間質性肺疾患論文紹介

抗線維化薬治療の継続において、薬剤師と医師の連携は超重要だと思います。

Effectiveness of Pharmacist-Physician Collaborative Management for Patients With Idiopathic Pulmonary Fibrosis Receiving Pirfenidone. Satsuma Y, et al. Front Pharmacol. 2020. PMID: 33324201

2020年に神戸市立医療センター中央市民病院から報告された研究です。
非常に素晴らしい取り組みであり、ぜひ多くの医療機関で導入が進むことを期待したいですね。

まず最初に結論からいうと

以下のとおりです。

  1. 抗線維化薬は、IPFをはじめとする線維化性ILDの進行を抑える上で重要な薬剤です。本研究では、医師と薬剤師の連携が治療継続率を向上させることが明らかになりました。
  2. 具体的には、薬剤師による患者指導や、主治医への副作用管理・支持療法の提案が、抗線維化薬の長期継続を支える重要な役割を果たしていました。
  3. すぐに中止を要する重篤な副作用とは異なり、患者の理解を深めること、投与量の調整、支持療法の活用によって治療継続をコントロールできる薬剤では、こうしたアプローチが非常に有効です。
  4. 非常に意義のある取り組みであり、ぜひ多くの医療機関で広まってほしいですね。今回は医師と薬剤師の連携の重要性が報告されていますが、今後は看護師、栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカーなど、多職種チームでの支援がさらに重要になっていくでしょう。
  • 特発性肺線維症(IPF)は、進行性の肺疾患であり、慢性的な咳や息切れ、運動制限を特徴とします。
  • 予後は不良で、診断後の中央値生存期間は2~5年と報告されています。
  • 現在、IPFの治療には抗線維化薬のピルフェニドンとニンテダニブが承認されており、これらの薬剤は呼吸機能の悪化を抑える効果が確認されています。
  • この効果は国際的な臨床試験で証明されており、治療の選択肢として重要な役割を果たしています。
  • ピルフェニドンやニンテダニブを長期間継続することは、IPFの進行を抑えるために重要です。
  • しかし、ピルフェニドンでは消化器症状や皮膚トラブル、ニンテダニブでは肝障害や下痢などの副作用が問題となり、日常診療でも頻繁に直面します。
  • これらの副作用を適切に管理することが、治療継続の鍵となります。
  • 実際、副作用が原因で治療を中断する患者も少なくありません。
  • そこで、神戸市立医療センター中央市民病院では、医師と薬剤師が連携し、IPF患者の治療を支援する「外来薬剤師診療モデル」を導入しました。
  • 薬剤師が外来で患者に直接指導を行い、副作用の管理や服薬アドヒアランスの向上をサポートすることで、ピルフェニドンの継続率を高めることを目指しています。
  • この研究ではピルフェニドンを対象としていますが、同様の取り組みはニンテダニブや他の疾患の治療薬にも応用できるのではないでしょうか。
  • このモデルがどのように患者の治療に貢献したのか、研究結果をもとに詳しく見ていきます。

研究の背景

  • ピルフェニドンはIPF患者の治療に用いられる抗線維化薬である。
  • ピルフェニドン治療の効果を最大限に引き出すためには、有害事象の管理や長期的な服薬遵守の確保が重要であり、これにより疾患進行の抑制が期待される。

目的

  • 本研究では、ピルフェニドンを服用する患者を対象とし、薬剤師と医師が協力して管理を行う「外来薬剤師診療モデル」を確立し、その有効性を評価した。

方法

  • 2012年1月から2019年1月までの間に、神戸市立医療センター中央市民病院でピルフェニドン治療を受けた76名の連続した患者の診療録を後ろ向きに検討した。
  • 最初のグループ(61名)は従来の管理方法でピルフェニドン治療を受け、2番目のグループ(15名)は薬剤師と医師の協力による管理のもとでピルフェニドン治療を開始した。
  • 両グループの薬剤中止率および薬剤中止までの期間を比較した。
  • また、ピルフェニドン中止に関連する因子を分析するため、患者のベースライン特性を考慮し、多変量Cox回帰分析を用いて評価した。
  • さらに、プロペンシティスコアマッチング分析を用いて臨床転帰を比較した。

主な結果

  • 薬剤師と医師の協力管理グループでは、薬剤師が合計56件の提案を行い、そのうち51件が支持療法に関するものであった。
  • これらの提案のうち52件が医師に受け入れられた。
  • 3か月後の薬剤中止率は、協力管理グループで6.7%(1/15)、従来の管理グループで26.2%(16/61)。
  • 6か月後の薬剤中止率は、協力管理グループで9.1%(1/11)、従来の管理グループで36.1%(22/61)
  • 多変量解析の結果、ピルフェニドン中止と有意に関連していた変数は以下のとおり。
    1. 薬剤師と医師の協力管理(ハザード比(HR)0.34、95%信頼区間(CI)0.08–0.96、p = 0.041)
      →つまり、ハザード比1未満なので、協力すると中止しにくくなる。
    2. ベースラインの予測努力性肺活量(FVC)が60%未満であること(HR 2.13、95% CI 1.17–3.85、p = 0.015)
      →つまり、ハザード比が1以上なので、FVCが低いと中止しやすくなる。
  • 薬剤中止までの期間は、協力管理グループの方が従来の管理グループよりも有意に長かった(p = 0.034、ログランク検定)。
    →つまり、協力すると薬剤を長く継続できる。
  • プロペンシティスコアマッチング分析でも、協力管理と薬剤中止までの期間との間に有意な関連が確認された(HR 0.20、95% CI 0.03–0.84、p = 0.027)。

