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深掘り感染症いろいろ解説

🫁 若手医師のための ニューモシスティス肺炎:臓器移植後・免疫抑制下におけるワンポイントガイド

免疫抑制状態にある患者さん、特に臓器移植を受けた方や長期ステロイド・免疫抑制剤を使用中の方では、Pneumocystis jirovecii肺炎(PCPまたはPJP)の発症リスクが高まります。実臨床でも比較的遭遇頻度は高いのではないでしょうか?

その疫学をあらためて整理し、若手医師のみなさんに「いつ・どのように」気をつけるべきかを分かりやすく解説します。

引用;Up-to-Date:Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of Pneumocystis pneumonia in patients without HIV

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PCP・PJPを押さえておこう

  • ニューモシスティス肺炎は Pneumocystis jirovecii によって引き起こされる肺炎で、典型的には 免疫抑制状態(HIV感染例、長期ステロイド投与、造血器腫瘍、臓器移植後など)において発症します。
  • 英語では Pneumocystis pneumonia と呼ばれ、かつて病原体が Pneumocystis carinii とされていた時代には PCP(Pneumocystis carinii pneumonia) の略称が用いられていました。
    その後、病原体の学名が Pneumocystis jirovecii に改訂されたことから、現在ではより正確な表記として PJP(Pneumocystis jirovecii pneumonia) が一般的です。
  • ただし、“Pneumocystis pneumonia” の頭文字を取った PCP という略称も、臨床現場や文献中でなお広く使用されています。

疫学

HIV陰性群のPCPは、HIV陽性群より死亡率はむしろ高いことが特徴です。
報告によっては、非HIV患者の致死率は30〜60%に達するとされ、HIV患者の10〜20%前後より明らかに高値です。

背景として、非HIV群では発症時点での免疫抑制が急性かつ強力であるため、感染に対する防御機構が短期間で破綻します。
また、臨床現場では診断が遅れるケースも多く、それが重症化の一因になっています。

PCPの発症は、免疫抑制療法の普及・移植医療の進歩・がん治療薬の多様化とともに、年々増加傾向にあります。
つまり、「HIV陰性のPCP」は、もはや特殊感染ではなく、一般内科医・総合診療医が日常的に遭遇し得る疾患です。


感染経路・伝播様式

Pneumocystis jirovecii は、ヒトの肺に常在的に存在する可能性がある真菌様微生物です。
したがって、気道から採取した検体でPCR検査を行うと、PCPを発症していなくとも陽性になることがあります。

かつては原虫に分類されていましたが、現在では真菌に近いとされています。

感染経路は主に空気感染(飛沫核・エアロゾル)と考えられています。
健常者でも一時的に肺内に保菌(コロニー化)している場合があり、症状を出さずに他者へ伝播する“サイレントキャリア”の役割を果たす可能性があります。

臓器移植病棟などでは、同一遺伝子型株による院内クラスター発生の報告もあり、
人から人への感染、あるいは共通環境(換気・気道吸引など)を介した伝播の可能性が示唆されています。

このため、PCP患者の隔離や、同室に免疫抑制患者を置かないといった感染管理も、臨床上の重要なポイントです。


リスク因子

PCP発症の最大のリスクは、細胞性免疫の障害(特にCD4陽性T細胞の減少)です。
HIV以外でも、免疫抑制薬・がん治療・移植・自己免疫疾患治療など、多様な要因で同様の免疫低下が生じます。

以下に、主要なハイリスク群を解説します。


Cancer(がん)

がん患者、特に血液腫瘍(白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫など)ではPCP発症リスクが高いです。
これは、化学療法や放射線治療、造血幹細胞抑制によるリンパ球減少が原因です。

固形がんでも、長期のステロイド使用、抗がん剤の併用により発症報告があります。
特に、化学療法後の白血球減少期や長期ステロイド併用中の患者では、数%レベルでPCPが発症します。


