間質性肺疾患肺癌論文紹介

ILD合併の非扁平上皮非小細胞肺がんにおいて、PD-1阻害剤の治療効果を予測する指標として、TTF-1発現は有用か?

Ito M, et al. A strong association between TTF-1 expression and interstitial lung disease in predicting the efficacy of PD-1 inhibitor for nonsquamous NSCLC patients. ERJ Open Res. 2025.

東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)の呼吸器内科からの報告です。とても興味深いですね~
こういう論文大好きです。

まず最初にまとめからいうと

以下のとおりです。
「ILDを伴うNS-NSCLCでは、TTF-1陰性の患者はPD-1阻害剤の効果が低く、生存期間も短い」


  • ILDを伴うNS-NSCLC患者では、TTF-1陰性群でPD-1iの効果が低く、生存期間が短かった(PFS 2.0か月 vs. 12.1か月, OS 14.5か月 vs. 42.5か月)。
  • しかし、ILDを伴わない患者では、TTF-1の有無によるPD-1iの治療成績に有意な差はなかった。
  • TTF-1陽性患者では、CD8陽性T細胞の浸潤が多く、免疫応答が活発である可能性が示唆された。

⚠ 研究の限界

  • 後ろ向き研究であるため、因果関係を明確にするにはさらなる検証が必要。
  • 対象患者数が少なく、特にTTF-1陰性群の症例が限られる。
  • TTF-1とPD-1iの治療効果の関連メカニズムが完全には解明されていない。
  • 間質性肺疾患(ILD)を持つ患者では、肺がんの発生率が非常に高いことが報告されており、実臨床においてもその傾向が実感されますね。
  • 近年の研究では、PD-1阻害剤(PD-1i)の有効性はILDの有無にかかわらず変わらないとされているとのことです。しかし、ILDを伴う患者では、PD-1阻害薬治療によって薬剤性肺傷害または既存ILD悪化リスクが高く、実臨床ではあまり使用していないのではないでしょうか?

ちなみにTTF-1とは?

  • TTF-1(甲状腺転写因子-1)は、肺や甲状腺の発生に関与する転写因子であり、肺腺がんの診断マーカーとして広く知られています。具体的には、肺腺がんの約65~70%でTTF-1の発現が確認されており、診断の一助となっています。
  • ILD合併肺がんでは、TTF-1の発現が低下しているケースが多く報告されています。
  • TTF-1陰性の肺腺がんは進行が早く、予後が不良であることも報告されています。
  • ILDを有する肺癌患者さんでは、薬剤性肺障害のリスクがあるため、PD-1阻害剤は特殊な症例に限り投与されることが多いのではないかと思います。
  • そのため、本研究のように後ろ向き研究を用いて、そうした特殊な症例を集めて解析した点は、とても重要な知見といえるかもしれませんね。
  • つまり、ILD合併肺がんの治療において、選択肢が限られる患者さんに対してPD-1阻害剤を使用する際、どのように恩恵とリスクのバランスを取るべきかという点で、示唆に富んだ研究ではないかと思います。そんな視点で、この論文を読んでみました!

背景

  • 甲状腺転写因子-1(TTF-1)は、間質性肺疾患(ILD)の発症に関与し、ILDを伴う肺腺癌において変異の標的となることが知られている。
  • また、TTF-1の発現は、非扁平上皮非小細胞肺癌(NS-NSCLC)に対するペメトレキセドを含む化学療法の有効性とも関連がある。
  • しかし、特にILDを伴う肺癌患者におけるTTF-1の発現とプログラム細胞死1阻害剤(PD-1i)を用いた免疫療法の有効性との関係は明らかになっていない。

方法

  • 複数の医療機関でPD-1i治療を受けたNS-NSCLC患者の医療データを後ろ向きに解析した。
  • 患者をILDの有無で分類し、それぞれの群においてTTF-1の発現状況に基づいてさらに層別化した。

結果

  • 本研究には、ILDを伴う34例および伴わない28例の計62例のNS-NSCLC患者が含まれた。
  • ILDを伴う患者群において、PD-1i治療中の無増悪生存期間(PFS)の中央値は、TTF-1陰性群で有意に短かっ(p=0.004)。
    • TTF-1陰性群で2.0か月。
    • TTF-1陽性群で12.1か月。
  • 一方、ILDを伴わない群ではPFSの中央値に有意差は認められなかった(1.8か月 vs. 2.6か月, p=0.63)。
  • ILDを伴う群では、全生存期間(OS)の中央値もTTF-1陰性群で有意に短かかった(14.5か月 vs. 42.5か月, p=0.018)
  • 一方、ILDを伴わない群では、OSに有意な差は認められなかった(33.7か月 vs. 37.1か月, p=0.53)。
  • Cox回帰分析の結果、ILDを伴う患者において、TTF-1の発現欠如はPFS(ハザード比(HR)2.75, p=0.024)およびOS(HR 2.81, p=0.012)の独立したリスク因子であることが示された。

結語

  • NS-NSCLCにおいて、ILDを伴う患者ではTTF-1の発現がPD-1i治療の予後予測因子となる可能性がある。

まとめ

  • 本研究は、ILD合併のNS-NSCLCにおいて、TTF-1の発現がPD-1阻害剤の治療効果に影響を与える可能性を示しました。
  • 具体的には、TTF-1陰性の患者では、PD-1iの効果が低く、生存期間も短いことが明らかになりました。
  • 一方、ILDを伴わないNS-NSCLC患者では、TTF-1の発現とPD-1iの治療効果に明確な関連は認められませんでした。
  • 本研究の結果から、ILDを合併する肺がん患者さんで、やむを得ずPD-1阻害剤の使用を検討する場合、生存率への影響と薬剤性肺障害/ILD悪化リスクのバランスを取るうえで、TTF-1の発現を評価する意義があることを示唆しているのではないかと思いますね。
  • しかし、本研究にはサンプル数の制限やメカニズムの未解明な点があるため、今後の研究でさらなる検証が必要ですね。
  • 今後、TTF-1の発現を治療選択の指標として活用できるかどうか、さらなる研究が期待されますね。

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