代謝性アシドーシスに重炭酸ナトリウム(メイロン)を投与すべきか。
実はこの問題、1990年代から35年以上にわたって議論されてきました。
メイロンを投与すればpHは改善します。しかし、それが循環動態や生命予後の改善につながるのかは、長年はっきりしていませんでした。
今回は、2026年のNEJMに掲載されたSODa-BIC試験をきっかけに、これまでの研究を振り返ってみました。
1.1990年代:pHを改善しても循環動態は改善しない?
1990年、Cooperらは乳酸アシドーシス患者14例を対象に重炭酸ナトリウムの効果を検証。
メイロン投与によりpHは改善したが、循環動態やカテコラミンへの反応性については、統計学的に有意な改善なし。
翌1991年のMathieuらの研究でも、pHやHCO₃⁻は改善したが、循環動態や組織酸素化については、統計学的に有意な改善は認められず。
つまり、「pHを改善すること」と「循環動態を改善すること」は別ではないかという疑問が、すでにこの時代から指摘されていたわけです。
2.2018年:BICAR-ICU試験で新たな可能性
2018年、LancetにBICAR-ICU試験が発表。
pH≦7.20の重度代謝性アシドーシス患者389例を対象としたRCT。
全体では、主要評価項目である死亡・臓器障害の複合アウトカムは、
重炭酸ナトリウム群66%、対照群71%で、統計学的に有意な差なし(P=0.24)。
しかし、AKI stage 2~3の患者では、
28日死亡率が46%対63%と、重炭酸ナトリウム群で統計学的に有意に低かったのです(P=0.0283)。
この結果から、重度アシドーシスに高度AKIを合併した患者では、メイロンが有効なのではないかという期待が高まりました。
ただし、これはサブグループ解析の結果であるため、慎重な解釈が必要です。
3.2025年:BICARICU-2試験では死亡率改善を再現できず
2025年、JAMAにBICARICU-2試験が発表。
BICAR-ICU試験で有益性が示唆された、重度アシドーシスとAKI stage 2~3を合併した患者を対象にしたRCT。
主要評価項目の90日死亡率は、
重炭酸ナトリウム群62.1%、対照群61.7%で、統計学的に有意差なし
(絶対差+0.4ポイント、95% CI −7.2~8.0、P=0.91)。
一方、腎代替療法(RRT)の実施率には違いが認められました。

RRT実施率は35%対50%で、重炭酸ナトリウム群で統計学的に有意に低下(絶対差−15.5ポイント、95% CI −23.1~−7.8)。
つまり、死亡率については統計学的に有意な改善が認められなかったものの、RRTの実施率は有意に低下したという結果です。
ただし、この研究は非盲検でした。
RRTは重度のアシデミアを理由に開始される場合もあるため、メイロンでpHが改善したことで、RRT開始を回避・延期できた可能性があります。
それが必ずしも腎機能自体の改善を意味するわけではない、という点には注意が必要ですね。
4.2026年:SODa-BIC試験ではどうだったのか?
そして今回、NEJMにSODa-BIC試験が報告。
これまでの試験とは異なり、pH<7.30で昇圧薬を必要とする患者500例を対象とした、二重盲検RCTです。
主要評価項目は、30日以内の死亡、RRT、持続性腎機能障害からなる複合アウトカム(MAKE)。
結果は、重炭酸ナトリウム群40.2%、プラセボ群39.4%で、統計学的に有意差なし
(調整群間差+1.2ポイント、95% CI −7.1~9.4、P=0.78)。
RRT実施率も、16.8%対20.9%で、統計学的に有意差なし
(調整群間差−3.9ポイント、95% CI −10.6~2.7)。
一方、代謝性アシドーシスの再発率は32.0%対55.7%で、重炭酸ナトリウム群で低下
(調整群間差−23.3ポイント、95% CI −31.4~−15.1)。
ただし、これは多重比較補正を行っていない副次評価項目であり、探索的な結果です。
つまり、メイロンによる酸塩基平衡の改善は確認されたものの、腎関連イベントや死亡率については、統計学的に有意な改善が認められなかったわけです。
ただし、今回のpH中央値は7.26であり、従来の試験より軽度のアシドーシスを含んでいました。重度アシドーシスや高度AKI患者への有益性まで否定されたわけではありません。
5.これまでの研究をまとめると
| 研究 | 対象 | 主な結果 |
|---|---|---|
| 1990~1991年 | 乳酸アシドーシス | pHは改善したが、循環動態の有意な改善なし |
| BICAR-ICU(2018) | pH≦7.20 | 全体の主要評価項目は有意差なし。高度AKIのサブグループでは死亡率が有意に低下 |
| BICARICU-(2025) | pH≦7.20+高度AKI | 90日死亡率は有意差なし。RRT実施率は有意に低下 |
| SODa-BIC(2026) | pH<7.30+昇圧薬投与 | 主要評価項目のMAKEは有意差なし。酸塩基平衡は改善 |
結局、メイロンは使うべきなのか?
2026年のSSCガイドラインでも、敗血症性ショックによる乳酸アシドーシスに対し、循環動態の改善を目的としたルーチン投与は推奨されていません。
一方、pH≦7.20かつAKI stage 2~3を合併する敗血症性ショック患者では、使用が条件付きで提案されています。
つまり、すべての代謝性アシドーシス患者に使うのではなく、重度アシドーシスや高度AKIなど、患者の病態に応じて判断するという考え方ですね。
6.まとめ
約35年間の研究を振り返ると、メイロンによるpHの改善効果は明らかですが、死亡率を統計学的に有意に改善するという一貫したエビデンスは得られていません。
一方、重度アシドーシスと高度AKIを合併した患者では、RRTの実施率が統計学的に有意に低下した研究が報告されています。
今回のSODa-BIC試験も、その流れの中に位置づけられる研究だと思います。
腎臓領域にはあまり詳しくない立場ですが、今回の一連の研究で特に印象に残ったのは、「RRTが減ることは、必ずしも腎機能そのものの改善を意味しない」という点でした。
参考文献
- Cooper DJ, et al. Ann Intern Med. 1990.
- Mathieu D, et al. Crit Care Med. 1991.
- Jaber S, et al. BICAR-ICU. Lancet. 2018.
- Jung B, et al. BICARICU-2. JAMA. 2025.
- SODa-BIC Investigators. N Engl J Med. 2026.

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