呼吸不全肺癌論文紹介

PD-L1陰性転移性NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬の数による長期生存率系統的レビューおよびメタ解析

Long-Term Survival by Number of Immune Checkpoint Inhibitors in PD-L1-Negative Metastatic NSCLC: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ponvilawan B, et al. JAMA Netw Open. 2025.

まず最初にまとめからいうと

以下のとおりです。

この論文は、「PD-L1陰性の進行非小細胞肺癌(NSCLC)患者において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を含む治療レジメンの長期生存率(5年)を比較するため」に行われた、「第3相ランダム化比較試験(RCT)6件を対象にした系統的レビューおよびメタ解析研究」です。

✅ PD-L1陰性でもICI併用は効果がある → 化学療法単独よりも死亡リスク25%低下(HR 0.75、95%CI 0.66-0.85)
✅ デュアルICIの方がシングルICIよりOS改善傾向 → デュアルICI:HR 0.69(95%CI 0.60-0.79)、シングルICI:HR 0.80(95%CI 0.66-0.95)
✅ KEYNOTE-189(ペムブロリズマブ+化学療法)が特に優れた結果 → HR 0.55(95%CI 0.39-0.77)
✅ 扁平上皮癌ではデュアルICIが優勢 → デュアルICI:HR 0.52(95%CI 0.33-0.81)、シングルICI:HR 0.85(95%CI 0.66-1.10)
✅ 非扁平上皮癌ではどちらのICIも効果あり → デュアルICI:HR 0.71(95%CI 0.56-0.90)、シングルICI:HR 0.71(95%CI 0.61-0.82)

扁平上皮癌ではデュアルICI療法(PD-1/PD-L1+CTLA-4併用)が有望 であり、非扁平上皮癌ではシングルICI療法(PD-1/PD-L1+化学療法)でも十分効果がある ことが示唆されました。
5年生存率を含む長期生存データに基づく解析であり、患者さんにICI治療の効果や長期的な見通しを説明するうえで重要なエビデンス となります。

  • ICIは、肺癌治療に欠かせない存在となりました。
  • 特に、PD-L1が高発現している患者さんでは、ICIによって劇的に治療成績が向上するケースも珍しくありません。
  • しかし、PD-L1陰性の患者さんではどうでしょうか?「ICIは使っても効果が薄いんじゃないか…」そんな悩みを抱えながら、化学療法と組み合わせて何とか治療している先生方も多いはずです。
  • 最近は、ICI単剤+化学療法に加え、ICI2剤併用+化学療法(例えば、抗PD-1抗体+抗CTLA-4抗体)という強化療法も登場し、「PD-L1陰性でも効くのでは?」という期待も出てきました。
  • しかし、「どれが本当に良いのか?」という疑問はまだスッキリ解消されていません。
  • そんなモヤモヤを解消すべく、最近、PD-L1陰性の転移性NSCLC患者さんにおける長期生存データをまとめたメタ解析が発表されました。
  • 具体的には、2022年から2024年にかけて公表された第3相RCTから、次の条件を満たすものだけを集めました。
    • 進行または転移性のNSCLC患者が対象
    • PD-L1陰性に限定
    • ICI+化学療法と化学療法単独を比較
    • 5年全生存率(OS)または無増悪生存率(PFS)を報告
  • つまり、最近の長期フォローアップデータが得られている信頼性の高いRCTだけを厳選し、ICI治療の効果を見ています。
  • この論文では、「シングルICIとデュアルICI、長期的に見てどっちが良いの?」という疑問に答えるヒントが示されています。今回は、その注目の研究について、勉強していきます。

序論

  • ICIは、化学療法の有無にかかわらず、ドライバー遺伝子変異を持たない転移性NSCLC患者に対する一次治療の標準治療である。
  • しかし、PD-L1陰性の患者は、ICIと化学療法を併用してもPD-L1陽性の患者よりも生存率が低いことが知られている。
  • 現在、複数の一次治療ICIレジメンが存在するが、PD-L1陰性患者に最適な治療レジメンは未だ明確ではない。
  • また、PD-1/PD-L1経路の標的に加え、細胞傷害性Tリンパ球抗原(CTLA-4)の抑制がさらなる生存利益をもたらすかも不明である。
  • 最近、進行NSCLC患者を対象に、ICI+化学療法に関する複数の第3相試験から長期生存データが得られるようになったため、PD-L1陰性NSCLC患者に対する各レジメン間での生存率の違いを検討した。

方法

  • 本研究は、PRISMA(系統的レビューおよびメタ解析の報告基準)に基づき実施した。
  • 2022年から2024年に発表された第3相ランダム化比較試験(RCT)のうち、PD-L1陰性の進行または転移性NSCLC患者において、ICI含有レジメン化学療法単独とを比較し、5年OSまたはPFSを報告した試験を対象とした。PD-L1判定不能の患者は除外した。
  • OSおよびPFSのハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を逆分散法で統合解析した。また、組織型別(扁平上皮、非扁平上皮)のサブグループ解析も行った。