Hematopoietic cell transplantation(造血幹細胞移植)

造血幹細胞移植(HCT)患者は、最もPCPリスクが高い集団の一つです。
移植直後(30〜180日)に発症する例が多いものの、慢性GVHDの治療中にも発生します。

移植後の感染防御機構は著しく低下しており、PCP予防薬(通常はST合剤)継続するのが推奨です。
予防を中断したタイミングでPCPを発症する例も少なくありません。


Solid organ transplantation(臓器移植)

臓器移植後は、拒絶反応抑制のため強力な免疫抑制が行われます。
臓器別では、腎移植でリスクが最も低く、肺・心肺移植で最も高いとされます。

発症ピークは術後1〜6か月で、予防未実施例では5〜15%の発症率が報告されています。

移植センターで同一株によるPCPクラスターが発生した報告もあり、
病棟内伝播のリスク管理が特に重要です。


Immunosuppressive drugs(免疫抑制薬)

免疫抑制薬の使用量・期間・併用状況がPCPリスクを大きく左右します。

高リスク薬剤の例:

  • グルココルチコイド(ステロイド)
  • シクロホスファミドなどの細胞障害性薬剤
  • メトトレキサート、アザチオプリン
  • フルダラビン、テモゾロミド(化学療法薬)
  • mTOR阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬
  • 生物学的製剤(抗CD52抗体、抗CD20抗体、抗TNFα抗体、抗IL-6抗体など)

特に、ステロイド+免疫抑制剤併用、あるいは白血球減少期の併用療法は極めて危険です。
ステロイド単独ではリスクが低いものの、10mg/日以上を3〜4週間超えると発症報告があります。


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Rheumatologic diseases(膠原病・リウマチ性疾患)

膠原病患者は、疾患自体の免疫異常に加え、治療に用いる免疫抑制薬の影響でPCPリスクが上昇します。

多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)では特に発症率が高く、
同程度の免疫抑制を行っても、SLE患者よりPCPを起こしやすいと報告されています。
背景に間質性肺炎の合併や、リンパ球減少の程度が深いことが関係しています。

リウマチ性疾患でステロイドや生物学的製剤(例:トシリズマブ、リツキシマブ)を併用中の患者では、
発熱や咳を単なる薬剤性肺炎と見なさず、PCPも鑑別に挙げることが重要です。


Primary immunodeficiencies(先天性免疫不全)

先天的な免疫異常(例:高IgM症候群、重症複合免疫不全症など)では、
CD4細胞機能の低下によりPCPを自然発症することがあります。
この群は小児期に多く見られますが、成人で診断される例もあります。

これらの患者では、初発感染としてPCPが診断契機になる場合もあるため、
若手医師は「免疫不全を背景に持つかもしれないPCP」を意識することが大切です。


Immunocompetent patients(免疫正常者)

非常に稀ではありますが、免疫正常者にもPCPが報告されています。
これは多くの場合、一過性のコロニー化から感染に進展したと考えられます。

基礎疾患がなくても、高齢、喫煙、ウイルス感染後、長期ICU入院などで
局所免疫防御が低下した状態では、PCPを発症することがあります。

ただし、免疫正常者では症状が軽度で経過も良好な例が多いです。


若手医師へのまとめ

  • HIV陰性でもPCPは起こる。
  • 発症は急性で、進行も早く、死亡率が高い。
  • 「免疫抑制+発熱・乾性咳嗽・呼吸困難」が揃えばPCPをまず疑う
  • 高リスク群(移植・膠原病・血液腫瘍など)では予防投与(ST合剤、アトバコン、ペンタミジン吸入)を検討。
    →私は、PSL治療中はできるだけ予防治療を行っています。
    ST合剤(ダイフェン・バクタ):1T/日 連日または週3日のみ
    サムチレール:10mL/日 1回/日 連日または週3日のみ
  • 病棟内では患者同士の伝播リスク管理も忘れずに。

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