間質性肺疾患の中でも重要な「過敏性肺炎(Hypersensitivity Pneumonitis:HP)」について、2022年に発表された日本呼吸器学会の診療指針(過敏性肺炎診療指針2022)をもとに、まとめました。
ちなみに、正式名称は過敏性肺臓炎ではなく、過敏性肺炎です。
そして、東京科学大学の呼吸器内科のホームページから、臨床で使えるすばらしい問診票をダウンロード可能です!

まず押さえるべき:「過敏性肺炎」の本質とは?
2020年に発表されたATS/JRS/ALATガイドラインでは、HPは次のように定義されています。
「肺実質や細気管支に生じる炎症性または線維性の疾患であり、
抗原に感受性のある個体が、明らかまたは潜在的に吸入した抗原に対して免疫反応を起こすことが原因」
…ちょっと堅いですね。もう少し噛み砕いてみましょう。
つまり、「過敏性肺炎」とは:
- ある種の抗原(主に生活環境にあるもの)を繰り返し吸い込むことで、
- アレルギーのような免疫反応が肺の中で起こり、
- 炎症や、ひどくなると線維化(肺が固くなる)を引き起こす病気です。
この「抗原」というのが曲者で、カビ・鳥の羽・加湿器の水・仕事で使う化学物質など、日常生活の中に意外と潜んでいるんです。
ここが肝心!分類がガラッと変わった理由
~「時間軸」から「病態」へ、診療の考え方が進化しました~
HPの診断は、これまで世界的に統一された基準がなかったことが大きな課題でした。
この問題に対して登場したのが、2020年に発表されたATS/JRS/ALAT合同ガイドラインです。
ここでは、診断と分類の考え方が大きく見直されました。
昔の分類は「時間軸」ベースだった
従来は、疾患の発症スピードに注目して以下のように分類されていました。
- 急性過敏性肺炎(acute HP):数時間~数日で急に症状が出る
- 亜急性過敏性肺炎(subacute HP):数日~数週間で発症
- 慢性過敏性肺炎(chronic HP):数か月~年単位でじわじわ進行
この分類の弱点は、特に「亜急性」の定義が曖昧だったこと。
また、進行のしかたや予後との関係を必ずしも正確に反映していませんでした。
たとえば日本では、慢性HPの中に:
- 急性の再燃を繰り返しながら慢性化する「再燃症状軽減型」
- 最初から発熱などの症状に乏しく、徐々に進行する「潜在性発症型」
…というサブタイプが存在することがわかってきています。
後者は、特発性肺線維症(IPF)とそっくりなこともあるため、診断が非常に難しいのです。
現在の主流は「病態」に基づいた分類!
2020年のガイドラインでは、より病気の実態や予後を反映するために、以下の2分類が採用されました:
分類 | 概要 |
---|---|
非線維性過敏性肺炎(nonfibrotic HP) | 主に炎症が主体。急性~可逆性の病態。 |
線維性過敏性肺炎(fibrotic HP) | 線維化(肺の硬化)が主体。進行性・予後不良。 |
▼ 図で整理するとこうなります:

過敏性肺炎診療指針2022より引用
それぞれの特徴をもう少し詳しく!
🟢 非線維性HP(nonfibrotic HP):
- 主に急性・亜急性HPが該当
- 抗原曝露との関連が比較的明確
- 画像所見:小葉中心性淡い陰影、すりガラス影、air trapping
- BAL所見:リンパ球増多(一般に40%以上)
- 病理:細胞性間質性肺炎、非壊死性肉芽腫など
→ 抗原回避や治療で可逆的に改善することが多い
非線維性HPは、ある意味で“教科書に載っているような典型的なHP”です。
このタイプでは、抗原曝露との関連が比較的明確なのが特徴です。
どういうことかというと…
たとえば、「加湿器を使った日の夜に咳と発熱が出る」
けれど「加湿器をやめて数日すると症状が自然に改善する」
こんなパターンです。
つまり、「環境要因(抗原)にさらされたあと、症状や画像・検査所見が出現し、それが回避によってスッと良くなる」という、因果関係がわかりやすいんですね。
胸部CTではすりガラス影や小葉中心性の陰影が見られ、BALではリンパ球増多。
症状も発熱・咳・息切れなどが典型的。
そして何より、「抗原から離れるだけで自然軽快することが多い」という点が、非線維性HPの大きなヒントになります。
こうした臨床像に出会ったとき、「これは非線維性HPかも?」とピンとくるかどうかが、若手医師の第一歩です!