結果

  • 6件のRCT、計1684人の患者を対象とした。OSイベント1480件、PFSイベント1228件が記録された。
  • ICI群は化学療法群よりもOS(HR 0.75、95%CI 0.66-0.85、異質性I²=41%)、PFS(HR 0.72、95%CI 0.64-0.81、I²=0%)で有意に良好であった。
  • ICI2剤併用(デュアルICI)はICI単剤+化学療法(シングルICI)よりもOS改善効果が大きかったが、有意差はなかった(デュアルICI:HR 0.69、95%CI 0.60-0.79、シングルICI:HR 0.80、95%CI 0.66-0.95、P=0.21)。
  • シングルICI群の中では、KEYNOTE-189試験が特に優れたOS改善を示した(HR 0.55、95%CI 0.39-0.77)。
  • この試験を除外して解析すると、OS改善効果は減弱した(HR 0.86、95%CI 0.75-0.99、I²=0%)。
  • PFSについては、デュアルICI(HR 0.73、95%CI 0.61-0.88)とシングルICI(HR 0.71、95%CI 0.61-0.83)に差はなかった(P=0.81)。
  • 組織型別解析では以下の結果であった。
  1. 扁平上皮癌:デュアルICIでOS改善(HR 0.52、95%CI 0.33-0.81)、シングルICIでは改善なし(HR 0.85、95%CI 0.66-1.10)。
  2. 非扁平上皮癌:デュアルICI・シングルICIともにOS改善(HR 0.71、95%CI 0.61-0.82)。

結語

  • PD-L1陰性転移性NSCLC患者では、ICI含有レジメンは化学療法単独よりも生存率が良好である。
  • 扁平上皮癌にはデュアルICIレジメンが有望であり、非扁平上皮癌にはシングルICIレジメンが適している可能性がある。
  • 扁平上皮癌でのデュアルICIの有用性を確認するために、さらなるRCTが必要である。

論文に掲載されている表(Table. Summary of Characteristics of the Studies Included in the Meta-Analysis)の内容を、日本語で表の形式のまま以下に訳します。

特徴POSEIDONCheckMate 9LACheckMate 227KEYNOTE-189KEYNOTE-407CameL
出典Peters et al, 2023Reck et al, 2024Brahmer et al, 2022Garassino et al, 2023Novello et al, 2022Zhou et al, 2024
患者数DUR, TRE, 化学療法:125人
DUR+化学療法:113人
化学療法:130人
NIV, IPI, 化学療法:135人 化学療法:129人NIV+IPI:187人
NIV+化学療法:177人
化学療法:186人
PEM+化学療法:127人
化学療法:63人
PEM+化学療法:95人
化学療法:99人
CAM+化学療法:49人
化学療法:69人
患者集団転移性PD-L1陰性NSCLC転移性または再発PD-L1陰性NSCLC転移性または再発PD-L1陰性NSCLC転移性非扁平上皮PD-L1陰性NSCLC転移性扁平上皮PD-L1陰性NSCLCステージIIIB~IV非扁平上皮PD-L1陰性NSCLC
治療(1) DUR, TRE, 化学療法 Q3W×4サイクル、その後TREを16週目に投与しDURはQ4Wで継続
(2) DUR+化学療法 Q3W×4サイクル、その後DURをQ4Wで継続
(3) 化学療法 Q3W 最大6サイクル
(1) NIV Q3W+IPI Q6W+化学療法 Q3W×2サイクル
(2) 化学療法 Q3W×4サイクル
(1) NIV Q3W+IPI Q6W
(2) NIV+化学療法 Q3W×4サイクル
(3) 化学療法 Q3W×4サイクル
(1) PEM+化学療法 Q3W×4サイクル、その後PEM+ペメトレキセド維持療法
(2) PBO+化学療法 Q3W×4サイクル、その後PBO+ペメトレキセド維持療法
(1) PEM+化学療法 Q3W×4サイクル、その後PEM維持療法
(2) PBO+化学療法 Q3W×4サイクル、その後PBO維持療法
(1) CAM+化学療法 Q3W×4~6サイクル、その後CAM+ペメトレキセド維持療法
(2) CAM+化学療法 Q3W×4~6サイクル、その後ペメトレキセド維持療法
評価項目OS、PFSOS、PFSOS、PFSOS、PFSOS、PFSPFS、OS
EGFR/ALK変異除外除外除外除外該当なし除外
組織型非扁平上皮・扁平上皮両方非扁平上皮・扁平上皮両方非扁平上皮・扁平上皮両方非扁平上皮扁平上皮非扁平上皮

