間質性肺疾患論文紹介統計

有機粉塵への曝露後の過敏性肺炎およびその他の間質性肺疾患のリスク(Iversen IB, et al.Thorax. 2024)

Risk of hypersensitivity pneumonitis and other interstitial lung diseases following organic dust exposure.

有機粉塵は、細菌、真菌、花粉など、微生物、植物、動物由来の粒子で構成されています。1

こうした粉塵への曝露は、農業、木材加工、繊維産業といった職場で多く見られるのですが、2 3
実は職場以外でも鳥やカビなどを通じて曝露が発生する場合があるそうです。4

  • 有機粉塵の中でも、特に注目されるのが「エンドトキシン」です。
  • これはグラム陰性細菌の外膜に存在するリポ多糖であり、吸入により肺内の免疫細胞に作用して炎症を引き起こしうることが知られています。
  • 具体的には、エンドトキシンが主に肺のマクロファージや気道上皮細胞にあるToll-like receptor 4(TLR4)に結合し、核内因子であるNF-κBが誘導され、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-αなど)が放出され、それによって肺の炎症や線維化を促しうることが考えられています。
  • 農業などの現場ではエンドトキシンの濃度が非常に高くなることがあり、特に新鮮な木材粉塵にはカビやエンドトキシンが共存している場合もあるそうです。5
  • さて、この有機粉塵への曝露は、過敏性肺炎(HP)と関連があると言われていますが、特発性間質性肺炎やサルコイドーシスといった原因不明のILDとも関連も示唆されています。
    (HPとIPFの画像鑑別に関する記事はこちらにまとめています。よろしければどうぞ!!)
  • HPの研究は主に小規模研究に基づいており、疫学的な裏付けを得るための研究がまだ不足しています。特発性間質性肺炎やサルコイドーシスに関する疫学研究も、曝露量の定量的なデータが不足しているため、因果関係を評価する上で重要な「曝露反応関係」についての知見が乏しい状況です。
  • そこで今回の研究の目的は、有機粉塵、エンドトキシン、木材粉塵への曝露とHPやその他のILDとの曝露反応関係を、デンマークの一般労働人口を対象としたコホート研究を通じて明らかにすることでした。この研究では、1994年から2015年の約300万人のデータを用いて、大規模な解析が行われています。

この論文を勉強してみました。

背景

有機粉塵は過敏性肺炎と関連があり、他のタイプの間質性肺疾患(ILD)との関連も示唆されている。

我々は、コホート研究において職業的な有機粉塵曝露と過敏性肺炎およびその他のILDとの関連を調査した。

方法

  • 研究対象集団は、1956年以降にデンマークで出生し、1976年以降に少なくとも1年間の有給雇用経験を持つ全住民で構成された。
  • 過敏性肺炎およびその他の間質性肺疾患の発症例は、1994年から2015年のデンマーク国立患者登録データから特定した。
  • 職業曝露マトリックスを用いて、1976年から2015年までの個人ごとの年間有機粉塵、エンドトキシン、木材粉塵への曝露レベルを割り当てた。
  • 異なる曝露指標を用いて曝露と反応の関係を、離散時間ハザードモデル(Discrete-Time Hazard Model)を用いて分析した。

Discrete-Time Hazard Modelとは?

生存分析に使われる統計モデルの一種です。このモデルは、対象者が一定の期間内に特定の事象(アウトカム)を経験する確率(ハザード)を解析します。例えば、特定の曝露を受けた人が「ある年に疾患を発症する確率」を評価する際に用いられます。

連続時間モデルと違い、このモデルは時間を「離散的な区間」(たとえば1年単位)に分けて解析します。そのため、データ収集の間隔が広い場合(例:1年ごとの追跡データ)や、正確な発症時期がわからない場合に適しています。

この論文の変数とアウトカム

  • 曝露変数:有機粉塵、エンドトキシン、木材粉塵曝露
  • 調整変数:年齢、性別、教育水準、喫煙、石綿やシリカへの曝露(累積曝露量として)、抗線維化薬使用歴
  • 時間変数:1年ごとに区切り、時間経過に伴う曝露やリスクの変化を時変変数として扱っています。
  • アウトカム:HPや他のILDの診断

