Morphine for treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis (PACIFY COUGH): a prospective, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trial. Wu Z, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12(4):273-280.
ILD患者さんへの、咳の管理の重要性が高まっています。
線維化性のILD患者さんにおける咳嗽が疾患進行や予後不良と関連する可能性については別記事にまとめていますので<こちら>からどうぞ。
- 特発性肺線維症(IPF)の患者さんにとって、咳は生活の質を大きく損なう症状ですが、エビデンスに基づく治療選択肢がほとんどないのが現状です。
- これまでモルヒネは、主にIPFにおける呼吸困難の緩和に使用されてきましたが、その咳への効果については試験されたことがありませんでした。1
- しかし、難治性慢性咳を対象とした研究では、低用量の徐放性モルヒネ(5 mgを1日2回投与)が咳スコアを有意に改善することが示されています。
- しかし、間質性肺疾患を抱える患者さんにモルヒネのような薬剤を使用することに、安全性の懸念を持たれる方もいるかもしれませんね。実際どうなのでしょうか?
- そこで、過去の研究を振り返ると、1600人以上を対象とした大規模コホート研究では、オピオイドの使用が死亡率や入院率の増加と関連しないことが報告されています。2低用量でも高用量でも安全性が確認されているのです。
- こうした背景を踏まえ、IPF患者さんの咳に対して低用量の徐放性モルヒネの効果と安全性を評価するために、今回プラセボ対照の二方向クロスオーバー試験が実施されました。
- この試験デザインは、まず参加者を二つのグループに分け、片方のグループには最初にモルヒネを、もう片方のグループには最初にプラセボを投与します。そして、一定期間の治療後に一度治療を中断し、次に各グループの投与内容を逆にして再び治療を行います。これにより、同じ患者さんがモルヒネとプラセボの両方を経験するため、患者さん間のばらつきを最小限に抑えつつ、治療効果を正確に比較できるという利点があります。このデザインは、咳のような主観的な症状を評価する研究において、統計的な検出力を高めるために最適な方法とされています。
- この記事では、IPF患者さんにおけるモルヒネ治療の可能性や実臨床への応用について一緒に考えていきたいと思います。
背景
- 特発性肺線維症は進行性の線維化性肺疾患であり、ほとんどの患者が咳を訴える疾患である。
- 現在、有効性が証明された治療法は存在しない。
- 本研究では、特発性肺線維症患者における鎮咳療法として、低用量の徐放性モルヒネとプラセボを比較したものである。
方法
- PACIFY COUGH研究は、英国の3つの専門医療センターで実施された第2相、多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、二方向クロスオーバー試験である。
- 対象患者は40~90歳で、過去5年以内に特発性肺線維症と診断され、自己申告による咳(8週間以上持続)を有し、咳の視覚的アナログスケール(VAS)スコアが30 mm以上であることが条件である。
- 患者は、プラセボまたは徐放性モルヒネ5 mg(経口、1日2回、14日間)のいずれかを受ける群に無作為に割り付けられ、7日間の休薬期間を挟んで交差するように治療が実施された。
- 治療の順序はコンピュータ生成のスケジュールに基づいて無作為に決定され、患者、研究者、看護師、薬剤担当者は治療割り付けを把握しないようにされた。
- 主要評価項目は、治療14日目における客観的な日中の咳の頻度(1時間あたりの咳数)のベースラインからの百分率変化であり、意図治療集団(無作為化された全参加者)を対象としている。
- 安全性データは、少なくとも1回治験薬を服用し、同意を撤回しなかった全患者を対象に要約した。
- 本研究はClinicalTrials.govに登録され(NCT04429516)、完了している。
測定および主要結果
- 2020年12月17日から2023年3月21日までに47名が適格性評価を受け、44名が登録され無作為に割り付けられた。
- 平均年齢は71歳(標準偏差7.4歳)で、44名中31名(70%)が男性、13名(30%)が女性だった。
- 肺機能は中等度に低下しており、平均努力肺活量(FVC)は2.7 L(標準偏差0.76)、予測FVCは82%(標準偏差17.3)、一酸化炭素拡散能予測値は48%(標準偏差10.9)だった。
- 無作為化された44名中、モルヒネ治療を完了したのは43名、プラセボ治療を完了したのは41名だった。
- Intention-to-treat解析において、モルヒネはプラセボと比較して、客観的な日中の咳頻度を39.4%減少させた(95%信頼区間 -54.4 ~ -19.4、p=0.0005)。
- ベースラインでの平均日中の咳頻度は21.6回/時(標準誤差1.2)であったが、モルヒネ治療では12.8回/時(標準誤差1.2)に減少した。
- 一方、プラセボでは変化が見られなかった(21.5回/時から20.6回/時)。
- 全体の治療遵守率はモルヒネ群とプラセボ群のいずれも98%だった。
- 有害事象はモルヒネ群では43名中17名(40%)に、プラセボ群では42名中6名(14%)に観察された。
- モルヒネの主な副作用は悪心(43名中6名、14%)と便秘(43名中9名、21%)だった。1件の重篤な有害事象(死亡)がプラセボ群で発生している。
結論と意義
- 特発性肺線維症に関連する咳を有する患者において、低用量の徐放性モルヒネは、プラセボと比較して14日間で客観的な咳の回数を有意に減少させた。
- モルヒネは、特発性肺線維症患者の咳を緩和する有効な治療法として期待され、今後の研究では長期的な効果に焦点を当てるべきである。
- IPF患者さんにとって、生活の質を改善し、咳のような頻度が高く日常生活に大きな支障をきたす症状への対処は非常に重要な課題ですね。
- 今回の試験では、低用量徐放性モルヒネ治療を中止した患者さんはわずか1名であり、治療中に実施された安全性評価はおおむね安心できるものでした。
- また、HAD(不安・うつ)尺度では、モルヒネ治療群でスコアの悪化は見られず、モルヒネが患者さんの気分や過度の疲労に影響を与えなかったことが示唆されています。
- ただし、この試験は短期的なものであったため、モルヒネの鎮咳効果がどの程度持続するのか、また長期的な安全性についてはさらなる無作為化比較試験が必要です。
- 以前の記事<こちら>でお話ししたように、ILD患者さんにおける咳嗽による肺の進展刺激は、肺線維化の進行を誘導し、疾患の進行や予後の悪化と関連している可能性があります。
- もしモルヒネの長期的な効果の持続性や安全性が確認されれば、咳の改善によるQOLの向上だけでなく、咳を通じて疾患の進行を抑えたり、予後の改善につながる可能性も考えられます。
- これが本当に実現するかどうかは、今後の研究でぜひ明らかにしてほしいテーマですね。
それではまた!!
- C Kohberg, CU Andersen, E Bendstrup. Opioids: an unexplored option for treatment of dyspnoea in IPF. Eur Clin Respir J, 3 (2016), p. 30629 ↩︎
- S Bajwah, JM Davies, H Tanash, DC Currow, AO Oluyase, M Ekström. Safety of benzodiazepines and opioids in interstitial lung disease: a national prospective study. Eur Respir J, 52 (2018), p. 1801278 ↩︎
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