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肺癌や悪性腫瘍論文紹介

VEGF阻害薬併用によって、EGFR-TKIやICIによる薬剤性肺障害の発症は減るのか?

The incidence of drug-induced interstitial lung disease caused by epidermal growth factor receptor tyrosine kinase inhibitors or immune checkpoint inhibitors in patients with non-small cell lung cancer in presence and absence of vascular endothelial growth factor inhibitors: a systematic review. Yutaka Fujiwara, Kazuhiro Shimomura, Teppei Yamaguchi, et al. Frontiers in Oncology 2024.

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はじめに

肺がん治療では、EGFR-TKIや免疫チェックポイント阻害薬(ICI)などの新しい薬が広く使われていますが、これらの薬は薬剤性間質性肺疾患(ILD)という重い副作用を引き起こすことがあります。

特に日本人ではEGFR-TKIによるILDの発症率が高く(3〜18%!)、ときに命にかかわることもあるため、非常に注意が必要です。

💡そこで登場するのがVEGF阻害薬です。VEGF阻害薬は「抗がん作用」だけでなく、「免疫環境の改善」や「副作用の軽減」にも関与している可能性がありました。

この研究では、「VEGF阻害薬を併用することで薬剤性ILDのリスクが減るのか?」を過去の臨床試験をまとめて検討(システマティックレビュー)しています。

背景

EGFR-TKIまたはICIによる薬剤性ILDは、非小細胞肺癌(NSCLC)の治療における重大な懸念点である。

これらの薬剤にVEGF阻害薬を追加することでILDの発症率が低下するかどうかは明らかでない。

目的

本研究では、EGFR-TKIまたはICIによる薬剤性ILDの発症率が、VEGF/VEGFR阻害薬の有無でどう異なるかを評価するため、2009年1月から2023年10月までに発表された無作為化比較試験を対象にシステマティックレビューを行った。。

方法

主要評価項目は、全世界およびアジア人における薬剤性ILDの発症率に対するオッズ比(OR)であり、

副次評価項目はグレード3以上の薬剤性ILD発症率に対するORである。

EGFR-TKI群では13件の無作為化試験および1件のサブ解析、ICI群では3件の試験が解析対象となった。

結果

EGFR-TKI群では、VEGF阻害薬併用により薬剤性ILD全体の発症率は有意に低下した(OR 0.54, 95%CI: 0.32–0.90, p=0.02)。

一方、グレード3以上の薬剤性ILD発症率には有意差はなかった(OR 1.00, p=0.99)。

ICI群では、いずれのグレードでもVEGF阻害薬の追加による発症率低下は確認されなかった(OR 0.78, p=0.27)。

結語

この結果は、VEGF阻害薬の併用がEGFR-TKIによる薬剤性ILDの発症率を低下させる可能性があることを示唆するが、グレード3以上やICIによる薬剤性ILDについてはさらなる検証が必要である。


解説しつつ、まとめたいと思います!!

主な結果まとめ

治療薬VEGF阻害薬あり vs なし薬剤性ILD全体の発症率(OR)重症薬剤性ILD(Grade ≥ 3)の発症率(OR)
EGFR-TKI低下(0.54)⭐有意差あり(p=0.02)❌差なし(OR 1.00)
EGFR-TKI(アジア人)さらに低下(0.50)⭐有意差あり(p=0.01)❌差なし(OR 0.83)
ICI❌差なし(0.78)🚫有意差なし(p=0.27)❌差なし(OR 0.69)

📝OR(オッズ比)が1.0未満=発症リスクが低下していると解釈します。


💬この結果からわかること

  • EGFR-TKIを使うときにVEGF阻害薬を併用すると、薬剤性ILDの発症率が下がる可能性があるということが明らかになりました。
  • ただし、重症の薬剤性ILD(グレード3以上)には効果がないかもしれません。
  • ICIの場合は、まだデータが少なく、はっきりとした結論は出ていません。

🔹新規性

本研究の新規性は、EGFR-TKIとICIに分けてVEGF阻害薬の有無によるILD発症リスクを体系的に検討した点にあります。

従来のシステマティックレビューは「副作用全体」や「VEGF阻害薬の効果」に焦点を当てていましたが、本研究は「薬剤性ILD」という特定の有害事象に特化して検討しており、現場の呼吸器内科医や腫瘍内科医にとって非常に実用的な知見となります。


🌱この研究の意義と臨床での活かし方

例えば、「EGFR遺伝子変異陽性で初回治療としてEGFR-TKIを考えているけれど、薬剤性ILDが心配…」という患者さんに対して、VEGF阻害薬(例:ベバシズマブ)を併用することで、副作用リスクを少し下げられる可能性があります。

具体的には

  • 過去になんらかのILD既往がある(特発性間質性肺炎、膠原病ILDなど薬剤性に限らない)
  • 一回目のEGFRーTKIで軽度の薬剤性ILDが出現して改善したが、やむを得ない事情で再投与が考慮される場合
  • CTでびみょうな慢性の線維化っぽい所見があり、ひょっとしたらILDがあるかもしれない
  • ベースの肺機能があまりよくないので、なんとか薬剤性ILDのリスクを減らしたい

特にアジア人ではILDのリスクが高いため、この知見は臨床の判断にとても役立ちますね。


🧩この研究の限界

  1. 多くの試験でILDは「副次的な項目」だったため、もともとILDを調べる目的で設計された研究ではないという点に注意が必要です。
  2. EGFR変異の種類や治療ライン、レジメンにばらつきがあり、背景に違いが多いです。
  3. 国や施設ごとにILDの報告基準が異なる可能性があり、日本ではGrade 1の軽症例も多く報告されているかもしれません。
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