HIV陰性患者のPneumocystis jirovecii 肺炎(PCP)は、急性発症・重症化が特徴であり、発見の遅れが致命的となり得ます。
しかし非HIV群では菌量が少なく、典型的な画像所見がそろっていても検査で陰性となることが珍しくないため、
「どの検査をどう組み合わせて診断を確定するか」が重要な鍵になります。
引用;Up-to-Date:Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of Pneumocystis pneumonia in patients without HIV
PCP・PJPを押さえておこう
- ニューモシスティス肺炎は Pneumocystis jirovecii によって引き起こされる肺炎で、典型的には 免疫抑制状態(HIV感染例、長期ステロイド投与、造血器腫瘍、臓器移植後など)において発症します。
- 英語では Pneumocystis pneumonia と呼ばれ、かつて病原体が Pneumocystis carinii とされていた時代には PCP(Pneumocystis carinii pneumonia) の略称が用いられていました。
その後、病原体の学名が Pneumocystis jirovecii に改訂されたことから、現在ではより正確な表記として PJP(Pneumocystis jirovecii pneumonia) が一般的です。 - ただし、“Pneumocystis pneumonia” の頭文字を取った PCP という略称も、臨床現場や文献中でなお広く使用されています。
検査所見
LDH
血清LDH上昇は最もよく知られたPJPの特徴です。
検査は特異的ではありませんが、補助的な手がかりとなります。
- 多くの症例で上昇(300〜1000 IU/L)しますが、他の炎症性疾患でも上昇するため特異的ではありません。
- HIV陰性患者ではHIV陽性例よりも上昇が軽度で、診断的価値は限定的です。
低酸素血症
呼吸不全が進行するわりに、画像所見の重症度とは一致しないことが多いです。
PaO₂ < 70 mmHg(room air)であれば重症例としてステロイド併用治療の適応にもなります。
β-Dグルカン(後述)
血清で測定可能な真菌細胞壁成分。PCPでも高値となり、スクリーニングに有用です。
しかし、初期には上昇していないことがあるので、疑わしい場合には数日空けて再検することが必要です。
診断の基本方針
PCPの診断は、以下の3つの柱で構成されます:
- 臨床的に疑う(症候・免疫抑制的な背景・画像)
- 微生物学的に証明する(確定診断)
- それが難しいときは推定診断+治療開始
個人的には、1.“臨床的に疑う力”が最も重要だと思っています。
診断アプローチは?
● 疑うタイミング
以下の組み合わせで強くPCPを疑います:
- 発熱、乾性咳嗽、進行性呼吸困難
- 免疫抑制薬(特にステロイド+免疫抑制剤)使用中
- 画像でびまん性スリガラス影
● 診断の流れ
- 臨床像・画像でPCPを疑う
- まず非侵襲的検査(β-Dグルカン、喀痰PCR)
- 確定しなければ気管支鏡検査で検体を採取し直接証明+PCR
- それでも不明な場合、肺生検または診断的治療へ
確定診断をどのようにするか?
確定診断は、病原体 Pneumocystis jirovecii の直接同定によって下されます。
具体的には以下のいずれか:
- 染色または蛍光抗体法による嚢子・栄養型の可視化
- PCRによる遺伝子検出
非HIV患者では菌量が少ないため、蛍光抗体法やPCRのような高感度検出法が必須です。
推定診断とはなんぞや?
採痰困難、BAL禁忌(重度低酸素血症など)の場合、以下の所見を組み合わせて推定診断とします。
- 臨床的にPCPが強く疑われる免疫的な背景。
- β-Dグルカン陽性
- 他の原因疾患の可能性が低い
この場合は、治療を開始しながら確定検査を並行して進めるのが原則です。
ただし、β-Dグルカンは他の真菌感染(アスペルギルス、カンジダなど)での陽性化や偽陽性も呈しうるため、
「他の鑑別や偽陽性を見抜く視点」も重要です。
各検査法の特徴
Pneumocystisは培養できないため、病原体の直接検出(顕微鏡・分子診断)が中心になります。
各検査法の特徴を整理します。
染色による検鏡
Pneumocystisは一般的なGram染色では染まりません。
以下の特殊染色で嚢子や栄養型を可視化します。
| 染色法 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| Gomoriメセナミン銀(GMS)染色 | 胞子壁を黒く染める | 最も古典的で確実 |
| トルイジンブルーO染色 | 簡便で迅速 | スクリーニング向き |
| カルコフルオール白 | 蛍光染色で感度高い | 蛍光顕微鏡が必要 |
| Giemsa / Wright染色 | 栄養型を青紫に染色 | 他の原虫との鑑別にも有用 |
| 直接蛍光抗体法(DFA) | 感度・特異度ともに高く、最も推奨 | 現在のスタンダード |
→ 非HIV例では菌量が少ないため、DFAやGMS染色の併用が望ましい。
検体の種類
| 検体 | 特徴 | 感度 |
|---|---|---|
| 誘発喀痰 | 非侵襲的、初期検査に有用 | HIV陰性では40〜70% |
| 気管支洗浄・肺胞洗浄液 | 標準検査。診断感度が最も高い | 約90〜95% |
| 経気管吸引液・TBLB組織 | 高感度だが侵襲的 | 最終手段 |
気管支洗浄・肺胞洗浄液が最も信頼性の高い検体であり、
HIV陰性例では早期に考慮することが重要ですが、呼吸不全例では誘発喀痰などが現実的ですね。
PCR法
PCRは現在のPJP診断における主役です。
- 感度:ほぼ100%に近い。染色陰性例でも陽性化する。
- 特異度:定着(colonization)との区別が問題となる。
- 定量PCR(real-time PCR)では菌量を数値化でき、感染と定着を判別しやすい。
BALでの定量PCR陽性+臨床症状一致の場合、ほぼ確実にPCPと診断して良いとされています。
β-Dグルカン測定
β-Dグルカンは真菌の細胞壁成分で、血清で定量可能な「非特異的真菌マーカー」です。
PJPでは高率に上昇しますが、他の真菌感染や偽陽性にも注意が必要です。
特徴:
- 感度:約90%、特異度:約80%
- カットオフ:施設により差あり
- 200 pg/mL以上ではPCPの可能性が高い
- 非HIVでは急性型が多いので、発症早期には上昇していないケースもあります。
この場合、翌日~数日後に再検するのがよいでしょう。 - 陽性化は治療開始後もしばらく持続するため、治療効果判定には不向き。
つまり、βDグルカン陰性まで治療・・・というのは不向き。
偽陽性原因:
- 他真菌感染(Candida, Aspergillus)
- 血液製剤、免疫グロブリン製剤
- 大量輸血、Pseudomonas感染
- 透析膜(セルロース系)使用
若手医師へ
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| β-Dグルカン | スクリーニング指標。特異性は低いが、臨床像や画像所見と組み合わせると診断に有用。 |
| PCR・蛍光染色 | 診断の中心。確定診断に最も有用。 |
| BAL採取 | 非HIV例では診断遅れを防ぐため早期実施検討。 |
| 推定診断 | β-Dグルカン陽性+臨床像一致で治療を始めることも。 |
| 注意点 | 偽陽性・偽陰性を理解し、過信しない。 |
まとめの一言
「PCPは“まず疑うこと”と“しっかり検査をすること”が重要。」
HIV陰性の免疫抑制患者で、発熱・乾性咳嗽・特徴的なスリガラス影を見たら、
β-Dグルカンを測定し、誘発喀痰や気管支鏡検査+PCRで確実に証明する。
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