 主な病態:
- GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)機能の低下
- あるいはマクロファージによるサーファクタント処理の障害
この結果、肺胞や末梢気道にサーファクタント様物質が蓄積し、ガス交換が障害されます。
2025ERS/ATS Statementでの位置づけ
まれな肺胞充填パターン(rare alveolar filling patterns; AFPs)
PAPは、以下の疾患群とともに、「稀な肺胞充填パターン」に分類されています:
- 急性好酸球性肺炎(AEP)
- 慢性好酸球性肺炎(CEP)
- 肺胞蛋白症(PAP)
- 脂質肺炎(LP)
PAPの細分類
PAPはさらに以下の2つに区分されます:
分類 | 説明 |
---|---|
Secondary PAP | 自己免疫性・遺伝性(hereditary)などの明確な原因がある場合 |
Idiopathic / Unclassified PAP | 原因が特定できないもの |
このステートメントでは、「続発性の要因を除外した上で初めて“特発性”PAPと診断すべき」というアプローチが推奨されています。
臨床像
発症年齢・経過
- 好発年齢:30〜50歳代
- 病態の進行:数か月〜数年かけて進行
重症化のリスク
- 血液悪性腫瘍の存在
- 重複感染(特にノカルジアや非結核性抗酸菌)
これらがあると、呼吸不全に至ることもあります。
原因分類
分類 | 内容 |
---|---|
自己免疫性PAP | 抗GM-CSF抗体陽性(全PAPの約90%) |
二次性PAP | 吸入性物質(シリカ、アルミニウム、チタンなど) |
血液疾患(MDS、白血病、GATA2欠損など) | |
同種造血幹細胞移植後 | |
一部の感染症 | |
先天性PAP | サーファクタント関連遺伝子の異常など |
※ 無機粉じん曝露でも抗GM-CSF抗体が陽性となることがあります。
血液検査所見
- 自己免疫性PAPでは血液検査での抗GM-CSF抗体陽性が重要。
- KL-6上昇
- SP-A/SP-D上昇
- CEA上昇
- CYFRA(シフラ)上昇
2-5は、Ⅱ型肺胞上皮の過形成によって生じる。ちなみにKL-6異常高値は、PAPかHPを疑う所見でもある。
画像所見:「crazy paving」がキーワード
胸部CTの特徴
- 両側性、対称性のすりガラス影
- 小葉間・小葉内隔壁の肥厚
- 胸膜直下が保たれる(subpleural sparing)
これらが合わさって、いわゆる「crazy paving pattern」(敷石状パターン)を形成します。
- この所見は、自己免疫性PAPや遺伝性PAPで典型的です。
- 一方、びまん性のすりガラス影のみがみられるタイプもあり、特に他の原因によるPAPに多いです。


PAP以外にcrazy pavingパターンを示す鑑別疾患は?
1. 感染性疾患
- ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jirovecii pneumonia, PCP)
- ウイルス性肺炎(インフルエンザ、COVID-19など)
- 非定型肺炎(マイコプラズマなど)
2. 間質性肺炎など
- 特発性DAD(旧名 AIP)/ARDS
- 器質化肺炎(COP, BOOP)
- NSIP(非特異的間質性肺炎)
3. 出血性疾患
- びまん性肺胞出血(DAH)
- GGOの原因が出血で、再吸収過程で隔壁肥厚が出現。
- 特に膠原病関連(SLEなど)で鑑別が重要。
4. 浮腫性疾患
- 心原性肺水腫
- 中心性分布でcrazy paving様になることがある。
- 急性好酸球性肺炎
- 浮腫性GGO+間質肥厚で一過性のcrazy paving像。
5. 悪性・浸潤性疾患
- 粘液産生性肺腺癌(mucinous adenocarcinoma)
- 腫瘍細胞が肺胞腔内にびまん性に広がりcrazy paving状。
- リンパ腫
- 肺胞隔壁へのリンパ球浸潤で類似像。
6. その他
- サルコイドーシス(まれ)
- 脂質性肺炎(脂肪吸入・薬剤性)
- 放射線肺臓炎
- 薬剤性肺障害(アミオダロンなど)
以上の鑑別疾患があるので、次のような病理所見がPAPの診断に重要になります。
病理所見
気管支肺胞洗浄液(BAL)
- 画像上でもある程度明瞭な所見を認める症例では、BAL液が乳白色を呈する。
- BAL液を放置すると沈殿を生じる。白色調が乏しい場合でも数十分間静置して沈殿の有無を確認することで診断の参考となる。
- なお、初期の症例では白濁や沈殿を示さないことがあるため、注意が必要。
病理組織
- 肺胞内に無構造な、HE染色で好酸性~両染性(ピンク~灰紫)、PAS染色陽性、SP-A染色陽性な物質が蓄積
- 泡沫状マクロファージ
- コレステロール結晶
- II型肺胞上皮細胞の過形成
- 成熟リンパ球の散在
- 間質はおおむね正常で、リンパ球浸潤も最小限。

両染性(amphophilia)とは?
