呼吸器症例クイズ!
Xで症例クイズ出していましたが、これからブログの方にも載せていこうと思います。
症例提示
68歳男性 主訴:乾性咳嗽、労作時呼吸困難
詳細は…スライド参照してください。
問1. 最も鑑別の上位に挙がる疾患は?
問2. あなたならどんな検査を行って肺病変を確定診断する?

問1. 最も鑑別の上位に挙がる背景疾患は?
- 関節リウマチに合併した間質性肺疾患(RA-ILD)
- 線維性過敏性肺炎(fHP)
- 特発性肺線維症(IPF)
- 特発性NSIP
問2. あなたならどんな検査を行って肺病変を確定診断する?
- 経気管支クライオ肺生検(TBLC)
- 外科的肺生検(SLB)
- 現在の臨床・画像所見で診断可能
- 経気管支肺生検(TBLB)
解説
問1.最も鑑別の上位に挙がる疾患は?

胸部CTにて両側下肺野優位の網状影を認め、KL-6・SP-Dの上昇を伴っています。
数年の経過を有することから、慢性経過のILDが考えられます。
ILD診断において重要なのは、明らかな原因を有する二次性か、原因不明の特発性間質性肺炎(IIPs)かを見極めること、ならびに胸部HRCT所見の評価です。
特にILDの中でも、特発性肺線維症(IPF)は治療方針や予後に直結するため、優先順位が高い疾患です。

2022年の国内手引きでは原因疾患の検索がフローチャートの上位に位置付けられていましたが、2025年のERS/ATSステートメントでは画像パターンの評価がより上位に示されているように見受けられます。
この点については今後整理されていくと考えられますが、実臨床においては原因検索とHRCT評価の双方が不可欠である点に変わりはありません。

本症例では、吸入歴などの明らかな環境因子はなく、膠原病や血管炎を示唆する身体所見、自己抗体所見も認められません。したがって、現時点では二次性ILDよりもIIPsの範疇に入る可能性が高いと考えられます。

次に胸部HRCT所見(スライド参照)についてです。 IPFでは、『胸膜下・肺底部優位の網状影、不均一な分布、蜂巣肺や牽引性気管支拡張』を特徴とする典型的UIPパターンを呈する場合、臨床像を含めた多職種合議(MDD)を経て診断が可能とされています。 本症例のHRCT所見は、典型的UIPパターンに合致すると考えられ、かつ二次性疾患を示唆する所見(alternative diagnosis)も認められません(スライド参照)。

なお、関節リウマチ(RA)や顕微鏡的多発血管炎(MPA)に関連するILDでは、胸部CTでUIPパターンを呈することがありますが、本症例ではこれらを示唆する身体所見、症状、自己抗体はいずれも認められず、現時点では可能性は低いと考えられます。
また、線維性過敏性肺炎(fibrotic HP)でもUIP様パターンを示すことがありますが、本症例では明らかな抗原曝露歴がなく、気管支肺胞洗浄液(BALF)におけるリンパ球分画の上昇も認められていません(HPではしばしばBALFリンパ球増多を伴う)。
以上より、二次性疾患の可能性が低く、臨床像および典型的HRCT所見を総合的に踏まえると、本症例における鑑別診断の最上位は「IPF」と考えられます。
問1の答え:特発性肺線維症(IPF)
問2.あなたならどのような検査を行って肺病変を確定診断する?
本症例では、問1で述べた通り、原因検索において明らかな二次性疾患の可能性は低く、BALF所見およびHRCT所見を踏まえ、MDDを経てIPFと診断可能と考えられます。
問2の答え:現在の臨床所見および画像所見で診断可能
なお、本症例では基礎呼吸機能が不良(%DLCO 41%)であり、さらに肥満を合併しています。このため、外科的肺生検のリスクは高いと考えられます。
また、クライオ生検についても、生検に適した部位である下葉S8・S9や上葉S3・S2の胸膜下がすでに蜂巣肺を含む高度な線維化を呈しており、採取しても有益な情報が得られる可能性は低いと考えられます。
加えて、高度線維化肺ではプローブ抜去時の抵抗増大による手技困難や、下葉容積減少に伴う横隔膜接触リスクも想定されます。
これらを踏まえると、検査によって得られる情報量、手技成功率、気胸・出血などの合併症リスク、さらには合併症後の呼吸状態悪化リスクを総合的に勘案し、本症例ではクライオ生検も積極的に行う状況ではないと考えられます。
ちなみに、IPFと診断された症例においても、経過中に膠原病や血管炎、特にRAやMPAを新たに発症する可能性があります。そのため、本症例においても、膠原病関連所見の出現に留意した長期的フォローアップが重要です。
本症例では、臨床・画像所見からIPFと診断しました 呼吸機能低下を認め、6分間歩行試験においてSpO₂が90%未満まで低下したことから、重症度3と判定しました。これに基づき指定難病の申請を行い、抗線維化薬であるニンテダニブを開始しています。

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