【略語】CAM: カムレリズマブ、CMT: 化学療法、DUR: デュルバルマブ、IPI: イピリムマブ、NIV: ニボルマブ、PBO: プラセボ、PEM: ペムブロリズマブ、TRE: トレメリムマブ 文献より引用改変。

もう少し詳しく

本研究では、PD-L1陰性の転移性NSCLCにおいて、ICIの効果を統合解析しました。
ICIを含む治療を受けた患者は、ICIなしの化学療法のみの患者よりも、OSおよびPFSの両方で有意に良い結果を示しました。


ICIの有効性

  • ICI併用患者では、死亡リスクが25%低下 しました(HR 0.75、95%CI 0.66-0.85)。
  • 進行・再発リスクも28%低下 しました(HR 0.72、95%CI 0.64-0.81)。
  • つまり、PD-L1陰性の患者でも、ICI併用は化学療法単独よりも明らかに効果があったことがわかりました。

デュアルICI vs. シングルICI

  • デュアルICI療法(PD-1/PD-L1+CTLA-4併用) の方が、シングルICI療法(PD-1/PD-L1単剤+化学療法)よりもOS改善効果が大きい傾向 にありましたが、統計的には有意差はありませんでした(デュアルICI:HR 0.69、95%CI 0.60-0.79、シングルICI:HR 0.80、95%CI 0.66-0.95、p=0.21)。
  • 特に、KEYNOTE-189試験(ペムブロリズマブ+化学療法) は、シングルICI群の中でも最も良好な成績(HR 0.55、95%CI 0.39-0.77) を示しました。
  • 一方で、このKEYNOTE-189試験を除外すると、シングルICI全体でのOS改善効果は弱まり(HR 0.86、95%CI 0.75-0.99)、KEYNOTE-189試験がICIの全体成績を押し上げている可能性 が示唆されました。

PFSについて

  • デュアルICI:HR 0.73、95%CI 0.61-0.88
  • シングルICI:HR 0.71、95%CI 0.61-0.83
    → デュアルICIとシングルICIでPFSに有意差はありませんでした(p=0.81)。

組織型

【扁平上皮癌】

  • デュアルICIはOSを有意に改善(HR 0.52、95%CI 0.33-0.81)
  • シングルICIはOS改善効果なし(HR 0.85、95%CI 0.66-1.10)

【非扁平上皮癌】

  • デュアルICI:HR 0.71、95%CI 0.56-0.90
  • シングルICI:HR 0.71、95%CI 0.61-0.82
    どちらもOS改善効果あり


まとめ


まとめです。

✅ PD-L1陰性でもICI併用は効果がある → 化学療法単独よりも死亡リスク25%低下(HR 0.75、95%CI 0.66-0.85)
✅ デュアルICIの方がシングルICIよりOS改善傾向 → デュアルICI:HR 0.69(95%CI 0.60-0.79)、シングルICI:HR 0.80(95%CI 0.66-0.95)
✅ KEYNOTE-189(ペムブロリズマブ+化学療法)が特に優れた結果 → HR 0.55(95%CI 0.39-0.77)
✅ 扁平上皮癌ではデュアルICIが優勢 → デュアルICI:HR 0.52(95%CI 0.33-0.81)、シングルICI:HR 0.85(95%CI 0.66-1.10)
✅ 非扁平上皮癌ではどちらのICIも効果あり → デュアルICI:HR 0.71(95%CI 0.56-0.90)、シングルICI:HR 0.71(95%CI 0.61-0.82)




  • 今回ご紹介した研究により、PD-L1陰性の進行NSCLC患者さんにもICI併用化学療法は効果がある ことが明らかになりました。
  • 特に注目すべきは、非扁平上皮癌においてペムブロリズマブ(KEYNOTEレジメン)+化学療法が非常に優れた成績 を示していた点です。このレジメンでは、死亡リスクが約45%低下(HR 0.55、95%CI 0.39-0.77) しており、非扁平上皮癌のPD-L1陰性患者さんにおいて、現時点で最も信頼できる選択肢 と言えます。
  • また、扁平上皮癌ではデュアルICI療法(PD-1/PD-L1+CTLA-4併用)が生存期間改善に有望 であることも確認されました。
  • 一方、非扁平上皮癌ではデュアルICI療法でもシングルICI療法でも効果は得られる ため、KEYNOTEレジメン(ペムブロリズマブ+化学療法)を第一選択として検討する価値が高い でしょう。
  • ただし、試験ごとに患者さんの背景や化学療法の細かい組み合わせが異なっていたため、「誰にどのICI療法が最適か」は今後も検討が必要 です。
  • 肺癌治療では、組織型や患者背景に合わせた個別化医療の視点がますます重要になっていきそうです。

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