COPDに対する吸入トレプロスチニルの試験です。Inhaled treprostinil in pulmonary hypertension associated with COPD: PERFECT study results
トレプロストニルは、プロスタサイクリンの安定した類似体であり、肺および全身動脈血管床の直接的な血管拡張を促進し、血小板凝集を抑制します。6
吸入型トレプロストは、本邦ではPHやILD-PHの治療薬として承認されています
(ただし、WHOの1群での有効性・安全性は確立していないとされています。)
INCREASE試験については別の記事で取り上げていますが、ILD+PH患者を対象に吸入型トレプロストの安全性および有効性を評価したランダム化臨床試験です。7
この試験では、吸入型トレプロストの16週目における6分間歩行距離の改善という主要評価項目を達成しました。
さらに以前の記事で取り上げたように、吸入トレプロストニルは、ILD-PH患者のFVC改善効果 や 臨床的悪化イベント減少とも関連する可能性が報告されています。
最近では、吸入トレプロストニルの長期的な有効性や安全性に関するINCREASEのオープンラベル延長試験の結果も報告されています。
吸入トレプロストニルは、COPD-PHではどうなのか?
このPERFECT試験についても勉強したいと思います!
背景
COPDに伴う肺高血圧症(PH-COPD)は、COPD単独の場合に比べて予後が悪化することが知られている。
現在、PH-COPDの治療薬として承認された療法は存在しない。
PERFECT試験(ClinicalTrials.gov: NCT03496623)は、この患者群における吸入トレプロスチニル(iTRE)の安全性と有効性を評価するために実施された。
方法
- PH-COPD患者(平均肺動脈圧が30 mmHg以上、肺血管抵抗が4 WU以上)を対象に、多施設共同、ランダム化(1:1)、二重盲検、プラセボ対照の12週間クロスオーバー試験を実施した。
- 欠損データの盲検中間解析に基づき、予め指定された並行デザインも採用された。
- 患者はiTREを1日4回、最大12回吸入(72 µg)する群またはプラセボ群に割り付けられた。
- 主要評価項目は、12週目における6分間歩行距離(6MWD)のピーク値の変化であった。
クロスオーバーデザイン・並行デザイン(パラレルデザイン)とは??
クロスオーバーデザインは、同じ被験者が2つ以上の治療(例えば実薬とプラセボ)を順番に受ける臨床試験デザインです。具体的には以下の特徴があります:
- 治療期間の切り替え:
- 被験者はまず1つの治療を受け(例えば実薬)、その後「Wash out期間」(治療効果が消えるのを待つ期間)を経て、もう1つの治療(例えばプラセボ)に切り替わります。
- 同じ被験者が対照群にも治療群にもなる:
- 同じ被験者が両方の治療を受けるため、被験者間の個体差(体質や病状の違い)が結果に影響を与えにくい設計です。
- 例:今回のPERFECT試験では?
- 被験者は12週間にわたり吸入トレプロスチニル(iTRE)またはプラセボを受け、Wash out期間を経て、その後12週間で別の治療を受けました。
並行デザインは、被験者が1つの治療(実薬またはプラセボ)のみを受けるデザインです。以下の特徴があります:
- 2つの独立したグループ:
- 被験者はランダムに実薬群またはプラセボ群に分けられ、試験期間中に他の治療には切り替わりません。
- シンプルな比較:
- グループごとの治療効果を直接比較するデザインで、複雑な切り替えがありません。
- 例:今回のPERFECT試験では?
- 試験の途中、クロスオーバーデザインによるデータ欠損の問題が発生したため、一部の被験者を並行デザインに切り替えました。この場合、被験者は12週間にわたり1つの治療(実薬またはプラセボ)のみを受けました。
結果
- 合計76人の患者がランダム化され、64人が元のクロスオーバーデザインで、12人が並行デザインで登録された。
- 66人がiTREを、58人がプラセボを受けた。
- 試験は、iTREが重篤な有害事象のリスクを増加させ、死亡リスクが増加する示唆が得られたという全体的な根拠に基づき、データ・安全性監視委員会の勧告により早期終了となった。
- 6MWDの変化は、プラセボ群に比べてiTRE群で数値的に悪化していた。
結論
PH-COPD患者におけるiTREのリスクとベネフィットに関する観察結果は、PERFECT試験の継続を支持するものではなかった。
本試験の結果は、PH-COPD患者におけるiTREを実行可能な治療選択肢として支持するものではない。
残念ながらこのPERFECT試験では、以下の理由で中止になってしまいました・・・
理由1: 期待された効果が見られなかった
主要評価項目である6MWDの改善が見られず、治療が症状を改善する効果は示されませんでした。
理由2: リスクが大きかった
- 重篤な副作用の発生率
iTRE:25.8% vs. プラセボ10.3% - 死亡例
試験中に死亡した6人全員がiTREを使用していました。これらの死亡は薬と直接関係ないとされましたが、リスクの存在は無視できませんでした。
理由3: 試験の進行が遅かった
特に、COVID-19パンデミックの影響で試験活動が一時停止し、データが不足する問題が生じました。このため、試験の結果に必要な患者数を確保できず、信頼性の高い分析が難しくなりました。
- Chaouat A, Bugnet A-S, Kadaoui N, et al. Severe pulmonary hypertension and chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med 2005; 172: 189–194. ↩︎
- Andersen KH, Iversen M, Kjaergaard J, et al. Prevalence, predictors, and survival in pulmonary hypertension related to end-stage chronic obstructive pulmonary disease. J Heart Lung Transplant 2012; 31: 373–380. ↩︎
- Vitulo P, Stanziola A, Confalonieri M, et al. Sildenafil in severe pulmonary hypertension associated with chronic obstructive pulmonary disease: a randomized controlled multicenter clinical trial. J Heart Lung Transplant 2017; 36: 166–174. ↩︎
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- Whittle BJ, Silverstein AM, Mottola DM, Clapp LH. Binding and activity of the prostacyclin receptor (IP) agonists, treprostinil and iloprost, at human prostanoid receptors: treprostinil is a potent DP1 and EP2 agonist. Biochem Pharmacol 2012;84:68-75. ↩︎
- Waxman, A ∙ Restrepo-Jaramillo, R ∙ Thenappan, T ∙ et al. Inhaled treprostinil in pulmonary hypertension due to interstitial lung disease. N Engl J Med. 2021; 384:325-334 ↩︎
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