結論

  • 本研究では、IPF患者に対する外来薬剤師診療モデルを確立した。
  • その結果、薬剤師と医師の協力管理が、従来の管理方法と比較してピルフェニドンの中止を抑制する可能性が示唆された。

医師と薬剤師の連携で支えるIPF治療:外来薬剤師診療モデルの導入

  • 抗線維化薬の治療を継続することはIPFの進行を抑えるために重要ですが、副作用による中断が課題となっています。
  • そこで本研究では、医師と薬剤師が連携し、患者さんをサポートする「外来薬剤師診療モデル」の意義を検討しました。
  • このモデルでは、薬剤師が外来で患者さんに直接指導を行い、副作用管理や服薬アドヒアランスの向上を支援しているようです。

外来薬剤師診療モデルの仕組み

この診療モデルは、医師、薬剤師、看護師、栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカーからなる多職種IIP支援チームの一環として運用されています。2017年9月から開始され、患者さんがより安心して治療を続けられる環境を整えることを目的としています。

診療の流れ

  • ピルフェニドン開始時:患者さんは医師の診察後、薬剤師による外来指導を受けます。
  • 薬剤師の指導内容:初回投与量、増量スケジュール、副作用の管理、併用薬のチェックなどを実施します。
  • 2回目以降の受診:医師の診察前に薬剤師の指導を受け、副作用や服薬状況を評価します。
  • 情報共有:薬剤師が診療情報を電子カルテに入力し、支援チーム全体で患者さんの状態を把握します。

研究のポイント

  • 薬剤師が継続的に指導し、副作用の管理や服薬継続をサポート。
  • 服薬アドヒアランスを向上させることで、ピルフェニドンの中断率を低下させることを目指す。
  • ピルフェニドン開始後3か月間は必ず薬剤師の指導を受ける体制を構築し、希望者にはその後も継続的な支援を提供。

ピルフェニドンの中断率と協力管理の影響

  • 従来管理群では、12か月以内に21名(約35%)が有害事象で治療を中断
  • 協力管理群では、12か月以内の有害事象による中断は3名のみ(20%)
  • Kaplan–Meier解析では、協力管理群の治療継続期間が有意に長い結果

つまり、薬剤師が介入することで副作用の管理が改善し、治療継続率が向上した可能性が高いです。


多変量解析の結果

Cox回帰分析により、協力管理はピルフェニドン中断リスクを約66%低下させる(HR 0.34, p = 0.041)ことが示されました。また、予測FVC <60%は治療中断のリスク因子として有意でした(HR 2.13, p = 0.015)。

さらに、プロペンシティスコアマッチング解析でも、協力管理が治療継続に有利に働くことが確認されました(HR 0.20, p = 0.027)。


協力管理の具体的な内容

  • 協力管理群では、薬剤師が医師に対し、合計56件の提案を行いました。その内訳は以下の通りです。
  • 必要な支持療法薬の調整:38件(うち35件を医師が採用、92.1%)
  • 追加の支持療法の提案(制吐剤や光線過敏予防):13件(すべて採用、100%)
  • その他の提案:5件(うち4件を医師が採用、80.0%)
  • また、薬剤師は患者の服薬アドヒアランスを毎回評価し、ピルフェニドン開始後3か月間の服薬アドヒアランス中央値は99.4%(98.4–100%)でした。
  • 特に重要なのは、薬剤師による指導や、主治医への副作用管理・支持療法の提案が治療継続を後押しする点です。
  • すぐに中止を要する重篤な副作用とは異なり、患者の理解を深めることや、投与量の調整、支持療法の適用によって治療継続をコントロールできる薬剤では、こうしたアプローチが非常に有効だと考えられます。
  • とても素晴らしい取り組みであり、ぜひ多くの医療機関で広まってほしいですね。

まとめです。

今回の研究では、薬剤師と医師が連携することで、IPF患者の抗線維化薬治療の継続率を向上させる可能性があることが示されました。 薬剤師が副作用の管理や服薬指導を行うことで、患者さんが治療を続けやすい環境を整えることができたのです。

ピルフェニドンやニンテダニブは、IPFの進行を抑える重要な薬ですが、副作用による治療中断が課題でした。しかし、今回の研究結果から、医師と薬剤師の積極的な連携により、副作用による中断を減らし、治療の継続率を高めることができる可能性 が明らかになりました。

このような取り組みは、他の慢性疾患の薬物療法にも応用できる可能性があります。今後、さらに大規模な研究を行い、より多くの患者さんにとって有益な治療支援モデルが確立されることが期待されます。

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