結果

  • 有機粉塵に関しては、累積曝露が増加するにつれてリスクが増加することを観察した。
  • 10単位年あたりの発症率比(IRR)は、過敏性肺炎で1.19(95% CI 1.12~1.27)、その他の間質性肺疾患(ILD)で1.04(95% CI 1.02~1.06)であった。
  • また、エンドトキシンの累積曝露が増加するにつれて、過敏性肺炎およびその他のILDのリスクが増加することが確認された。
  • 5000エンドトキシン単位/m³年あたりのIRRは、それぞれ1.55(95% CI 1.38~1.73)および1.09(95% CI 1.00~1.19)であった。
  • 両曝露において、曝露期間および最近の曝露が増加するにつれてリスクも増加した。一方、木材粉塵曝露に関してはリスクの増加は観察されなかった。

結論

有機粉塵およびエンドトキシン曝露と過敏性肺炎およびその他の間質性肺疾患(ILD)の間に曝露反応関係が観察され、その他のILDに対するリスク推定値はより低いものであった。

この結果は、有機粉塵があらゆるタイプのILDの潜在的な原因とみなされるべきであることを示唆している。

今回の研究では、有機粉塵やエンドトキシンへの曝露がHPやその他のILDにどのように関与しているかを調べています。その結果、有機粉塵やエンドトキシンの累積曝露が増えるほど、これらの疾患リスクが高まることがわかりました。ただし、木材粉塵に関してはリスク増加は確認されませんでした。

  • 今回の研究を見て思ったのですが、エンドトキシンがILDの原因になっている可能性は示唆されていますが、エンドトキシンが多い環境って、そもそも他の有機粉塵もたくさん存在していることが多いですよね。
    だから、必ずしもエンドトキシンが直接の原因だとは言い切れないのかな、と感じました。エンドトキシンは他の粉塵の「マーカー」である可能性もあるわけで、その点は少し慎重に解釈する必要がありそうです。
  • もう一つ気になったのは、私たちが日常診療で「特発性間質性肺炎」と診断している患者さんの中には、実はこういった職業や環境要因が絡んだ「隠れHP」や環境曝露関連のILDが紛れている可能性があるということです。
    この研究を読むと、改めてそういった視点を持つことの大切さを感じますね。問診で職業歴や環境曝露をもっと深掘りする必要があるのかもしれません。
  • 今回の研究は、有機粉塵やエンドトキシン曝露がさまざまなILDの発症リスクに関与している可能性を示唆する、とても重要なデータを提供してくれました。
    HPだけでなく、他のILDにも有機粉塵が関与している可能性を考えることで、予防策をもっと効果的に設計できるはずです。
  • 職場環境の改善や適切な予防対策を強化することで、将来的なILDの負担を軽減できるかもしれません。こうした取り組みが、患者さんの生活の質を守ることにもつながりますよね。

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  1. Douwes J , Thorne P , Pearce N , et al . Bioaerosol health effects and exposure assessment: progress and prospects. Ann Occup Hyg 2003;47:187–200. ↩︎
  2. Basinas I , Sigsgaard T , Kromhout H , et al . A comprehensive review of levels and determinants of personal exposure to dust and Endotoxin in livestock farming. J Expo Sci Environ Epidemiol 2015;25:123–37. ↩︎
  3. Jacobsen G, Schaumburg I, Sigsgaard T, et al. Non- malignant respiratory diseases and occupational exposure to wood dust. part II. Ann Agric Environ Med 2010;17:29–44. ↩︎
  4. Cramer C, Schlünssen V, Bendstrup E, et al. Risk of hypersensitivity Pneumonitis and interstitial lung diseases among pigeon BREEDERS. Eur Respir J 2016;48:818–25. ↩︎
  5. Jacobsen G, Schaumburg I, Sigsgaard T, et al. Non- malignant respiratory diseases and occupational exposure to wood dust. part II. Ann Agric Environ Med 2010;17:29–44. ↩︎

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