間質性肺疾患論文紹介肺高血圧

間質性肺疾患に伴う肺高血圧症に対する吸入トレプロスチニルの長期使用:INCREASEオープンラベル延長試験(Waxman A, et al. Eur Respir J. 2023.)

Increase試験は16週の短期的な試験でしたが、その長期試験の結果も気になりましたので勉強してみました。Long-term inhaled treprostinil for pulmonary hypertension due to interstitial lung disease: INCREASE open-label extension study.

INCREASE試験については別の記事で取り上げていますが、ILD+PH患者を対象に吸入型トレプロストの安全性および有効性を評価したランダム化臨床試験です。1
この試験では、吸入型トレプロストの16週目における6分間歩行距離の改善という主要評価項目を達成しました。

注目すべきことに、この試験ではいくつかの副次評価項目も達成されています。
以前の記事で取り上げたように、吸入トレプロストニルのFVC改善効果 臨床的悪化イベント減少とも関連する可能性が報告されています。

トレプロストニルは、プロスタサイクリンの安定した類似体であり、肺および全身動脈血管床の直接的な血管拡張を促進し、血小板凝集を抑制します。2

吸入型トレプロストは、本邦ではPHやILD-PHの治療薬として承認されています
(ただし、WHOの1群での有効性・安全性は確立していないとされています。)

ICREASE試験は、吸入型トレプロストの16週までのデータだったので、長期的使用での安全性や有効性についても評価する必要がありました。
今回のオープンラベル延長試験(OLE)は、INCREASE試験参加者の実薬群とプラセボ群に対し、吸入トレプロストニルを継続または開始し、追加で108週かFDA承認までの観察が計画されました。

すなわち、[RCTでトレプロスチニル→OLEでトレプロスチニル群] vs. [RCTでプラセボ→OLEでトレプロスチニル群]の比較です。

この試験についても勉強したいと思います!

はじめに

16週間の無作為化プラセボ対照試験であるINCREASE試験(INCREASE RCT)では、吸入トレプロスチニルを受けた間質性肺疾患に伴う肺高血圧症(PH-ILD)の患者の6分間歩行距離(6MWD)が改善し、主要評価項目を達成した。

今回のオープンラベル拡張試験(OLE)では、PH-ILD患者における吸入トレプロスチニルの長期的な効果を評価した。

方法

  • 258人の適格患者のうち242人がINCREASE OLEに参加し、吸入トレプロスチニルを投与された。
  • 評価項目には、6MWD、肺機能検査、NT-proBNP、QOL、および有害事象が含まれた。
  • また、入院、背景のILDの増悪、および死亡が記録された。

結果

  • INCREASE OLEのベースライン時点で、患者の中央値年齢は70歳、平均6MWDは274.2 mで、52.1%が男性だった。
  • 全体の平均6MWDは52週目で279.1 m、INCREASE RCTのベースラインからの平均変化量は3.5 mだった(吸入トレプロスチニル群では22.1 m、プラセボ群では-19.5 m)。
  • 中央値のNT-proBNPはRCTのベースラインで389 pg/mLから64週目で359 pg/mLに減少した。
  • RCTベースラインから64週目までの  平均FVCの絶対変化量 (% predicted) は51 mL(2.8%)だった。
  • RCTで吸入トレプロスチニルを受けた患者は、プラセボ群に比べてOLE期間中に背景ILDの増悪の相対リスクが31%低かった[ハザード比0.69(95%信頼区間0.49-0.97);p=0.03]。
  • 有害事象により薬剤の中止に至った患者は54人(22.3%)だった。

結論

これらの結果は、PH-ILD患者における吸入トレプロスチニルの長期的な安全性と有効性を支持するものであり、INCREASE RCTで観察された結果と一致している。

今回の延長試験では、[RCTでトレプロスチニル→OLEで吸入トレプロスチニル群] vs. [RCTでプラセボ→OLEでトレプロスチニル群]の比較であり、初めからずーっと実薬の群 vs. 初めからずーっとプラセボ群の比較にはなっていないので、解釈には注意が必要ですね。

しかし、52週の時点で6MWDやFVCが維持されたことや、RCTでトレプロスチニルだったことが急性増悪発生リスク低下と関連したことは興味深かったです。

死亡率に関しては有意差はありませんでしたが、上記の試験デザインやサンプルサイズ、観察期間の短さが影響したかもしれません。

今後はさらにリアルワールドでのデータ解析、特に長期予後に関する解析が必要だと思います。

  1. Waxman, A ∙ Restrepo-Jaramillo, R ∙ Thenappan, T ∙ et al. Inhaled treprostinil in pulmonary hypertension due to interstitial lung disease. N Engl J Med. 2021; 384:325-334 ↩︎
  2. Whittle BJ, Silverstein AM, Mottola DM, Clapp LH. Binding and activity of the prostacyclin receptor (IP) agonists, treprostinil and iloprost, at human prostanoid receptors: treprostinil is a potent DP1 and EP2 agonist. Biochem Pharmacol 2012;84:68-75. ↩︎

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