感染症論文紹介

その②敗血症編 2024 Focused Update:敗血症、ARDS、市中肺炎におけるコルチコステロイド使用ガイドライン(Chaudhuri D, et al. Crit Care Med. 2024.)

2024 Focused Update: Guidelines on Use of Corticosteroids in Sepsis, Acute Respiratory Distress Syndrome, and Community-Acquired Pneumonia.

敗血症に対するステロイド治療の知識:呼吸器内科医が押さえるべきポイント

  • 呼吸器内科医として、このテーマを理解することは非常に重要です。
  • 敗血症は、重症肺炎などの呼吸器感染症によって引き起こされることも多く、敗血症性ショックはしばしば多臓器不全を引き起こし、患者の生命に直接関わる病態です。
    そのため、ステロイドの有益性とリスクを正しく理解し、臨床に活かすことが求められます。

以下、前回の復習です。

病態推奨事項(2024年)推奨の強さとエビデンスの質2017年の推奨事項
敗血症および
敗血症性ショック
1A. 成人の敗血症性ショック患者にコルチコステロイド投与を「提案」する条件付き推奨、エビデンスの確実性:低ショックを伴わない敗血症では投与を推奨しない(条件付き推奨、エビデンスの質:中)。
1B. 成人の敗血症性ショック患者に高用量・短期間(>400 mg/日未満のヒドロコルチゾン3日以内)のコルチコステロイド投与を「推奨しない」強い推奨、エビデンスの確実性:中液体補充や中〜高用量の血管収縮薬治療に反応しない場合、コルチコステロイド投与を提案していた(条件付き推奨、エビデンスの質:低)。

備考:小児患者における敗血症および敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群、市中感染性肺炎へのコルチコステロイド使用については、推奨事項は示されていません。<この文献の表3を引用改変>


病態薬剤名投与量投与期間備考
敗血症性ショックHC200 mg/日 IV(持続注入または6時間ごとの分割投与)
必要に応じてフルドロコルチゾン50 µg/日(経口)を併用
最大7日間またはICU退室まで使用期間は患者の臨床状態により調整される場合があります。

HC: ヒドロコルチゾン<この文献の表4を引用改変>


敗血症に対するエビデンスをリストアップしました。

敗血症に対するステロイドのエビデンスの概要リスト(この論文から引用)

期待される有益な効果

  1. 短期死亡率(14~30日)の低下
    • 相対リスク(RR): 0.93(95% CI 0.88–0.98, 中等度確実性)。
  2. 長期死亡率(60日~1年)の低下の可能性
    • RR: 0.94(95% CI 0.89–1.00, 低確実性)。
  3. ショックからの回復率の向上
    • RR: 1.24(95% CI 1.11–1.38, 高確実性)。
  4. 臓器機能障害の軽減(SOFAスコアの改善)
    • 平均差(MD): -1.41ポイント(95% CI -1.87~-0.96, 高確実性)。
  5. ICU滞在期間の短縮の可能性
    • MD: -0.60日(95% CI -1.48~+0.27, 低確実性)。
  6. 病院滞在期間の短縮の可能性
    • MD: -0.74日(95% CI -2.06~+0.57, 低確実性)。
  7. 神経精神的影響の軽減の可能性
    • RR: 0.58(95% CI 0.33–1.03, 低確実性)。

リスク(有害事象)

  1. 神経筋力低下
    • RR: 1.21(95% CI 1.01–1.45, 低確実性)。
  2. 高ナトリウム血症
    • RR: 1.64(95% CI 1.32–2.03, 中等度確実性)。
  3. 高血糖
    • RR: 1.13(95% CI 1.08–1.18, 中等度確実性)。
  4. 消化管出血、二次感染、脳卒中、心筋梗塞
    • 影響は不明(非常に低い確実性)。

特記事項

  • 使用条件の緩和:2017年のガイドラインでは、液体補充や中~高用量の血管収縮薬に反応しない場合に限定して推奨されていましたが、今回の更新では血管収縮薬の用量に関係なくステロイドが提案されました。
  • 投与法:一般的には、ヒドロコルチゾン200~300mg/日を分割投与または持続注入で5~7日間使用します。一部の研究ではフルドロコルチゾン50 µg/日の併用が検討されていますが、現時点では必須とはされていません。
  • 小児への適用:小児に関するデータが不足しているため、今回の推奨事項には含まれていません。

  • 今回のガイドラインでは、敗血症性ショックにおけるステロイドの有益性とリスクを考慮した上での推奨が示されています。
  • 特に注目すべき点として、ステロイドがショックからの回復率を向上させることや、臓器機能障害を軽減する効果が挙げられます。これらは患者の早期回復を助けるだけでなく、ICUや病院の滞在期間を短縮する可能性があることから、実臨床においても重要なポイントだと思います。
  • ただし、死亡率の改善に関しては効果が小さいため、CAPやARDSに比べると目立った成果とは言えない部分もあります。それでも、敗血症性ショックの罹患率が高いことや、その高い死亡率を考慮すれば、小さな効果であっても絶対的な患者数に与える影響は無視できないと考えられます。
  • 副作用としては、筋力低下、高ナトリウム血症、高血糖などが挙げられますが、これらのリスクは比較的小さいとされており、長期的な影響については今後の研究に期待されています。
    また、神経筋力低下はQOLにも関わる重要な課題であり、使用時には慎重な経過観察が必要です。
  • 以上の内容に基づき私の感想を述べると、敗血症性ショックの管理では、適切なタイミングで培養を採取し、薬剤感受性を確認したうえで適切な抗菌薬を使用することが大前提です。
  • そのうえで、筋力低下や電解質異常、高血糖といった副作用は管理可能な問題であり、それらと比較すると、ステロイドの有益性が上回るケースも多いのではないかと感じました。このバランスを意識した治療が、患者の予後改善につながると考えます。

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