肺高血圧間質性肺疾患論文紹介

INCREASE試験における肺疾患に起因する肺高血圧症患者に対する吸入トレプロスチニルの複数疾患進行イベントに及ぼす有効性(Nathan SD, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2022.)

引き続きIncrease試験の二次解析の論文がありました。少し古いですが、重要な論文だと思います。Efficacy of Inhaled Treprostinil on Multiple Disease Progression Events in Patients with Pulmonary Hypertension due to Parenchymal Lung Disease in the INCREASE Trial

INCREASE試験については別の記事で取り上げていますが、ILD+PH患者を対象に吸入トレプロスチニルの安全性および有効性を評価したランダム化臨床試験です。1
この試験では、吸入トレプロスチニルの16週目における6分間歩行距離の改善という主要評価項目を達成しました。

注目すべきことに、この試験ではいくつかの副次評価項目も達成されています。
以前の記事<こちら>で取り上げたような吸入トレプロストニルのFVC改善効果だけでなく、臨床的悪化イベント減少とも関連したという結果もあるようです。

INCREASE試験での臨床的悪化は、以下のいずれかが初めて発生するまでの時間として定義されていました。

  • 6MWDの15%以上の低下、心臓呼吸器関連入院、肺移植、または死亡。

トレプロストニルは、プロスタサイクリンの安定した類似体であり、肺および全身動脈血管床の直接的な血管拡張を促進し、血小板凝集を抑制します。2

吸入トレプロスチニルは、本邦ではPHやILD-PHの治療薬として承認されています(ただし、WHOの1群での有効性・安全性は確立していないとされています。)

吸入トレプロスチニルの背景ILDの臨床的悪化イベントへの影響を調査した、INCREASE試験の事後解析の論文を勉強したいと思います。

研究の背景

INCREASE試験では、吸入トレプロスチニルが16週目の6分間歩行距離(6MWD)の変化という主要評価項目を達成した。また、吸入トレプロスチニルを使用した患者では臨床的な悪化イベントが有意に少なかった。
しかし、同一患者内で複数のイベントが発生する頻度については不明である。

目的

本事後解析では、吸入トレプロスチニル治療を継続した場合の複数の疾患進行イベントの頻度およびその影響を評価することを目的とする。

方法

INCREASE試験に登録された患者を対象に、以下の疾患進行イベントを解析した。
これらは、16週間の試験期間中に発生したものとして定義された。

  • 6MWDの15%以上の低下
  • 背景のILDの急性増悪
  • 心臓呼吸器関連入院
  • 肺移植
  • 努力肺活量(FVC)の10%以上の低下
  • 死亡

測定および主な結果

吸入トレプロスチニル群では、合計147件の疾患進行イベントが発生し(89人/163人、55%)、プラセボ群では215件(109人/163人、67%)発生した(P = 0.018)。

吸入トレプロスチニル群では、各疾患進行要素の発生率が低かった。具体的には以下の通りである。

  • 6MWDの低下(45例 vs. 64例)
  • 急性増悪(48例 vs. 72例)
  • FVCの低下(19例 vs. 33例)
  • 心臓呼吸器関連入院(23例 vs. 33例)
  • 死亡(10例 vs. 12例)

吸入トレプロスチニルを使用した患者で複数の疾患進行イベントを経験した割合は、プラセボ群よりも低かった(22% vs. 36%、P = 0.005、トレプロスチニル群で35人、プラセボ群で58人)

結論

吸入トレプロスチニルを使用した患者は、初回の疾患進行イベント発生後にさらに疾患進行イベントを経験する可能性が有意に低いことが示された。

この結果は、臨床現場において、疾患進行が認められる場合でも吸入トレプロスチニル治療を継続することを支持するものである。

INCREASE試験では吸入トレプロスチニルがPH-ILD患者の6MWDを改善することが報告され、1
別の事後解析<引用こちら>でもFVCを改善させる可能性も示唆されています。
今回の事後解析でも疾患進行のリスクを低下させることも示唆されました。
さらに今回の論文では、初回悪化イベント後もトレプロスチニルを継続することで、さらに進行するリスクが抑えられることも示唆されました。

ただし、これまた事後解析(post-hoc)なので、本来の試験デザインにはないイベントが疾患進行の定義に追加されているので解釈に注意が必要ですね。
加えて、急性増悪は中央判定ではなく施設診断です。
また、16週の短期評価なので、長期試験の結果がわかるとさらにありがたいです。。

さらに続報を追ってみたいと思います!!

  1. Waxman, A ∙ Restrepo-Jaramillo, R ∙ Thenappan, T ∙ et al. Inhaled treprostinil in pulmonary hypertension due to interstitial lung disease. N Engl J Med. 2021; 384:325-334 ↩︎
  2. Whittle BJ, Silverstein AM, Mottola DM, Clapp LH. Binding and activity of the prostacyclin receptor (IP) agonists, treprostinil and iloprost, at human prostanoid receptors: treprostinil is a potent DP1 and EP2 agonist. Biochem Pharmacol 2012;84:68-75. ↩︎

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