🔴 線維性HP(fibrotic HP):
- 主に慢性HPが該当
- 抗原を特定しにくいことが多く、発症様式は潜在的
- 画像所見:牽引性気管支拡張、蜂巣肺、three-density pattern
- BAL所見:リンパ球増多がないこともある(20%以下)
- 病理:気道中心性線維化、慢性線維化性間質性肺炎像
→ 特発性肺線維症との鑑別が必要で、予後も不良なことがある
線維性HPは、非線維性HPと対照的に、診断に最も苦慮するタイプのHPです。
教科書的なパターンとはかけ離れていることも多く、次のような特徴があります:
✔ 「抗原を特定しにくい」ってどういうこと?
この病型では、原因抗原への曝露が長期かつ低濃度であることが多く、
「これが原因だ!」と明確に言えるものがなかなか見つかりません。
たとえば――
「少しずつじわじわ悪化して、月や年の単位でふと気づくと呼吸困難が進んでいた」
「転居や抗原回避をしても、すぐには改善せず、なんとなく横ばいか進行しているようにも見える」
そんなケースが少なくないのです。
✔ 発症様式が“潜在的”なゆえに、診断が難しい
- 胸部CT画像は患者ごとのばらつきが大きく、時にIPFそっくり
- 「three-density pattern」など典型所見が見られないことも多い
- BALでリンパ球増多がみられず、非典型的な結果になることも
- 病理組織でも決め手に欠け、気管支鏡検査だけでは診断がつかないことも
つまり、画像・検査・病理のどれも“典型”じゃないことが多いんです。
✔ さらに厄介なことに…
線維化がある程度進んでしまうと、抗原回避をしても病勢が止まらないことがあります。
このフェーズでは、IPFなどの進行性線維化性間質性肺疾患(PF-ILD)と同様に、抗線維化薬の適応が検討されることもあります。
📝 若手医師へのアドバイス
- 「線維性HP」は“ゆっくり悪化し、典型が出にくい”という性質をまず押さえましょう。
- 「画像がIPFに似てるけど、環境的なヒントが少しでもあるならHPを疑ってみる」
この“疑う姿勢”が非常に重要です。
日本のガイドラインではどう対応している?
2022年に策定された日本呼吸器学会の診療指針では、
この国際分類(非線維性/線維性)を基本としつつも、従来の用語も併用しています。
たとえば:
- 「急性過敏性肺炎」という呼称も引き続き使用
- 「慢性過敏性肺炎」という概念も文献や臨床背景を踏まえて併記
これは、日本に特徴的な夏型過敏性肺炎(Trichosporonが原因)などの臨床像に、従来の分類の方がフィットする場合があるためです。
診断の三本柱:MDDがカギ!
HPは、画像・免疫・病理だけで確定できる疾患ではありません。
必ず「集学的検討(MDD)」を活用すること。
診断は以下の3ドメインから成り立ちます:
① 抗原曝露の証明(最重要)
- 詳細な問診(家屋、職場、趣味、ペットなど)
- 特異IgG抗体(日本で保険適用なのはTrichosporon asahiiと鳥類抗原イムノキャップ)
- リンパ球刺激試験(特に慢性鳥関連HPで有用)
- 必要時は環境調査や誘発試験も考慮
② 胸部HRCT
- 非線維性:すりガラス影、小葉中心粒状影、air trapping
- 線維性:蜂巣肺、牽引性気管支拡張、モザイク・3-density pattern
③ BAL・病理
- BAL:リンパ球↑(非線維性で感度高い)
- 病理:リンパ球主体の細胞性間質性肺炎、非壊死性肉芽腫、細気管支炎など
→ TBLCやVATS生検が必要になることも。
治療の王道は「抗原回避」!
