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感染症論文紹介

HIV以外の免疫抑制によるニューモシスティス肺炎におけるステロイド──28日死亡率に差はなし、それでも見逃せない90日後の効果

抄録だけを見ると『なんだ、28日死亡率に差がないんかい!!』と思ってしまいがちですが、実際にはステロイド併用群の方が28日死亡率に改善傾向があり、さらに90日死亡率や挿管回避率では有意に良好な結果が得られています。

Adjunctive corticosteroids in non-AIDS patients with severe Pneumocystis jirovecii pneumonia (PIC): a multicentre, double-blind, randomised controlled trial. Virginie Lemiale et al. The Lancet Respiratory Medicine, 2025.

以下上記の論文から引用します。

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はじめに

この疾患は、病原体 Pneumocystis jirovecii によることから、国際的には「PJP(Pneumocystis jirovecii pneumonia)」と表記されることが多く、今回の論文でもそのように記載されています。ただし、日本国内では依然として「PCP(Pneumocystis 肺炎)」という略称が一般的に使われていますね。

HIV陰性の免疫不全患者でのPCP(PJP)は、AIDS患者よりも経過が急で、低酸素血症や人工呼吸管理の必要性が高く、院内死亡率も30–50%と高いとされています。

HIV陽性PCPではステロイド併用でアウトカム改善が示されていますが、HIV陰性で同じ効果があるかははっきりしていなかったのですね。

そこで本試験は、重症PJP(多くがICU)に対して、早期から21日間のメチルプレドニゾロン補助療法を行うと、

短期・中期の死亡率や人工呼吸管理などが改善するのかを、二重盲検のRCTで検証しました。

背景

HIV陰性の免疫不全患者におけるPneumocystis jirovecii肺炎(PJP)の院内死亡率は30–50%である。

補助的コルチコステロイドはHIV陽性患者のPJP転帰を改善することが知られている。

本試験の目的は、急性低酸素性呼吸不全を引き起こすPJPを有するHIV陰性患者に対し、21日間の早期補助的コルチコステロイド療法の効果を評価することである。

方法

本多施設二重盲検ランダム化比較試験はフランス27病院で実施した。

急性呼吸不全を呈し、年齢18歳以上、軽度から重度の低酸素血症があり、PJPの微生物学的裏付けがあり、抗Pneumocystis治療期間が7日未満の患者を組み入れた。

患者は1:1で

  • コルチコステロイド群(メチルプレドニゾロン静注:1–5日目30 mg 1日2回、6–10日目30 mg 1日1回、21日目まで20 mg 1日1回)
  • またはプラセボ群(等張食塩水静注)に、ウェブベースのシステムで無作為割付した。

層別因子は

  • 施設、
  • 登録1か月以上前からの長期コルチコステロイド治療、
  • 基礎疾患(悪性腫瘍 vs その他)、
  • 無作為化時の酸素需要(<6 vs ≥6 L/分)

であった。

主要評価項目はITT集団での全原因28日死亡。

試験登録番号はNCT02944045(終了)

結果

2017年2月23日から2024年2月23日までに466例が適格性評価され、240例が除外、226例が無作為化された(プラセボ114、コルチコステロイド112)。

ITT集団はプラセボ111例、コルチコステロイド107例であった。

年齢中央値は67歳(IQR 59–73)、男性126例(58%)、女性92例(42%)であった。

ほぼ全例(208例[95%])が無作為化時にICUまたは中間治療にいた。

PJP診断からコルチコステロイド開始までの中央値は3日(IQR 2–5)であった。

試験治療の投与期間は中央値13日(7–20日)であった。

全原因28日死亡は

  • プラセボ36例(32.4%)に対し、
  • コルチコステロイド23例(21.5%)であった。
  • 平均差10.9%[95%CI −0.9–22.5];p=0.069

安全性アウトカムに有意差はなく、

二次感染(プラセボ38例[34.2%] vs ステロイド25例[23.4%])やインスリン必要性(25例[22.5%] vs 33例[30.8%])に差を認めなかった。

結語

免疫不全のHIV陰性PJP患者において、補助的コルチコステロイド治療は28日死亡を有意には減少させなかった。


しかしここからが重要なんですよ

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どういう結果だったの?

  • 28日死亡率は、プラセボ群で32.4%、ステロイド群で21.5%でしたが、有意差には至らず(p=0.069)・・・・、しかし??
  • 90日死亡率はプラセボ群43.2%、ステロイド群28.0%であり、有意に低下(p=0.022)
  • 人工呼吸器管理の必要性もステロイド群で有意に低かった(26.1% → 10.1%, p=0.020)
  • 副作用(感染症・インスリン需要)に関しては、群間で有意差なし。

これらの結果から、短期的な効果(28日以内の死亡率)では有意差がつかないものの、長期的には生存率の改善が期待できる結果となりましたね。

新規性

この研究は、HIV陰性の重症PJPに対する補助的コルチコステロイドを多施設二重盲検RCTで初めて本格的に検証した点が新規です。

過去は主に後ろ向き研究やメタ解析で、効果について結論が割れていましたが、本試験では28日死亡に有意差はないものの90日死亡は低下非挿管での挿管回避という臨床的に意味のあるアウトカムを示しました。

安全性面で大きな懸念がなかった点も、実装可能性の観点で重要ですね。


臨床にどう活かすか?

この論文ではメチルプレドニゾロン静注となっています。

  • 1–5日目:30 mg 1日2回
  • 6–10日目:30 mg 1日1回
  • 11–21日目:20 mg 1日1回
    現場では、この低〜中等量レジメンを抗Pneumocystis治療(ST合剤やアトバコン)と併用する感じですね。

これを、プレドニゾロン(PSL)に換算すると

  • 1–5日目:37.5~40 mg 1日2回
  • 6–10日目:37.5~40 mg 1日1回
  • 11–21日目:25 mg 1日1回
    という感じでしょうか。

我々の実臨床では、HIV-PCPに対するステロイド治療に準じてはPSLを、

  • 1–5日目:80 mg/日
  • 6–10日目:40 mg/日
  • 11–21日目:20 mg/日
    というように投与していることが多いので、似たようなレジメンですね。

まとめ

AIDS以外の免疫抑制患者におけるPJPに対して、実臨床ではステロイドを使うことが多いと思いますが、この研究はそれを支持する以下のポイントを示しています。

  • 発症早期に低用量ステロイドを追加することで、90日死亡率や挿管率が下がる可能性がある
  • ステロイド内服中や抗がん剤治療中の患者でも、安全に使用できる
  • 感染症や高血糖などの副作用を、過度に恐れる必要はない

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