救急外来
救急外来、24歳男性
忘年会 → 店外で失神
めまい・過呼吸、SpO₂ 100%
指導医「(忘年会?急性アル中か?) B先生、ファーストタッチ頼んだぞ!」
研修医B「は、はい!」
—10分後—
研修医B「せ、先生っ!大変です! 一酸化炭素中毒かもです!」
指導医「え?なんで?どこで一酸化炭素を?」
B「お酒飲み過ぎで気持ち悪くなっちゃってぇ
でぇ…過換気かな?って思ったんですけどぉ…
全~然、お酒のニオイ、しなくてぇ…
なんか、甘い焦げくさ~いニオイしてぇ…
どゆことっ?って思ったんですけどぉ…
一緒に来た友人に聞いたらぁ…
店でけっこうシーシャ吸ってたらしくてぇ…
こ、この話っ!『Nスタ』の特集でみたぞ!
って思い出してぇ…」
(もじもじ)
—動脈血分析—
なんと一酸化炭素(COHb)18%!!
(通常0~2%以下)
指導医「末恐ろしすぎるわ!」
解説
一酸化炭素(CO)中毒とは、COを吸入することで、体内が酸素不足に陥る中毒状態をいいます。この中毒は広く知れ渡っていますが、いまだに罹患する方がいます。
メカニズム:
COは、血液のヘモグロビンと酸素の約200倍の強さで結合し、カルボキシヘモグロビン(COHb)を形成します。これにより、ヘモグロビンと酸素の結合が阻害され、結果として酸素が血液で十分に運搬されなくなります。
そのため、酸素を必要とする組織や臓器に十分な酸素が届かず、臓器・組織障害を引き起こします。
なお、肺自体は正常で、SpO₂やPaO₂が正常に見えることがある点が特徴です(本症例もそうです)。
主な症状:
症状は主に組織低酸素によるものです。
初期には、頭痛、めまい、悪心・吐き気、倦怠感が出現し、進行すると意識障害、失神、けいれんなどがみられます。
重症例では昏睡や死亡に至ることもあります。
CO濃度(COHb)と重症度の目安は?
0~2%:正常(非喫煙者)
5~10%:軽い頭重感
10~20%:頭痛、めまい、悪心
20~30%:強い頭痛、集中力低下
30~40%:激しい頭痛、判断力障害
40%以上:意識障害、致死的
発生環境のリスク:
CO中毒は、不完全燃焼によって発生します。
・石油・ガス暖房器具の使用
・換気不良の室内
・車内でのエンジン稼働
・炭・発電機・調理器具の屋内使用
など、燃焼と換気不足が重なる環境が高リスクです。
特に石油ストーブの長時間使用に換気不良が重なったケースが多くみられます。
今回のテーマであるシーシャとは?
シーシャは水たばことも呼ばれ、炭で加熱したタバコを水に通した煙を吸う喫煙器具です。
「水を通すため安全」という誤解がありますが、炭を使用する構造上、多量の一酸化炭素が発生します。
近年のシーシャとCO中毒:
日本でもシーシャ利用後のCO中毒がしばしば報告されています。特に、
・長時間の喫煙
・複数本の連続使用
・換気が不十分な店舗
といった条件が重なると、中毒を起こすことがあります。換気を行うことはもちろん重要ですが、長時間シーシャを吸わないこと自体が重要な予防策です。
治療:
高濃度酸素投与(100%酸素)です。
重症例や神経症状が強い場合には、入院のうえ、高圧酸素療法が検討されます。
予後:多くの場合、適切な治療により回復しますが、数日から数週間後に遅発性神経障害(記憶障害、歩行障害など)が出現することがあります。そのため、軽症に見える場合でも経過観察が重要です。
今回の症例について:
本症例は忘年会シーズンという背景もあり、飲食店から若い男性が失神し、めまいと過換気を主訴に搬送されるという事前情報から、比較的典型的な急性アルコール中毒の臨床像を想起しやすい状況でした。
しかし、実際に診察を進めるとアルコール臭はなく、飲酒量もそれほど多くなかったことにB先生は気づきました。
さらに、甘いような焦げ臭いような独特のにおいに違和感を覚え、救急車に同乗していた友人から発症時の環境要因を丁寧に確認した点が、B先生のお手柄でした。
その結果、シーシャの情報を拾い上げ、最近『Nスタ』で取り上げられていた特集を思い出したことで、早期に診断へと結びつきました。
なお、このB先生は、その後循環器内科に進路を決めた初代B先生とは異なる、最近のB先生です。
本症例は、
若手医療者にむけて、『典型的なエピソードに先入観を持たずに診察すること』『発症時の状況や環境を再確認すること』の重要性を伝えることを目的としています。
今回のエピソードは過去の実例をもとに再現したものであり、掲載している匿名データは類似症例に近い架空データです。
また、本投稿を通じて、CO中毒の予防には、シーシャに限らず、石油ストーブなどの使用時にも適切な換気と正しい使用方法が不可欠であることを強調したいと思います。

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