呼吸機能検査で拘束性障害(FVC↓)を指摘された患者さんが紹介されてきたけれど――
CTを見ても肺野、胸郭、脊椎すべて“正常”に見える。
こういうケース、呼吸器内科では意外とよくあります。
でも油断は禁物。画像上は正常でも、呼吸機能に影響を与える“隠れた原因”が潜んでいることがあります。
今回は、そんなときに鑑別すべきポイントを5つに整理してみました。
1. 肥満(Obesity-related restrictive pattern)
実は、胸部CTが正常でも拘束性障害を引き起こす代表的な原因が「肥満」です。
とくに腹部肥満(内臓脂肪型)では、お腹周りの脂肪が横隔膜を圧迫し、呼吸の動きそのものを制限します。
- FVC・TLCが低下
- FEV1/FVC比は正常または高値
- DLCOも軽度低下することがあります
ヒント:CT画像に写る腹部断面にも脂肪量の増加が見られることがあります
💡 一見肺はきれいでも、“お腹の厚み”が呼吸を制限していることを忘れずに!
2. 神経筋疾患
画像で肺や胸郭が正常でも、呼吸筋そのものが弱っている場合、FVCは低下します。
筋ジストロフィー、ALS、重症筋無力症など、進行性の神経筋疾患、皮膚筋炎や多発性筋炎では特に注意。
ヒントになる所見:
- 声が出しにくい、食べ物をこぼすなどの構音・嚥下障害
- 四肢の筋力低下、左右差
- 日中の眠気・朝の頭痛(夜間低換気のサイン)
💡 DLCOが正常~保たれているのにFVCが下がっているときは、神経筋疾患を強く疑います。
3. 努力不足/検査エラー
呼吸機能検査は「努力」が試される検査です。
患者さんの協力が不十分だったり、検査時の指導が不十分だと、見かけ上の拘束性障害に見えてしまうことがあります。
- FVCのばらつきが大きい
- 呼気が短い・途中で止まっている
- 年齢や体格に合わない異常値
- 高齢者では口のゆるみや入れ歯が原因になることも。
💡 repeatability(再現性)の確認が基本!
「変だな?」と思ったら再検査を。
4. 初期の間質性肺疾患や微細病変
HRCTでも明らかな線維化が見えないようなごく早期のILDが隠れていることがあります。
- CTでは正常 or 軽微なびまん性陰影
- でもDLCOが低下している
- 背景に膠原病、薬剤、家族歴などがあれば要注意
ただし、呼吸器内科的な視点で丁寧に読影すると、
「まったく正常」とは言い切れないような微細な異常所見が何らか認められることが多いのも事実です。
👉「正常CT」に見えても、呼吸器専門医による再読影や議論で新たな所見が見つかるケースは少なくありません。
5. 加齢による生理的な肺機能低下
高齢者では、肺の弾力性や筋力の低下により、自然とFVCやTLCが軽度低下してくることがあります。
- 特に他に症状がなく、画像も正常
- 肺機能は予測値に対して低い
💡 「軽度の拘束性=必ずしも疾患あり」ではない。年齢相応かどうかを%予測値で確認!
🔍 鑑別チェックリスト(まとめ)
疾患・状態 | ヒント・所見 |
---|---|
肥満 | BMI↑、腹囲↑、DLCOも軽度低下 |
神経筋疾患 | 構音障害・筋力低下、夜間低換気、DLCO正常 |
協力不良(検査) | 努力にばらつき、FVCの再現性× |
初期ILD | HRCT所見は軽微、DLCO低下、症状がカギ |
加齢変化 | 高齢者、他に所見なし、軽度の低下のみ |
📝 最後にひとこと
「肺のCTはきれい=呼吸機能も大丈夫」とは限りません。
画像・呼吸機能・体格・症状をセットで評価するのが呼吸器内科の腕の見せどころです!

<スマートフォンをご利用の皆さまへ>
他の記事をご覧になりたい場合は、画面下の「メニュー」「検索」「サイドバー」を使って、気になる話題を検索することもできますので、ぜひご活用ください。
<PCをご利用の皆さまへ>
他の記事をご覧になりたい場合は、画面上部のメニューバーや画面右側のサイドバーをご利用いただき、気になる話題をお探しください。