〜HIV陽性PCPとの違いを理解する〜
引用;Up-to-Date:Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of Pneumocystis pneumonia in patients without HIV
PCP・PJPを押さえておこう
- ニューモシスティス肺炎は Pneumocystis jirovecii によって引き起こされる肺炎で、典型的には 免疫抑制状態(HIV感染例、長期ステロイド投与、造血器腫瘍、臓器移植後など)において発症します。
- 英語では Pneumocystis pneumonia と呼ばれ、かつて病原体が Pneumocystis carinii とされていた時代には PCP(Pneumocystis carinii pneumonia) の略称が用いられていました。
その後、病原体の学名が Pneumocystis jirovecii に改訂されたことから、現在ではより正確な表記として PJP(Pneumocystis jirovecii pneumonia) が一般的です。 - ただし、“Pneumocystis pneumonia” の頭文字を取った PCP という略称も、臨床現場や文献中でなお広く使用されています。
非HIV患者では「急性発症・重症化」がキーワード
HIV陰性の患者におけるPCPは、発症が急で、重症化しやすいという特徴があります。
臨床現場では「普通の肺炎より進行が早い」「ステロイド中の患者で突然呼吸状態が悪化した」などの印象を持つケースが多いでしょう。
主な症状
- 発熱
- 乾性咳嗽(痰がほとんど出ない)
- 進行性に悪化する呼吸困難
発症から数日〜数週間のうちに、急速に低酸素血症や呼吸不全に至ることもあります。
特に免疫抑制薬・ステロイド治療中の患者では進行が早く、入院後わずか数日で人工呼吸管理を要することもあります。
稀ではあるが「肺外感染」も
肺以外の臓器に感染が及ぶ肺外PCPはまれですが、報告例として以下の部位が知られています。
- 肝臓
- 脾臓
- 骨髄
- リンパ節
- 甲状腺
- 眼球
特に、吸入ペンタミジンによる肺への局所予防を行っているHIV患者では、肺外感染の報告が多いとされています。
画像の特徴:びまん性すりガラス影
画像所見として典型的なのは、
- 両側びまん性の間質性陰影
- すりガラス様陰影(Ground-glass opacity; GGO)
HRCTではこのGGOが高頻度にみられ、症状の進行に伴って斑状影が融合し、広範囲な浸潤影を呈することもあります。
詳細な画像診断の解説は別記事で紹介していますが、“GGO+免疫抑制状態”という組み合わせでは常にPCPを疑う姿勢が大切です。
HIV陽性と陰性のPCP:臨床経過の対比
| 特徴 | HIV陽性PCP | HIV陰性PCP |
|---|---|---|
| 発症様式 | 亜急性(数週〜数か月) | 急性(数日〜数週間) |
| 進行スピード | 緩徐 | 急速に悪化 |
| 呼吸不全 | 遅れて出現することが多い | 早期に出現、重症化しやすい |
| 症状 | 徐々に進行する咳・発熱・倦怠感 | 急な呼吸困難・発熱・乾性咳嗽 |
| 酸素化障害 | 軽度〜中等度 | 重度の低酸素血症が多い |
| 予後 | 治療後の改善が比較的良好 | 治療遅れで致死率が高い(30〜50%報告あり) |
HIV”陽性”患者では慢性的な免疫抑制(CD4低下)により徐々に発症する一方、
HIV”陰性”患者では急激な免疫抑制(例:ステロイド増量、化学療法開始、移植後など)を契機に一気に発症・悪化します。
若手医師へのアドバイス
「発熱+乾性咳嗽+呼吸困難」
この3つが免疫抑制患者に揃ったら、まずPCPを疑う。
一般的な肺炎(細菌性やウイルス性)と比べて、
- 痰が少ない
- 進行が速い
- 画像が非典型的(すりガラス影主体)
という点を常に意識しましょう。
診断の遅れが転帰を左右する感染症です。
特にステロイド治療中・造血幹細胞移植後・生物学的製剤併用中の患者では、PCPを“鑑別リストの上位”に置くことが重要です。
まとめ
HIV陰性PCPは、HIV陽性PCPと異なり、進行が速く・重症化しやすい疾患です。
免疫抑制療法を受けている患者で上記の症状を見たら、
“もしかしてPCPかもしれない”という直感を持ち、
早期の画像評価と診断検査(PCR・β-Dグルカンなど)につなげましょう。
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若手医師のための ニューモシスティス肺炎の胸部HRCTワンポイントガイド
若手医師のためのニューモシスティス肺炎:HIV陰性患者における臨床像

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