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肺癌や悪性腫瘍論文紹介

オシメルチニブ耐性後のMET異常をどう攻めるか?―SAFFRON第III相試験

Lu S, et al. Osimertinib–Savolitinib in Advanced NSCLC after Progression during EGFR-TKI Therapy. N Engl J Med. 2026.
日本語タイトル:EGFR-TKI治療中に増悪した進行NSCLCに対するオシメルチニブ+サボリチニブ
DOI:10.1056/NEJMoa2611335

SAFFRON試験は、オシメルチニブ耐性後の腫瘍組織を再生検し、MET異常を確認した患者に対する治療効果を検証した試験

さて、この結果はオシメルチニブ耐性後の二次治療以降の選択に、どのような影響を与えるのか?

最近、肺癌関連のRCTの結果が気になるので、お勉強。
個人的な感想や解釈が含まれるので間違いなどがあればご容赦を。
ぜひ原文も読んで判断してくださいね。

はじめに

参考:日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン2025年版」では、EGFR-TKI耐性・増悪後の治療として以下が挙げられています。

治療レジメン推奨
カルボプラチン+ペメトレキセド+アミバンタマブ弱く推奨(2B)
カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+アテゾリズマブ弱く推奨(2B)
プラチナ製剤+ペメトレキセド従来からの基本的な化学療法選択肢

EGFR遺伝子変異陽性の進行NSCLCでは、オシメルチニブが治療の中心となっていますが、最終的に耐性が生じます。

耐性機序の一つが、METシグナル経路の活性化です。

METは細胞増殖・生存に関わる受容体型チロシンキナーゼであり、EGFRを阻害してもそこを迂回してMET経路を介して腫瘍細胞が生存する可能性があります。

実際、オシメルチニブ耐性後のMET遺伝子増幅は約7~18%で報告。

そこで考えられるのが、EGFRとMETを同時に阻害する戦略。

サボリチニブは選択的MET阻害薬で、先行するSAVANNAH試験ではオシメルチニブとの併用による抗腫瘍効果が示されました。

また、中国で行われたSACHI試験でもPFS延長が報告されています。

今回のSAFFRON試験は、この併用療法を従来のプラチナ製剤+ペメトレキセドと直接比較した国際共同第III相試験です。

背景・目的

EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌(NSCLC)では、オシメルチニブによる治療後に獲得耐性が生じる。

MET過剰発現やMET遺伝子増幅は代表的な耐性関連異常である。

本研究では、オシメルチニブ治療中に増悪したMET異常陽性NSCLCに対して、オシメルチニブとMET阻害薬サボリチニブの併用療法が、プラチナ+ペメトレキセド療法より有効かを検証した。

方法

国際共同、非盲検、第III相ランダム化比較試験。

EGFR遺伝子変異陽性の局所進行・転移性NSCLCで、オシメルチニブ治療中に増悪し、MET過剰発現(IHC 3+が腫瘍細胞の90%以上)、MET遺伝子増幅(FISHで10コピー以上)、または両者を認める患者を対象。
→再生検してる。

338例を1:1で以下に割付。

  • オシメルチニブ80 mg/日+サボリチニブ300 mg 1日2回群
  • プラチナ+ペメトレキセド群

主要評価項目は盲検独立中央判定による無増悪生存期間(PFS)である。

結果

  • 1746例がスクリーニングされ、338例がランダム化(併用群171例、化学療法群167例)。
  • 併用群ではPFSが有意に延長(HR 0.55、95%CI 0.42–0.72、P<0.001)。
  • PFS中央値は7.6か月対5.4か月。
  • 12か月PFS率は36%対10%。
  • 全生存期間(OS)も併用群で有意に延長(HR 0.68、95%CI 0.50–0.91、P=0.01、最終解析)。
  • OS中央値は17.8か月対12.9か月。
  • 12か月OS率は70%対53%。
  • 併用群で頻度の高い治療中有害事象は、末梢性浮腫49%、貧血26%、下痢26%であった。
  • Grade 3以上の治療中有害事象は、併用群64%、化学療法群63%であった。

結語

オシメルチニブ治療中に増悪したMET過剰発現またはMET増幅陽性のEGFR遺伝子変異陽性進行NSCLCにおいて、

オシメルチニブ+サボリチニブ併用療法は、プラチナ+ペメトレキセド療法と比較してPFSおよびOSを有意に延長した。


感想です。

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研究方法(Methods)

対象患者と治療

対象は、EGFR exon 19 deletionまたはL858Rなどの変異を有し、オシメルチニブ投与中に増悪した患者。

ECOG PSは0~1で、安定した脳転移は許容。

  • 併用群(171例): オシメルチニブ80 mg 1日1回+サボリチニブ300 mg 1日2回
  • 化学療法群(167例): シスプラチンまたはカルボプラチン+ペメトレキセドを3週間ごとに4サイクル、その後ペメトレキセド維持療法

