HPシリーズの最新論文です。ちなみに後日Typical fHPパターンに関する記事も公開予定です。
Outcomes of a Typical Fibrotic Hypersensitivity Pneumonitis Pattern on Chest Computed Tomography. Christopher J. Ryerson, et al. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2025.
はじめに

2020年のATS/JRS/ALATガイドラインにより、線維化型過敏性肺炎(fibrotic hypersensitivity pneumonitis:fHP)の診断において、胸部高分解能CT(HRCT)での“Typical fHPパターン”が定義されています。
これはUIPやNSIPと並び、放射線学的パターンの一つとして明示されたものです。
このパターンは、以下の特徴により定義されます:
3density signなど、気道中心性病変を示唆する所見
びまん性もしくは上下不均一な線維化(basal sparingを伴うことあり)
中葉優位の小葉中心性粒状影、モザイクパターン、air trappingなどの小気道病変所見

しかしながら、実臨床ではこのパターンを呈する症例が必ずしもHPとは限らない、というジレンマが存在します。
本研究では、“Typical fHPパターン”が真にfHP特異的か否かを、前向きコホートにおける構造化された多職種診断(MDD)と長期予後評価に基づいて検証しています。
背景
HPの診断ガイドラインでは、fHPに対する「Typical (典型的な) HP」画像パターンが定義されている。
しかし、このパターンに該当する症例における実際の診断の頻度、特徴、予後は明らかでない。
方法
胸部CTで「Typical fHPパターン」と判断された患者を前向き登録されたレジストリから特定した。
診断は、すべての情報を用いた多職種会議(MDD)により決定された。
対象は、
- 曝露ありfHP、
- 曝露不明fHP、
- 膠原病関連間質性肺疾患(CTD-ILD)とし、
それぞれ診断確率50%以上と定義した。
診断群間で臨床・画像所見および予後を比較した。。
結果
Typical fHPパターンを有する164例のうち、
- 曝露ありfHPは49例(30%)、
- 曝露不明fHPは56例(34%)、
- CTD-ILDは36例(22%)、
- その他の診断が23例(14%)
であった。
各群で臨床・CT所見には違いがみられた。
曝露不明fHP群では肺機能低下や死亡・移植までの期間が最も短かった。(つまり悪かった。)
フォローアップ中、曝露不明fHP群の14%で新たに自己免疫疾患が確認された。
結語
Typical fHPパターンを有する患者では、実際にはHP以外の診断(とくにCTD-ILD)もあり、診断群ごとに特徴や予後が異なる。
初期に曝露が特定されない場合、経過中にCTDの特徴が現れることが多い。

勉強したいと思います!!
なにがわかったか?
対象:
- CARE-PFに登録された1,593例のうち、164例(10.3%)が典型的fHPパターン
- 胸部CTはすべて放射線科医によるブラインドレビューで再分類
MDDによる診断分類(n=164):
診断群 | 症例数 | 割合 |
---|---|---|
fHP(曝露あり) | 49 | 30% |
fHP(曝露不明) | 56 | 34% |
CTD-ILD | 36 | 22% |
その他(薬剤性・IPF等) | 23 | 14% |
つまり、「Typical fHPパターン」と画像診断されても、約4割はfHPとは限らないということ!
予後評価:
- fHP(曝露不明)群はFVC・DLCOの年間低下速度が最も大きく、死亡/移植までの期間も短い、つまり予後不良(中央値2.9年)
- 曝露不明fHP群の14%がフォローアップ中に新たにCTD診断 or 自己抗体陽性を呈した
つまりどういうことか?
- 「Typical fHPパターン=fHP」とは限らない!
- 特に女性・自己抗体陽性・肺高血圧ありの人はCTD-ILDの可能性あり!
- fHPの中でも原因抗原がはっきりしない人は予後が悪い → 治療戦略の見直しが必要かも?
著者たちは、「このCTパターンを“fHPパターン”と呼ぶのが混乱の元では?」と提案しています。
代わりに「気道中心性間質性肺炎(BIP: bronchiolocentric interstitial pneumonia)」という新しい言葉を使うべきでは?という提案もされています。
明日からの診療にどう活かす?
この論文は、「fHPパターン=fHPと断定すべきでない」
つまり、放射線学的に“typical”であっても、それがfHPであるという“確定診断”にはならない。
やはり、曝露歴の調査、臨床情報、気管支鏡検査、病理、経過、他の疾患の除外はできる限りしっかりやるべきでしょう。
- 臨床現場での示唆:
- 画像所見だけでfHPと断定せず、CTDの鑑別を必ず行う。
- 曝露が不明な場合、CTD-ILDや未分類ILDの可能性も考える。
- 定期的な抗体チェックやリウマチ専門医への紹介も重要。
おまけ:曝露歴が不明なfHPの予後不良についての考察
- fHP(曝露あり) vs fHP(曝露不明) vs CTD-ILD を比較すると、
- fHP(曝露不明) 群が最も急速に肺機能が低下(FVC, DLCO)
- 最も短い生存期間(中央値:2.9年)
- Cox回帰でも、曝露ありfHPと比較して死亡または移植リスクが有意に高い(HR 1.62, p=0.03)
なぜ曝露不明例は予後が悪いのか?
著者らは2つの仮説を提示しています:
1. 未同定の抗原曝露が継続している可能性
- 環境調査・問診で見逃されている抗原曝露があり、原因抗原の回避が不十分なまま進行している
- これにより、持続的な抗原刺激による慢性炎症・線維化が悪化
2. fHPというより“別の病態(CTDなど?)”である可能性
- 結果としてCTD診断に至った例が曝露不明fHPで多く(16%)
- 「fHPに似ているが、実はCTD-ILDの前駆段階だった」という可能性
- この場合、病態に合わない治療(例:抗原回避や免疫抑制の不適切使用)が行われた可能性も
臨床的インプリケーション
- “典型的fHPパターン + 曝露不明” = 高リスク群として特に注意
- この群は単なるfHPではなく、“fHP様表現型の別疾患”の可能性を含む
「fHPだと思っていたが、原因が見つからない。治療反応も乏しい。」
→ それは本当にfHPなのか? それともCTD-ILDなど別疾患の初期像か?
この疑問を放置せずに、“診断の再考と臨床の見直し”が不可欠でしょう。
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