全身性硬化症(SSc)に合併する間質性肺疾患(ILD)は、呼吸器内科にとって無視できないテーマです。
しかし、抗RNAポリメラーゼIII抗体(ARA)陽性のSSc患者では、ILDの背後に“忍び寄る腎クリーゼ(SRC)”のリスクが潜んでいます。
肺を守る治療が、腎を追い詰めることも──。大規模メタ解析の結果をもとに、ILDとSRCのバランスをどう取るべきか、かんがえてみたい・・・
Abderrahmane Elhannani et al. Anti-RNA polymerase III antibodies in systemic sclerosis: prevalence and clinical associations from a systematic review and meta-analysis. Rheumatology, 2025.
はじめに

SScは多臓器を侵す線維化性自己免疫疾患で、ILDとSRCの障害が死亡原因にそこそこの割合を占めます。
呼吸器内科医としてSSc-ILDを診る際には、線維化抑制を目的にステロイドや免疫抑制薬(ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド等)、そして抗線維化薬を考慮します。
しかし、SSc患者に高用量ステロイド(特にプレドニゾロン15〜20mg/日以上)を投与すると、急激な血圧上昇・腎不全を伴うSRCを誘発する危険性があります。

ARA陽性例では特にSRCの発症リスクが極めて高いことが、本論文により示されていますね。
背景
RNAポリメラーゼIII抗体(ARA)は全身性硬化症(SSc)において頻繁に認められるが、その報告された有病率は研究によって異なり、一部の臨床的関連性については議論がある。
本研究では、
- (i) SScにおけるARAの全体的な有病率とセンター間の異質性に関する最新データを更新すること、
- (ii) その臨床的関連性を記述することを目的とした。
方法
2024年6月までにPubMedおよびEmbaseで公開された文献を系統的にレビューし、SScにおけるARAの有病率および臨床的関連性を評価するためにメタアナリシスを実施した。
異質性が見られた場合には、潜在的な交絡因子を特定するためにメタ回帰を行った。
結果
合計93件の研究、総患者数23,038人のSSc症例がメタアナリシスに含まれた。
この集団において、ARAの血清有病率の全体値は9%(95%信頼区間 [CI]: 8–10)であり、高度な異質性が認められた(I² = 88%、p < 0.001)。
ARA陽性は以下の臨床的特徴と有意に関連していた:
- びまん性皮膚硬化型SSc(dcSSc):オッズ比(OR)2.20(95% CI: 1.91–2.53)
- 関節症状:OR 1.29(1.01–1.66)
- 胃前庭部血管拡張症(GAVE):OR 2.70(1.52–4.81)
- 心病変:OR 1.93(1.18–3.18)
- 強皮症腎クリーゼ(SRC):OR 7.82(5.79–10.57)
- 間質性肺疾患(ILD):OR 1.10(1.00–1.20)
- がん:OR 1.86(1.33–2.59)
結語
本研究は、SScにおけるARAの全体的な血清有病率が9%(95% CI: 8–10)であることを示した。
また、ARA陽性患者は、重度の皮膚病変や腎クリーゼのリスクが高いことを確認した。
さらに、がん、GAVE、心疾患、関節病変、ILDとの正の関連性も明らかになった。したがって、ARA陽性のSSc患者には、これらの重篤な合併症に対する適切なスクリーニングが有益であると考えられる。

勉強したいと思います!!
なにがわかったか?(呼吸器内科目線)
ILD
- ARA陽性例ではILDの合併率はやや高く(OR: 1.10 [95% CI: 1.00–1.20])、弱いながらも有意な関連性がありました。
- ただし、定義の仕方(HRCTかどうか)により結果が変わるため、重症度や進行性には慎重な評価が必要ですね。
SRC(強皮症腎クリーゼ)
- ARA陽性例ではSRCとの関連が非常に強く、OR: 7.82(95% CI: 5.79–10.57)と、SScの中でも最も顕著なリスク上昇が認められました。
🧬 ILDとSRCの関係性
- ILDとSRCが同時に発症しやすいという直接的な関連については、本論文では記載がありません。
- しかし、ARAが両方のリスクを高めうるという点で、実臨床では同時に警戒する必要がありますね。
つまりどういうことか?
① ILD合併を油断しない
- ARAはILDに対して「弱い関連」ながら、発症する、あるいはすでに併存している可能性は否定できません。
- 時々、HRCTで評価するのがよいのでは。
② SRCはARA陽性で要注意
- ARA陽性ではSRCリスクが極めて高いため、「肺だけを見てはいけない」ことを意識しましょう。
③ ILD治療とSRCリスクの可能性
- 本研究では触れられていませんが、ステロイド使用はSRCのリスク要因として知られています。
- ILDの治療戦略を考える際にも、「ARA陽性かどうか」は重要な判断材料ですね。
我々は、ステロイドを使うとしてもPSL10mg/日以下にして、MMFを併用する戦略が多いです。
今日からの診療にどう活かす?
✅ ARA陽性のSSc患者では:
- SRCの予防的観察(血圧・Cr・尿所見)を徹底する
- ILD合併の可能性もあるため、初診時にHRCTや肺機能検査を検討する
- ステロイド使用時はSRCのリスクを十分考慮して用量や併用薬を選ぶ
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