試験期間中の群間クロスオーバーなし。

MET異常の定義が重要

本試験では、増悪後の腫瘍組織を用いて、中央検査で以下を判定。

  1. オシメルチニブ治療中に病勢進行を確認
  2. スクリーニング時に腫瘍組織を採取(再生検)
  3. 中央検査でMET IHCおよびFISHを実施
  4. MET過剰発現(IHC 3+の染色強度を示す腫瘍細胞が90%以上)またはMET増幅(FISH ≥10コピー)を確認
  5. 適格基準を満たした患者をランダム化

評価項目と統計解析

主要評価項目は、盲検独立中央判定によるPFS。

副次評価項目はOS、MET過剰発現集団のPFS、安全性。

PFSの比較には、治療ライン、脳転移の有無、人種で層別化したlog-rank検定とCox比例ハザードモデルを採用。

また、階層的多重検定を採用しています。
これは複数の評価項目を検証する際、偶然の有意差が増えることを防ぐ方法ですが、最近こういう検定が多い気がしますね。

OSは事前に設定された有意水準に基づいて正式に検定されており、探索的解析で偶然有意差が出たものではありません。

研究結果

① 患者背景

患者の年齢中央値は両群64歳、女性は約65%、アジア人は約3分の2。

組織型はほぼ全例が腺癌で、31%に脳転移。

MET過剰発現は242例(72%)、MET増幅は245例(72%)に認められ、151例(45%)では両者が陽性。

② 主要評価項目:PFSは有意に延長

評価項目併用群化学療法群
PFS中央値7.6か月5.4か月
中央値の95%CI5.6–9.74.2–5.8
12か月PFS率36%10%
12か月率の95%CI28–44%6–17%

HR 0.55(95%CI 0.42–0.72、P<0.001)

③ OSも有意に延長

評価項目併用群化学療法群
OS中央値17.8か月12.9か月
中央値の95%CI15.6–23.710.6–16.8
12か月OS率70%53%
12か月率の95%CI62–76%44–61%

HR 0.68(95%CI 0.50–0.91、P=0.01)

事前に定められた有意性の基準を満たしており、このOS解析は正式な最終解析と位置づけられています。

④ MET過剰発現・増幅別の結果

MET過剰発現集団では、PFS中央値が8.5か月対5.6か月。
HR 0.51(95%CI 0.37–0.71、P<0.001)。

MET増幅集団でも、PFS中央値は7.6か月対4.2か月。
HR 0.48(95%CI 0.35–0.66)で、併用群に良好な結果。
ただし、こちらは正式な多重検定の対象外。

OSについては、MET過剰発現集団でHR 0.74(95%CI 0.51–1.08、P=0.122)。
有意差なし。

一方、MET増幅集団ではHR 0.55(95%CI 0.38–0.77)。

したがって、METの発現・増幅状態によって治療効果が異なる可能性はあるか。

⑤ 奏効率と奏効期間

盲検独立中央判定による確認済み奏効率は、
併用群51%(88/171例)、化学療法群27%(45/167例)、OR 2.90(95%CI 1.85–4.61)。

病勢制御率は85%対65%(OR 3.18、95%CI 1.88–5.50)

奏効期間中央値は9.7か月対5.7か月。

腫瘍縮小効果と奏効の持続性についても、併用群で良好な結果。
ただし、これらの副次評価については多重性調整なし。

⑥ 安全性:重篤な有害事象には注意

有害事象併用群化学療法群
Grade 3以上の治療中AE64%63%
重篤な治療中AE41%28%
AEによる治療中止14%8%
死亡に至った治療中AE7%0%
Grade 3以上の治療関連AE40%52%

併用群では末梢性浮腫49%、貧血26%、下痢26%が多く、Grade 3以上のpneumonitisは4例(2%)。

注意したいのが、死亡に至った治療中AEが併用群で12例報告された点ですね。
ただし、そのうち9例では病勢進行が確認されていたか、NSCLCが死因に関与していました。

Grade 3以上のAEが同程度だからといって、安全性も同等と判断することはできません。

また、併用群は治療曝露期間が長いため、単純な発生割合の比較にも注意が必要。

この論文の臨床的意義

今回の結果で注目したいのは、オシメルチニブ耐性後に組織再生検を行い、耐性機序に基づいて治療を選択することの意義です。

従来、オシメルチニブ耐性後は化学療法が治療選択肢の中心でしたが、MET異常を確認できれば、分子標的治療を継続する新たな可能性が示されました。

また、実臨床では再生検が難しい患者もいます。MET検査の方法、陽性基準、検体の確保が、治療選択における重要な課題になるでしょう。

考察

先行するSAVANNAH試験やSACHI試験と方向性が一致しており、今回のSAFFRON試験では、化学療法との直接比較でPFSだけでなくOSの有意な延長まで示された点が重要ですね。