酸性色素(エオジン)にも塩基性色素(ヘマトキシリン)にも親和性を示す性質を指す。
つまり、どちらの染料にも少しずつ染まるため、HE染色(Hematoxylin and Eosin stain)では次のように見えます。
- 純粋にヘマトキシリンで染まる部分 → 青紫色(=好塩基性)
- 純粋にエオジンで染まる部分 → ピンク~赤色(=好酸性)
- 両方に染まる部分 → 灰紫色~淡紫色(=両染性)
線維化症例の予後
- PAPの約20%に線維化を伴う。
- 特に先天型に多く、予後不良。
- 他の型でも線維化はまれに起こる。
治療
ポイントだけサクッとまとめます(2025年10月時点)。
日本で保険診療として可能
- 全肺洗浄(WLL:Whole Lung Lavage)
現在も肺胞蛋白症の標準治療として位置づけられています。全身麻酔下で片肺ずつ洗浄を行い、肺胞内に貯留した蛋白様物質を除去する方法です。呼吸不全の改善効果が確立しており、日本呼吸器学会のガイドラインでも第一選択治療として推奨されています。 - 吸入型GM-CSF(サルグマリン®:サルグラモスチム)〔自己免疫性PAP(aPAP)〕
2024年3月に承認され、同年5月22日に薬価収載、7月29日に発売された自己免疫性PAPに対する初の保険適用薬です。GM-CSF自己抗体により障害された肺胞マクロファージ機能を回復させることで、病態を根本的に改善することを目的としています。
ノーベルファーマ社(販売元)に問い合わせると投与手順や導入施設の情報提供が受けられます。全肺洗浄に比べて侵襲性が低く外来でも導入可能なため、治療適応のある患者ではこちらを優先的に検討する流れが広がっています。 - 基礎疾患の治療(続発性PAP)
血液疾患や吸入障害などに伴う続発性PAPでは、原因疾患の治療が基本です。特に血液疾患に合併する場合には、原疾患の標準治療を優先します。基礎疾患の寛解によって肺症状も改善する例が多く、PAPそのものに対する直接治療(全肺洗浄やGM-CSF投与)は補助的な位置づけになります。
ステロイドは×
- ステロイド全身投与は原則として推奨されません。
ステロイドによりマクロファージ機能がさらに抑制され、病態が悪化するおそれがあります。また、二次感染のリスク増加も指摘されており、PAPに特異的な治療効果は認められていません。
したがって、ステロイドは他の適応疾患(例:合併する自己免疫疾患など)がある場合を除き使用すべきではありません。
指定難病
- aPAP/先天性は指定難病に該当。管理区分重症度3以上であれば、医療費助成の対象になります。
難病情報センター: https://www.nanbyou.or.jp/entry/4775
まとめ
覚えておくべきポイント | 内容 |
---|---|
疾患の稀少性 | 100万人あたり7〜10人の希少疾患 |
主因 | 抗GM-CSF抗体などによるマクロファージ機能障害 |
主な年齢層 | 30〜50代、進行はゆっくり |
血液検査 | KL-6、SP-A、SP-D、CEA、CYFRA上昇 |
画像所見 | crazy paving+subpleural sparing |
病理所見 | 肺胞内の無構造物質と泡沫状マクロファージ |
診断のカギ | 白色+沈殿BAL液、抗GM-CSF抗体、CT所見 |
合併症に注意 | 血液悪性腫瘍や感染による悪化 |
治療 | – 全肺洗浄 – 吸入型GM-CSF(サルグマリン®:サルグラモスチム) – 基礎疾患の治療 |
最後に
PAPは稀ではありますが、特徴的な画像所見と検査所見を押さえることで診断に近づける疾患です。
本記事は「PAPの概要編」として位置付け、具体的な治療法や予後、フォローアップについては、別の記事で詳しく解説します。
PAP の臨床・画像・病理的特徴(英日対照表)
項目 | 英語原文 | 日本語訳 |
---|---|---|
Clinical | Presentation: – Highly variable onset. Risk factors: – Vary with underlying aetiology. | 臨床像: -発症様式は非常に多様。 リスク因子: – 基礎となる病因によって異なる。 |
Radiologic | – Central lung ground glass opacities with smooth interlobular and intralobular septal thickening in a crazy paving pattern. – Relative apical and costophrenic angle sparing | – 中枢領域にすりガラス様陰影がみられ、平滑な小葉間および小葉内隔壁の肥厚を伴い、「クレイジーペービング(敷石)パターン」を呈している。 – 相対的に肺尖部および肋骨横隔膜角は保たれている。 |
Pathologic | Diffuse or patchy intra-alveolar accumulation of acellular granular proteinaceous debris ± ancillary findings associated with secondary aetiologies | 肺胞内の無細胞性の顆粒状タンパク質性物質の貯留が、びまん性または斑状にみられる。 ± 二次的な病因に関連する付随所見を伴うことがある。 |
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