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間質性肺疾患肺癌や悪性腫瘍論文紹介

抗線維化薬は肺癌発症率を減らす?Part 2──重要論文かと思いきや、強烈なimmortal time biasが!

重要論文かと思って読んだのですが、思いっきり強烈な immortal time bias があると思われます。Thorax でも見抜けなかったのか……とても残念な気持ちです。

Antifibrotic therapy and lung cancer risk in patients with idiopathic pulmonary fibrosis: a large retrospective propensity-weighted cohort study. Kijlertsuphasri S, et al. Thorax. 2026.

以下上記の論文から引用します。

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はじめに

IPFは進行性の線維化性肺疾患で、最終的には呼吸不全に至りうる疾患ですね。

生存期間が平均2.5〜5年程度とされる中で、肺癌(LC)を合併するとさらに予後が悪化します。

抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)がIPFの治療の柱になっていますが、「線維化を抑える薬が、肺癌の発症も減らすのでは?」という仮説が出てきています。

これまでに抗線維化薬(AF)と肺癌リスクの関連を見た研究は限られており、研究デザインや対象薬(ピルフェニドンのみ/両薬含む)などにバラツキがあります。

そこで本研究は、Mayo Clinicの多施設・長期間(2005–2022)のデータを用いて、抗線維化薬(AF)治療と肺癌発症の関連を、傾向スコア重み付けおよび競合リスク解析により検討した研究です。

ただし実際に論文をチェックすると、曝露群の定義上、典型的な immortal time bias が生じうる設計であることがわかります。

そのため、抗線維化薬による肺癌リスク低下効果は、過大に見積もられている可能性が高く、結果の解釈には十分な注意が必要です。

この点については、後ほど詳しく解説します。

過去の immortal time biasに関する記事はこちら。>

背景

抗線維化薬(antifibrotic:AF)治療は、特発性肺線維症(IPF)患者における肺癌(lung cancer:LC)リスクを低下させる可能性が示されている。

本研究は、実臨床コホートにおける患者レベルデータを用いて、AF使用とLC発症の関連をさらに評価するものである。

方法

2005年から2022年にMayo ClinicでフォローされたIPF患者を対象とする多施設・後ろ向きコホート研究を行った。

抗線維化薬導入前時代(pre-AF)および導入後時代(post-AF)における、IPF診断後に新規に診断されたLC症例を同定した。

AF使用は、LC診断前に6か月以上連続してAF治療(ピルフェニドンまたはニンテダニブ)を受けていることと定義した。

AFが広く利用可能となる以前のLC症例も含まれ、さらに治療曝露群と非曝露群に差がある可能性があるため、逆確率治療重み付け(inverse probability of treatment weighting:IPTW)を用いた傾向スコア解析で比較群のバランスを調整した。

LC発症のリスク因子探索には、競合リスク(死亡)を考慮するFine and Grayモデルを用い、パラメータとして部分分布ハザード比(subdistribution hazard ratio:SHR)を報告した。

結果

IPF患者3313例を解析に含めた(治療あり1161例、治療なし2152例)。

post-AF時代において、治療群のLC発症率は非治療群より低かった(100人年あたり0.34 vs 1.25、p<0.001)。

IPTW後、治療群2148例と非治療群2167例を比較した。

AF治療はLCリスク低下と独立して関連していた(SHR 0.36[0.16–0.82]、p=0.02)。

一方で、喫煙歴およびより高い努力性肺活量(FVC)がLCリスク増加と関連していた。

結語

AF使用は、IPF患者におけるLCの発症率およびリスクの低下と関連している可能性がある。


勉強したいと思います!!

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曝露群・非曝露群の定義

ここが本研究で最も重要なポイントです

曝露群(antifibrotic group)

本研究における曝露群とは、

肺癌診断前に、抗線維化薬(ピルフェニドンまたはニンテダニブ)を「連続6か月以上」使用していたIPF患者

と定義されています。

ここで重要なのは、
「抗線維化薬を開始した」だけでは曝露群にならないという点ですね。

抗線維化薬を開始しても6か月間、肺癌を発症せず、かつ生存し続けた患者のみが、初めて曝露群に分類されます。

つまり曝露群は、少なくとも6か月間は肺癌を起こさなかったことが保証された集団という構造になっています。


非曝露群(non-antifibrotic group)

一方、非曝露群は、

肺癌診断前に抗線維化薬を6か月以上連続使用していなかった患者すべて

と定義されています。

この中には、

  • 抗線維化薬を全く使用していない患者
  • 抗線維化薬を使用したが、6か月未満で中止した患者
  • 抗線維化薬が存在しなかった pre-AF時代の患者

がすべて含まれます。

つまり非曝露群は、背景や治療状況が大きく異なる患者が混在した、非常にヘテロな集団です。


結果のまとめ

  • 肺癌発症率
    AF群:0.34 /100人年
    非AF群:1.25 /100人年
  • IPTW後の競合リスク解析
    AF使用:SHR 0.36

と、「抗線維化薬使用は肺癌リスク低下と関連する」と報告されています。

数字だけを見ると、かなりインパクトがあります。

しかし、この結果を因果的に解釈してはいけません。


なぜならimmortal time bias が強くかかっているからです

曝露群は「6か月間、肺癌を起こさないこと」が前提

この研究では、

  • 抗線維化薬を6か月以上使用できた患者だけが曝露群
  • その6か月の間に
    • 肺癌を発症した
    • あるいは死亡した

患者は、原理的に曝露群に入ることができません

つまり曝露群には、

「少なくとも6か月間は肺癌を発症しなかった患者」

しか存在しない構造になっています。


非曝露群には「早期に肺癌を発症した患者」が含まれる

一方、非曝露群には、

  • IPF診断後、比較的早期に肺癌を発症した患者
  • 抗線維化薬開始前、あるいは開始後6か月未満で肺癌を発症した患者

が、そのまま含まれます。


その結果、何が起こるか?

これは典型的な immortal time bias です。

  • 曝露群には肺癌を起こさないことが保証された「6か月間」が最初から上乗せされている
  • 非曝露群にはその保証期間が存在しない

その結果、曝露群は、構造的に肺癌を起こしにくく見えてしまう方向にバイアスがかかります。

なお、このバイアスはIPTWやFine–Gray解析では解消できません。




この論文の「急所」

本研究で最も大きな問題点は、曝露群が「6か月間、肺癌を発症しないこと」を前提に定義されていることです。

その結果、曝露群に6か月分、有利な状況が生まれてしまう、典型的なimmortal time biasが発生しています、

また、この論文では、

  • immortal time bias に関する言及
  • 曝露を時間依存変数として扱う解析
  • 6か月ランドマーク解析

はいずれも行われていません。


論文の臨床的意義

ということで、本研究から言える臨床的メッセージは、以下のレベルに留めるのが妥当です。

典型的な immortal time bias を伴う設計であり、抗線維化薬が肺癌を予防するかどうかは、この研究からは判断できない。

ち~~ん

過去の immortal time biasに関する記事はこちら。>

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