一瞬「まじか・・・」と思いました。メジコンの追加がピルフェニドンの効果を高めるという論文です。「まじか・・・」
Add‐On Dextromethorphan Improves the Effects of Pirfenidone in Bleomycin‐Treated Mice and Patients With Pulmonary Fibrosis. Jie Huang, Nana Liu, et al. Respirology 2025.
はじめに

🔷 IPFのメカニズムに「酸化ストレス」が関係している?
IPFの発症メカニズムには、酸化還元(redox)バランスの破綻が関与していると考えられています。
たとえば、活性酸素種(ROS)が過剰に発生し、一方で抗酸化酵素(たとえばSOD:スーパーオキシドディスムターゼ)が減ってしまうと、肺の線維化が促進されるという報告があります。
中でも、NADPHオキシダーゼ4(NOX4)はROSの生成に関与する重要な酵素であり、IPFの進行にも深く関係しているとされます。

🔷 デキストロメトルファン(DM)って咳止めじゃないのか?
デキストロメトルファン(DM)は、「メジコン」という商品名で日本でもよく知られた咳止めの成分です。
でも、DMは実は抗炎症作用や神経保護作用もあることが、これまでの研究で示されています。
特に、微量のDMでも、強いNOX阻害作用を通じて抗炎症効果があることが報告されています。
また、過去の研究では、他の疾患(たとえば躁うつ病、統合失調症、糖尿病など)においても、DMを他の治療薬に追加することで効果が高まる「アドオン療法」の有効性が報告されています。
背景と目的
IPFは、筋線維芽細胞の過剰な活性化を特徴とする進行性の間質性肺疾患である。
しかしながら、現在利用可能な抗線維化薬はその効果が限定的である。
酸化還元プロセスの破綻は、IPFの病因において重要な役割を果たす。
デキストロメトルファン(DM)は、さまざまな炎症関連疾患の治療に用いられている。
本研究の目的は、DMとピルフェニドン(PFD)の併用療法が、動物モデルおよびヒトにおいてIPF治療に有効かどうかを検討することである。。
方法
- ブレオマイシン誘導肺線維症マウスモデルにおいて、DMおよびPFDの抗線維化効果を、線維化面積、ハイドロキシプロリン量、線維化マーカーを用いて評価した。
- TGF-β1誘導細胞モデルにおいては、細胞増殖、細胞移動、線維化マーカー、酸化ストレスの評価を行い、DMおよびPFDの抗線維化作用の基礎となる機序を明らかにした。
- さらに、肺線維症患者におけるDMとPFDの併用療法の有効性を、治療前後の肺画像スコアおよび肺機能の変化を比較することで評価した。
結果
DMは、単独投与でもPFDとの併用でも、マウスにおいて有意な保護効果を示した。
特に、ブレオマイシン投与から2週間後のDMまたは併用投与であっても、抗線維化効果が確認された。
in vitro実験(細胞培養の実験)では、DM単独および併用療法は、NADPHオキシダーゼ4による活性酸素種(ROS)産生を抑制し、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の発現を促進することで酸化還元バランスを回復させた。
これが、抗線維化メカニズムの一部と考えられた。
臨床研究においては、DMを追加投与することで、PFD単独に比べて肺機能の低下をより抑制し、胸部高解像度CT(HRCT)画像スコアの改善効果も認められた。
結語
デキストロメトルファンの低用量投与は、酸化還元バランスの回復を介して、ブレオマイシン誘導肺線維症モデルにおいて肺線維化を著しく軽減させた。
DMの追加投与は、マウスおよびヒトの肺線維症におけるピルフェニドンの治療効果を高めることが示された。

まとめたいと思います!!
まとめ
🧪 マウスモデルでの結果:低用量DMが線維化を軽減
ブレオマイシンで肺線維症を誘導したマウスに、さまざまな濃度のDMを投与したところ、10ナノグラム/kgという低用量のDMでも、肺の線維化を顕著に抑える効果がありました。
- ハイドロキシプロリン量(コラーゲン量の指標)と、
- 組織染色での線維化面積が、明らかに改善していたのです。
さらに、このDMは、
- 線維芽細胞の増殖や移動を抑制し、
- α-SMAやCol1a1などの線維化マーカーの発現を下げる 効果が見られました。
🧬 細胞モデルの実験:酸化ストレスの抑制
TGF-β1という線維化を引き起こすサイトカインで刺激した細胞モデルでは、
- NOX4という酵素の発現が上昇し、ROSが増加 していました。
しかし、DM単独あるいはDM + PFD併用投与で、
- NOX4の発現が抑えられ、
- ROSの量も減少、
- SOD2やSOD3といった抗酸化酵素が回復 することで、酸化還元バランスが改善していました。
これにより、DMは酸化ストレスを介して抗線維化作用を示していたと考えられます。
👨⚕️ 臨床研究:肺機能と画像スコアも改善
オープンラベルの臨床試験では、PFDのみを使用した群と、PFDにDM(15mg/日)を追加した群の比較が行われました。
- 登録は20例でしたが、4名がウイルス感染で死亡し、最終的に16例(各群8名)で解析されました。
- 1年間の追跡の結果、PFD + DM群では肺機能(FVC、FEV1)が有意に維持され、
- HRCT画像評価でもGGO(すりガラス影)や線状影(reticulation)の改善がみられました。
この研究の限界
まず、臨床研究に参加した患者数が非常に少なく(n=16)、統計的な信頼性に限界があります。
また、デキストロメトルファン(DM)単独群が設けられておらず、DMの単独効果を評価することができていません。
さらに、プラセボ対照や盲検化も行われていないため、治療効果に対するバイアスの影響が否定できません。
これらの理由から、本研究の結果を現時点で一般化することは困難であり、今後はより大規模で前向きなランダム化比較試験による検証が必要とされます。
論文の臨床的意義:現場でどう使えるか?
今回の研究は、PFDにDMを併用することで、抗線維化効果をさらに高められる可能性を示唆しています。
現時点で明確な適応があるわけではありませんが、実臨床において咳嗽に対する対症療法としてDMを処方する場面では、知らず知らずのうちに抗線維化の“おまけ効果”を得ている可能性もあるかもしれませんね。
今後、この併用療法の有用性が大規模なランダム化比較試験によって確立されれば、IPF治療の選択肢のひとつとして、保険診療下での活用も期待されます。安全性や有効性のさらなる検証が待たれるところです。