HPの治療は何より抗原の特定と回避に尽きます。
抗原回避の具体例:
- 鳥関連:飼育中止、羽毛製品の廃棄
- 夏型・住居関連:カビ対策、リフォームや転居
- 職業性(農夫肺・塗装工肺):配置転換、防塵対策
- 加湿器肺:加湿器の廃棄(特に超音波型)
薬物療法は補助的、だけど時に不可欠
薬剤 | 用途 | 注意点 |
---|---|---|
ステロイド | 急性型に有効。慢性型でも使用可 | 長期予後改善は不確か |
免疫抑制薬(MMF, アザチオプリン) | ステロイド減量目的 | 保険適用外 |
抗線維化薬(ニンテダニブなど) | PF-ILD様の進行例で有効 | 線維性HPへの適応に留意 |
メッセージ
- 問診力が診断のカギ:職業歴、家屋環境、趣味、季節変動など、聞くべき情報は山ほどあります。
- MDD:画像や検査結果に確信が持てなくても、他職種と議論することで突破口が開けます。
- 抗原回避の支援も治療の一部:患者さんの生活に関わる決断を促すには、丁寧な説明とフォローが不可欠です。
最後に
過敏性肺炎は「見逃されやすく」「難しく」「でも予防可能」な疾患です。
若手のうちから、この疾患の診断とマネジメントのフレームをしっかり身につけておくことで、間質性肺疾患全体の理解が深まります。
最新ガイドラインを読み込み、実臨床で「これはもしやHPか?」と疑えるかどうかが、診療の分水嶺になります。
ちなみに、上記の臨床・画像・病理・治療などについて、今後別記事で掘り下げていきたいと思います。
では!
🧩 項目 | 🟢 非線維性HP(nonfibrotic HP) | 🔴 線維性HP(fibrotic HP) |
---|---|---|
概要 | 教科書的な典型例。 抗原との因果関係がわかりやすく、回避で改善しやすい | 診断が難しい。 慢性的に進行し、線維化が主体 |
定義 | 肺実質と細気管支の炎症が主体 | 肺実質と細気管支に炎症+線維化が進行 |
原因抗原 | 比較的明確(加湿器、鳥、カビなど) | 特定困難なことが多い。曝露が慢性で目立たない |
発症様式 | 急性 or 亜急性。曝露後数時間〜数日で発症 | 潜在的にじわじわ進行。気づきにくい |
臨床像 | 咳、発熱、息切れなどの急性症状。 回避だけで改善することも多い | 乾性咳嗽、労作時呼吸困難など。 進行すると不可逆的な慢性呼吸不全も |
胸部CT | すりガラス影、 小葉中心性粒状影、 air trapping など | 蜂巣肺、 牽引性気管支拡張、 モザイク、 three-density pattern など多彩 |
病理 | 細胞性間質性肺炎 Masson体を伴う器質化肺炎 末梢気腔に泡沫状マクロファージがみられる場合がある 非壊死性肉芽腫 細気管支炎(リンパ球主体) | 慢性線維化性間質性肺炎 線維化優位の病理 気道中心性線維化 架橋線維化(胸膜下と細葉中心部、あるいは細葉中心部の線維化巣をつなぐ線維化) 非典型的で診断困難なことも |
治療 | 抗原回避が基本。 必要時・重症例は短期のステロイド | 抗原回避が基本。 ステロイド±免疫抑制薬/抗線維化薬を検討 |
予後 | 良好。 原因除去で改善することが多い | 不良。 進行すれば抗原回避後も線維化が進行する可能性 |

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