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間質性肺疾患いろいろ解説ガイドライン

間質性肺炎・間質性肺疾患に対する外科的肺生検後の急性増悪はどれくらいの頻度で起こるのか?

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はじめに

間質性肺疾患(Interstitial Lung Disease:ILD)は、肺に炎症や線維化を引き起こす疾患群で、正確な診断が治療方針を決めるうえでとても重要ですね。
診断の一環として行われる外科的肺生検(surgical lung biopsy:SLB)は、有用性が高い一方で、急性増悪(acute exacerbation:AE)という重篤な合併症を引き起こすことがあります

本記事では、SLBに関連したAEの頻度・リスク因子・予後についてまとめていきます。


■ AEとは?

AEは、比較的安定していたILDが急激に悪化する状態で、多くは数日〜1ヶ月以内に呼吸困難が進行し、新たなすりガラス影や浸潤影が画像上に出現します。

とくにIPF(特発性肺線維症)では予後不良なイベントとして知られており、発症後の生存期間中央値は3〜4ヶ月と報告されています。


■ 外科的肺生検後のAEの頻度は?

複数の研究から、SLB後にAEを発症する頻度は決してゼロではないことが分かっています。

対象集団発症頻度(おおよそ)
ILD全体1〜7.4%(文献により差あり)​
IPFに限ると1.4〜7.6%(30日以内のAE発症:1.4〜1.9%)​

たとえばKishabaらの研究では、生検を受けたIPF患者155人中、1年以内のAE発症率は7.6%、30日以内のAEは1.9%とされています​。また、Hayakawaらの研究でも、厳格な選定基準のもとでSLBを実施した94例中、AE発症は1例(1%)のみでした​。


■ AEのリスク因子は?

生検後AEのリスクを高める要因は、以下のようにまとめられます。

リスク因子解説
DLCO低値%DLCOが低いほどAEのリスクが高まる(Kishabaら:HR 0.98/1%増加)​
線維芽細胞巣(fibroblastic foci:FF)の存在FFありでAEリスク3倍(HR 3.01)​
UIPパターンHRCTまたは病理でUIPパターンがあるとリスク増加​
高FiO₂の投与や長時間手術生検中の酸素暴露や非術側肺の損傷によりリスク上昇と考えられています
低FVC・高KL-6・男性・ステロイド使用歴など他研究での指摘あり​

Hayakawaらの研究では、UIPパターン・酸素依存・全身麻酔不能の患者をSLB適応から除外することで、AEの発症を抑えることに成功しています​。

ただし、線維芽細胞巣(FF)の存在は通常、外科的肺生検の病理結果で初めて確認される所見であるため、SLB実施前のAE発症予測には直接的には用いにくい指標です

むしろ、「FFが認められた患者にAEが多かった」という結果は、生検後に振り返ってリスクが高かったことを示す指標に過ぎないと考えるべきでしょう。


■ AEを起こしたあとの予後は?

AEを発症した場合の予後は極めて不良とされています。

  • Kishabaらの研究では、AEの発症が死亡リスクを約20倍に高める(HR 20.2)と報告されています​。
  • さらに、FFの存在やDLCO低値も独立した死亡予測因子として挙げられています。

また、他の研究でも、AEを発症した患者の多くはICU管理を要し、高用量ステロイドや免疫抑制剤を用いても死亡率が高いことが繰り返し報告されています。


■ 安全にSLBを行うにはどうすればいい?

現時点では以下のような対応がAEの予防につながる可能性が高いと考えられています。

対策解説
患者選定の厳格化UIPパターン・酸素依存・DLCO著減例などは生検を避ける
手術時間の短縮Hayakawaらの研究では平均45分と短時間で安全に実施​
FiO₂の管理高濃度酸素の投与は必要最低限に
術前にMDD(多職種カンファ)で適応を慎重に判断「何となく生検」ではなく、診断精度と安全性のバランスを考慮する

■ まとめ

✅ 外科的肺生検後の急性増悪は稀ながら重篤な合併症です。
✅ IPF患者では約1.4〜7.6%、ILD全体では1〜7.4%の頻度で報告されています。
✅ DLCO低値、線維芽細胞巣の存在、UIPパターンなどが主なリスク因子です。
✅ AEを発症した場合、予後は非常に不良で死亡率が高いことがわかっています。
✅ 患者選定・短時間手術・MDDによる適応検討が、安全なSLBの鍵となります。


•外科的肺生検はILDの診断において重要な手段ですが、近年の本邦ではリスクとベネフィットを慎重に検討する流れが定着し、発症率も抑えられてきているようです。

•ただし、施行にあたっては医療者間で十分に議論を行い、患者さんにもリスクとベネフィットを丁寧に説明したうえで、同意を得ることが不可欠ですね。

引用文献:

Acute exacerbation of interstitial lung disease after procedures. Amundson WH, et al. Respir Med. 2019. PMID: 30961948 

Safe surgical lung biopsy in the diagnosis of interstitial lung disease under strict patient selection. Hayakawa T, et al. Respir Investig. 2025. PMID: 39647322

Predictors of acute exacerbation in biopsy-proven idiopathic pulmonary fibrosis. Kishaba T, et al. Respir Investig. 2020. PMID: 32205147

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