また、本試験ではMET過剰発現のみ、MET増幅のみを認める患者も含まれています。両者は必ずしも一致しないため、MET異常を適切に評価するには、IHCとFISHを併用することが有用かもしれません。

さて、現在の日本では、オシメルチニブ耐性後の二次治療として、MARIPOSA-2試験に基づくアミバンタマブ+化学療法が推奨されています。

一方、今回のSAFFRON試験では、オシメルチニブ耐性後にMET過剰発現またはMET増幅を認める患者において、オシメルチニブ+サボリチニブ併用療法が、プラチナ+ペメトレキセド療法と比較してPFSおよびOSを有意に延長しました。

比較項目MARIPOSA-2試験SAFFRON試験
対象オシメルチニブ耐性後のEGFR変異陽性NSCLC同左、かつMET異常陽性
MET異常による患者選択なしあり(IHCまたはFISH)
試験治療群アミバンタマブ+CBDCA+PEMオシメルチニブ+サボリチニブ
対照群CBDCA+PEMCBDCAまたはCDDP+PEM
対照群の導入療法3週ごと、4サイクル3週ごと、4サイクル
対照群の維持療法PEM単剤PEM単剤
PFS中央値6.3 vs 4.2か月7.6 vs 5.4か月
PFS HR(95%CI)0.48(0.36–0.64)0.55(0.42–0.72)
OS中央値17.7 vs 15.3か月17.8 vs 12.9か月
OS HR(95%CI)0.73(0.54–0.99)0.68(0.50–0.91)
OSの正式な有意差第2回中間解析では未達あり(P=0.01)
確認済み奏効率64% vs 36%51% vs 27%

注:この表の解釈で重要なのは、対照レジメンが類似していても、患者集団が異なること。 SAFFRONではMET過剰発現・増幅陽性例だけを選択しているため、両試験のHRや中央値を単純に比較して、アミバンタマブとサボリチニブの優劣を判断することはできません。

ただし、アミバンタマブもEGFRとMETの両方を標的とする薬剤であり、MARIPOSA-2試験の探索的解析では、MET増幅例でも有効性が示唆されています。したがって、MET異常陽性例において、どちらのレジメンが優れているかは現時点ではわかりません。

また、SAFFRON試験はオシメルチニブ耐性後の患者を対象としており、一次治療でアミバンタマブ+ラゼルチニブを使用した患者に対する有効性は検証されていません。

つまり、今回の結果は、既存のアミバンタマブ併用化学療法に代わる標準治療を確立したというより、オシメルチニブ耐性後のMET異常陽性患者に、新たな治療選択肢を提示したものと考えられます。

今後、国内で使用可能となれば、細胞傷害性化学療法を避けたいという患者さんの希望や、それぞれの有害事象プロファイルなどが治療選択の判断材料になるかもしれません。

論文の限界

著者が述べている限界

  • 非盲検試験: 治療割付の認識が診療や治療継続の判断に影響した可能性があります。ただし、PFSは盲検独立中央判定を採用しており、バイアスの軽減が図られています。

追加で考えられる限界

  • 一般化可能性: ECOG PS 0~1の患者が対象であり、PS不良例や合併症の多い患者に同様の有効性・安全性が得られるかは不明。
  • MET陽性基準: 高いIHC・FISHカットオフを使用しており、低レベルのMET異常には適用できないかも。
  • サブグループ解析: MET過剰発現群とMET増幅群の結果を比較して、治療効果の差を確定できるだけの検証にはなっていない。

今後検証すべき臨床的疑問

今回の結果を踏まえると、今後検証すべき疑問は次の4つ?

  1. MET異常陽性患者では、どちらの治療が優れているのか?
    オシメルチニブ+サボリチニブとアミバンタマブ+化学療法を直接比較した試験はない。
  2. MET異常の種類や程度によって、治療効果は異なるのか?
    IHCによるMET過剰発現、FISHによるMET増幅、あるいは両者陽性といった違いは影響するか?
  3. 両レジメンをどの順番で使用すべきか?
    オシメルチニブ+サボリチニブ後のアミバンタマブ+化学療法、あるいはその逆の治療シークエンスについてエビデンスなし。
  4. 一次治療でアミバンタマブ+ラゼルチニブを使用した患者にも有効なのか?
    一次治療でEGFRとMETを同時に標的とした後でも、オシメルチニブ+サボリチニブが有効なのか?

まとめ

  • SAFFRONは、オシメルチニブ耐性後のMET異常陽性EGFR変異NSCLCを対象とした国際共同第III相試験。
  • 上記患者は組織の再生検で確認。
  • オシメルチニブ+サボリチニブは、化学療法に対してPFS(HR 0.55)とOS(HR 0.68)の両方を有意に延長。
  • 奏効率も51%対27%と高く、バイオマーカー選択治療としての有効性が支持された。
  • 一方、重篤な有害事象や死亡に至った治療中AEには注意が必要。
  • MET検査の適切な実施と、新しい治療選択肢との位置づけが今後の課題。

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